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 ちょっと洒落たレストランで彼と食事を取り、トイレに行ってくると彼は席を離れた。その時彼は携帯を置いていった。それが駄目だった。


 別に見るつもりなど無く、私は自分の携帯をいじってたわけなのだが、ふと彼の携帯に目をやると、画面には知らない女からの熱いラブコールが表示されていた。それはもう一目で肉体関係があると分かるレベルのエロス全開のメッセージだった。ここまでハートの絵文字を多量するのも珍しいと少し感心してしまった。


 それを見た瞬間、私の心は一気に冷めた。目も覚めた。私は彼の携帯の画面が見えないようにそっと裏返すと、静かに待った。


 彼がトイレから戻ってくると、私はさっき見たことは何も言わず普段通りに接した。帰りに彼は私の事をそのまま誘ったわけだが、適当な理由をつけて断った。


 そして今度は私の方が彼の誘いを断るようになった。まず会うことは無くなった。連絡のやり取りもかなり素っ気なくなった。いっそ大量のハートの絵文字を使ってやろうかと思ったりもした。


 彼に私の見た物を追及しようなどとは思わなかった。メッセージの内容からして相手が非常に面倒くさいことは分かりきっていた。目に見える地雷だった。それに、あの発見で少なからず良かったと思ってしまった自分がいた。


 私は彼と別れたかったのだ。でもそれを認めたくない私もいたのかもしれない。だからこそ理由が欲しかったのだ。別れるべき理由が。迷いを断ち切ってほしかったのだ。だからこそ彼の浮気は私の一部を救ってくれたといえた。


 彼の浮気を知ったところで私は泣くことも無く、悔しいと思うこともなかった。私の本心を理解するのにはそれだけで十分だった。


 誘いを断るようになったものの、別れようとは言わなかった。正確には言いたくなかった。もし私から言ったら彼にとっては都合が良いだけだし、何か気に食わなかった。だから彼に別れようと言われるのをひたすら待った。決して会うことは無く、遂には連絡すら取らなくなった。彼も察したようだった。


 そして冬になった。それはすなわちクリスマスイブの到来を私に伝えた。はっきり言って彼との関係はもう無くなり、自然消滅していたのだが、決着をつけていなかった以上もやもやとした気分がクリスマスの事を思う度に濃くなって私の心を支配した。






 それがどうしても嫌になった私はプライドを捨て、遂に彼を喫茶店に呼び出したのだった。


 大体思い出した後、大きな溜め息を一つ吐き出した。不思議と緊張はなかった。これで終われる。そう思うときは楽だった。間もなく彼はやってきた。


「久しぶり」


「うん…」


 彼の挨拶に対して私は目も合わせなかった。何か言うわけでもなく、メニューを取ろうとすると彼は私の手を制した。


「いいよ、水で」


 地さな声で「そう」と言うと私はメニューを戻した。彼も私も何を言うわけでもなく座っていた。いざ本人を目の前にすると、中々切り出せなかった。そして口を開いたのは彼の方だった。


「それ、ブラック?」


 彼は私が飲んでたドリップコーヒーをまじまじと眺めながら聞いてきた。


「え…?まあ…」


「飲めるようになったんだ」


「……うん」


 私はカップの中のコーヒーをじっと見つめていた。そこに映る私は二年前の私とは違ったように見えた。それから一度目を瞑り、頭の中で言おうとしてたことを整理した。「大丈夫」心の中で呟いておいた。


 意を決した私はコーヒーを一口飲むと、彼に告げるのだった。


 私の口の中はコーヒーの苦みで満たされていた。
























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