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春が来る
女の子は笑ってうなずくと、またねと言わんばかりに手を振って帰って行きました。
おばあさんは、かがめた腰を元に戻すと、綿毛になったタンポポをみつめ、息を吹きかけて飛ばしました。
宙に舞う綿毛をぼんやり見つめながら、つぶやきます。
「春がすぐそこまで来てるね。そろそろ引っ越さなきゃ。」
おばあさんは音もなく、静かに消えました。
ジリリリリリー。
誰もいない家の中、電話の音だけが響きわたります。
ジリリリリリー。
ドタバタと廊下を走る音が聞こえて、女の子が受話器をとります。
「はい、春子です。え?冬に戻して欲しいだって?」
女の子はニコリと笑ってこう言いました。
「今、おばあさんは出かけてるの。また今度、電話してね。」
ガチャリ。
受話器を置くと、またドタバタと部屋の奥へと消えて行きました。
可愛らしい笑い声を、静かに残して。




