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Calender_Girl  作者: 深町珠
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.....そうは思ったが、それを

どう伝えたらいいものか迷った。

全てが仮説だからだ。



ミーティングの時間は終わり。

僕らは、仕事の時間に戻る。




そうなると、なかなかプライバシーを

守れるような場所も、研究室には少ない。



とりあえず、何か、差し障りの無い程度に

メッセージを伝えておこうと思い

メールを送った。



僕>ソフトの仕事、大変だから

頑張りすぎないでね。

何かあったら、力になれると思うから

僕でよかったら連絡を下さい。



と、自分のメール・アドレスと電話番号を

記しておいた。



これをどう受け取ったかは知らない。


返答は....


その子>大変かな、ってちょっとびびってます。

今、将来がまったく見えていない状況なので....

でも、なんとか頑張ってみます。

困ったら頼ってしまうかもしれませんけれど。


と、あった。




その日の午前中は、そんな感じで終わり。

午後は、また、月例報告会で

彼女の顔を見る事になる....。






-----

今、将来がまったく見えていない状況なので

でも、なんとか頑張ってみます。

-----




僕は、お昼を711会議室でひとりで頂きながら

快晴の富士山のシルエットを眺めつつ

さっきのメールの文面を反芻していた。



なんとなく、既視感のような....。

記憶を辿る。


似たようなメールを貰ったことがあった。

あれは...そう。母と同じ名前の。


インディーズ・サークルで一緒にCDを作った。

不幸にして、フィアンセと上手くいかなくなった、あの子だ。




その時、励ましのメールを送った。

その返事が、あんな感じだったような...。



...と、類推したくなるのは希望的観測と言うものだろうと

僕は客観視した。


たぶん、深い意図はなく、単純に長期的な展望で仕事が得られない、と

言う事を言っているのだろう、と解釈する事にした。



広い711会議室。

ここで良く会ったっけ。チーム・ミーティングの時に。

まだ、それほど親しくなかった頃の事を僕は回想した。


...なんか、ぎこちないヘンな子だったなぁ。膝掛けをいつも持ってて。



痩せぎすで細面、眼鏡で小柄、割と攻撃的な言動....と




随分妙な子だったけど、変わったな。

僕は、その頃のことをを思い出していた。




月例報告会は、午後2時から。

お昼を終えた僕は、すこし711会議室で昼寝してから

書類を揃えて、実験室の一角にあるディスカッション・スペースに向かった。



でも、意識はさっきのメールのことを考えていた。



あれで、意図を理解してくれているといいんだけど...。




さりげなく、月例報告会は始まった。

部課長も出席する、割とハードな会議だが

僕はフリーランスだし、割とのんびりと

趣味の文芸とか、LEDヘッドランプの制御回路設計なんかをして

楽しんでいた。



ほとんど書類の棒読みで終わる会議だ。


僕は、ふと、窓の外の方を見ようとすると

皆、俯いて書類を読む振りをしているのに


ひとりだけ、顔を上げてこちらをみている彼女に気づく。

薔薇色の微笑み、輝く瞳。


神々しいような美、を感じた。大袈裟なようだが、実感である。


光学的な実像に、幻想的なイメージが彩りを与え

やや耽美な修飾を与えた、と云う感じで

幼い気な少女、ではなく

大人の女性、を思わせた。





じっと、そうして見ていたのだろうか。 いつから?



気づかないうちに、そういう視線で見ていたの?


訳がわからなくなったが、とりあえず僕も微笑みを返した。

なぜか、は、解らない。反射的にそうした、としか言い様が無い。



視線が反らせなくなり、苦しくなって僕は瞳を閉じた。







瞳を開いても、まだ彼女は僕を見ていた。

壁の時計を見上げる。14時45分だった。




そのうちに、部長が質疑を始めたので

皆が顔を上げ、彼女は僕から視線を逸らした。


なんとなく、安堵。




...どういう意図なんだろう、あれは。




真意が測りかねた。


メールの返答の感じだと、なんとなく僕の意図が掴めた、と云う

イメージに受け取れたのだけれども。



うーん、やっぱり解らないな......。



僕は混乱した。それもあるけれど

あまり、真っ直ぐに視線を投げかけられると....。ちょっと、困ってしまう。




...からかってんのかな。僕を。



そうならいいのだけど。放っておけば。






....そうでなかったら、困るな....。





何を考えているか解らなくなったときは、とりあえず事実だけを列記する。

不確定な要素を推測すると、誤差が誤差を読んで、結局何もわからなくなるからだ。




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