bad timing
バッド・タイミングで
この時、ミーティング・メンバーが702会議室に
入ってきてしまう。
灯りを落としていて、部屋の隅にふたりでうずくまっていたので
一瞬、皆ぎょっとしたようだったが
すぐに、LEDの実験中と分かって
皆、にぎやかに発光ダイオードのランプを楽しんだ。
僕と彼女の、スゥイーティな雰囲気もそれでおしまい。
あと5分、あったら、ひょっとして
今、こうしてこれを書いている自分は居ないかもしれなかった
かもしれなかった。
それほどのバッド・タイミングだったが
そんなものだろうと思う。
その日のミーティングは、ほとんど彼女のお別れ会に
なってしまった。
もとより、もう、皆仕事が無いのだし
今思うと、彼女の事を皆で心配していたのだろうと思う。
ここのオフィスに居られなくなるのは、彼女だけだからだ。
「えー、では、僕らから贈り物を。」
グループ・リーダーの和くんは、大きな包みを取り出し
会議室の入り口ドアにブラインドを下げた。
ここは研究室だから、私物の持ち込みは禁止なのだ。
敢えて、それを侵してまで、贈り物を持ち込むと言う
和くんの男気に、僕は感心した。
贈り物は、意外なようだが九州の名産、芋焼酎の
フラスコ・ボトルだった。
意外にも、幼い気な彼女は酒豪らしい。
その、アンヴィバレントな所に僕は気を惹かれた。
...ちょっと、面白いな。
贈り物を開けて喜んだのだろうか、彼女は落涙した。
ハンド・タオルで拭っても、涙は止まらなかった。
「あーあ、和くん、ダメじゃん、女の子泣かして」
岳ちゃん、普段は冗談なんて言わない瓢悍な彼が
珍しくそんな事を言って、笑わせたので
彼女も、落涙しながら笑顔になった。
とても、素敵な笑顔。
胸苦しさを感じた。
泣きながら、彼女はそれでも
礼を述べた。
ここの事は忘れません、初めてだったから。と。
テーブルを挟んで僕の向かい側に居たが
俯いたまま、涙を拭い続けていた。
何か、言いたい事は他に?と
和くんは、彼女にコメントを求めた。
すこし沈黙。




