冷蔵庫
...ふつう、嫌がるんじゃないかな....
僕の着ていた防寒着を着ていった彼女の事を
僕は思った。
ごく普通に、彼女は冷蔵庫から出てきて
何事もなかったように、その防寒着をロッカーに仕舞った。
.....潔癖だと思っていたけど。
夏の頃、すこし夜系の冗談に怒ったり
水着カレンダーを嫌ったりしてたのにな。
....ま、いいか。別に。
深く考えるのは苦手な僕だった(笑)。
工場を出て、細かい霧雨が降っている
高原の道を僕等はオフィースに向けて歩いた。
霧で、よくまわりが見えず、すこし幻想的でいい感じだ。
なんとなく、趣きのあるピアノのメロディが聞こえてくる。
それは、エロール・ガーナーの「ミスティ」のような感じの
ソロ・ピアノの音のようだった。
そういえば......よく、こんなことがあったっけ。
サラリーマン時代。
会社の夏祭りのイベントで、雨が降ってきて
たまたま一緒だった、総務課の美由紀ちゃんに
僕のジャンパーを奪われたっけ。「寒い」とか言われて。
あの子は背が高くて。ヒール履くと僕と同じくらいあったっけ。
もっと前....
バイトしてた喫茶店の休憩室が、冷房が壊れていて
酷く寒くて。
お昼を食べていた僕のトレーナーを、やっぱり「寒ーい。」
とか言って剥ぎ取っていったのは......
あ、そうだそうだ。あれは、由美ちゃんだ。
ひょうきんでよく笑う子だったっけ。
クリスマスには帰ってきてね、って言われたけど
それっきりだった(謝)。っけ。
....奪われやすいタイプなのかなぁ(笑)。
あ、でも。
こないだアルバイトしていた、コンビニ。
クリスマスのイベントで、サンタクロースの格好をした時に
ゆりちゃんの衣装を僕が着たら、嫌がったっけ、あの子。
でも、僕が着た衣装は平気で着てたけど.....。
いろいろだなぁ、みんな....。
エロール・ガーナーのフレーズのように、ゆっくり、ゆっくりと
想い出は断片的に甦ってくる。
霧雨の中.....。
ふと,気がつくと
前を歩いていた彼女が、僕が耽ってたので
不思議そうに振り返っていた。
細かい雨が,風に舞ってふわふわと。
雪迎えのようだった。
晩秋の高原、雪の季節も近いのだろう.....。11月。




