やわらかく
初めて会った頃のように、棘棘しく話す
幼稚な少女、と云う面影は失せて
自然だな、と思わせるような開放感を思わせた。
安定した情緒が基盤にあるのだろう、と僕は思ったが
その基盤が何か?と言う事までは気にしなかった。
みんなが優しくしてくれるので、安心したのかな.....と
そんな風に考えて。
良かったね。 と
心の中ではそう思っていた。
そんな感じなので、ミーティングの時も
彼女は、にこにこしながら僕を見たりしていたし
僕も、愛しいな、と思いながら笑顔を返していた。
その「愛しい」と言う気持ちがどうカテゴライズされるのかは
今となっては解らない。
0次元の感覚だから、そういう3次元的な定義は不可能なのだ。
でも、周りのMLメンバーたちは,彼等の現世的な、言ってみれば3次元的な
視点で僕らを見るので、ミス・マッチが起こる。
だから、こんな風にも言われた。
ある日のミーティングで、プライベートなことで目標にして居る事、と言う話題があった。
僕は「そうだなぁ、知り合いから時々書物の依頼が来るので,何か受賞できたらいいなと...。」
MLメンバーのみんなは、ちょっと驚いて。
洋くんは「エッ、そんなのできるんですか?」
僕は「うん、前に4番テくらいに入った事はあるヨ」と、ごく普通に。
人気投票なんてのは,水物だから時々そういう事はある。
でも、それが作品の価値とイコールじゃないのだけれど(笑)。
すごいなぁ、とみんなは素直にそう喜んでくれた。
このMLメンバーのみんな、そう言うとところが人間らしくて好きだ。
皆それぞれ、得意分野では凄いパフォーマーなので
分野が違う人が、何かで認められたとしても
それを素直に認めるだけの度量を持っていた。
言いかえれば、自らのパフォーマンスが自己主張になっていない、と言う事だ。
若者たちとして、それはとても稀有な存在だと思う。
普通は、何かで秀でると他の人を見下して仕舞い勝ちなものなのだけれども....。
そういうところが、僕がこの人たちを大切にしたい、と思う理由でもあった。
まあ、世界レベルの研究をする人達に
自己顕示をしているゆとりは無いのかもしれないけれど。
もちろん彼女も、すごーい、なんて言って笑顔で僕を見た。
僕も、にこにこしながら彼女を見た。
その視線をどう見たのか、リーダーの和くんはその話題を彼女に振った。
彼女は、突然困ったような顔をして
「そうですね....今年は....1日に1回は包丁を握ろうか、と思っています。」
料理が全くダメだ、と前から言っていたので
少しは家庭的になろう、と言う事なのだろう。
その変化を、僕は好ましいと思った。
安定した情緒が、彼女を愛らしくしていく......。




