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梅雨
もっとも、僕はついこの間まで
大切な日常の存在に気づかなかったから
そんな事を考えるよしもない。
この年は梅雨が長引いた後、夏は暑かった。
夏休みに、彼女がどう過ごしたかは僕が知る由もなかった。
なぜ?と問われても、まったく意識していなかったから、としか言えない。
そして、夏休み明けの最初のミーティングの日。
僕はミーティング・ルームでいつものようにお茶を飲みながら
景色を眺めていた。
高層建築のこの建物は、見晴らしが良くて
まだまだ山奥、のこの場所から
遥か、海を見下ろしながら長閑に過ごすにも適当だ。
今日は、彼女は早くに現れず
他のグループの皆と一緒に、やってきた。
グループのひとり、平安貴族のような風貌のョシ(佳)の後ろに隠れるように
俯きながら、僕の方を見ずに入ってきて
佳のとなりに座った。
いつもと違うな、と僕は思ったが、別段、だからと言ってどうとも感じなかった。




