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新入〝活動〟員ふたり その1



 始業五分前の教室で頬杖をついていた透徹の目の前に、男子生徒がやってきた。


 透徹よりもやや背が高く、全体的にガタイのよい彼は一之瀬裕介。

 透徹と同じ中学の出身で、そこから引き続いて野球部に所属している。平日の朝練も欠かさない、透徹と違って若い時間を有意義に消費している男だ。


「おっす」


「おはよ」


 気安い挨拶を交わし、裕介は前の席に座る。


「結局、どこも入らなかったのか?」


 透徹は裕介から野球部に誘われていた。一度でいいから見に来いよ、という軽い誘いだったが、透徹は勧誘期間の最終日である昨日も野球部には行かなかった。それは仙佳の件がなくても変わらなかっただろう。


「……野球部はどんな感じ?」


「まあ、正直ヌルいな。練習は大したことねーし、先輩方もあんまりやる気ねーし」


 それはそうだろう、と透徹は思う。この学園の野球部は一回戦敗退が基本で、二回戦まで進めば御の字、三回戦に進出するのは奇跡といったレベルなのだ。


「設備もしょぼいし、女子マネもいねーし」


「愚痴ばっかりだね」


「部員が少ないから即ベンチ入りできるってのはいいけどな」


「ポジションはどこ狙い?」


「外野のどっか」


「ふぅん」


 ピッチャーじゃないの、とは訊けなかった。


「で、そっちはどうなんだよ。また帰宅部の期待の新人か?」


「いや、それがね」


 透徹は少し迷ったが、昨日勧誘された奇妙な活動について話すことにした。


「……なんだそりゃ。よく入る気になったな」


「まだ仮の段階なんだけど」


「そうか、誘ってきた先輩が美人だったんだな」


「男だよ」


 透徹はとっさに嘘をついた。裕介はことあるごとに、話に異性を絡ませようとするので油断がならない。透徹もすっかり対応に慣れてしまっていた。


「だったらなおさらわからん。人助けをする部活動なんて怪しいだろ」


 それが普通の反応なのだろう。透徹だってそう思う。だが、美人の先輩に勧誘されたというだけで、その胡散臭うさんくささえも魅惑的なものになる。今回ばかりは裕介の指摘が正しかった。

 しかし、それだけが誘いを受けた理由というわけでもない。


「そんなにヒマなら野球部に来りゃよかったんだよ」


「入っても先が見えてるからね。過酷な練習によって再発する痛み、そして砕けるガラスの肘」


「捏造すんなって。要するに、しんどいのが嫌なだけだろ。そりゃ、謎の部活なら先は見えないだろうけど……」


 突っ込みを入れた裕介は、ふと真面目な顔になって探るように透徹を見つめる。


「まあ、わからないでもないけどな。いつもと違うことがしたいけど、自分から動くのは面倒で、そんなところに〝珍しいところへ連れてってくれるバス〟が止まったら、そりゃ乗りたくなるだろ。仮にも部活ならあんまり無茶なことはしないだろうし」


 裕介の指摘――というよりも共感――は的確だった。


 的確すぎて、自分の現状への、子供じみた不満を見透かされたと感じるほどだ。それを認める余裕が透徹にはなくて、目を逸らして黙り込んでしまう。


 沈黙が気まずくなるより先にチャイムが鳴って、裕介は「じゃあな」と自分の席へ戻っていった。透徹はそっとため息をつく。自覚していることを改めて人から言われるのは、本当に恥ずかしい。


 その後、気を取り直して授業に集中しようとしたが、うまくいかない。放課後は歌鳴と共に仙佳のところへ向かう予定になっていた。どうしてもそのことを考えてしまう。

 昨日、家に帰ってから学校案内のパンフレットやホームページをを調べてみたが、仙佳の話した〝活動〟に沿ったことをやっている部活は見当たらなかった。

 だから、次は何をやらされるのだろう、という少しばかりの不安はある。だが、そんな先の見えない感覚は、恐怖よりも好奇心の方が勝っていた。怖くないのは、どうせ部活だからという油断のせい。安全の保証された未知は、高校生が楽しむにはもってこいの娯楽だった。




「あ、いたいた。小暮くーん」


 放課後、帰り支度をしている透徹のところに歌鳴がやってきた。昨日の約束はその場しのぎではなかったらしい。彼女を信じていなかったわけではないが、あんな勧誘の仕方でよく来る気になってくれたものだ。律儀な子という印象が強くなる。


「それじゃ行こっか」


 よそのクラスの女子と連れ立っていく透徹の背中に、教室に残っているクラスメイトの視線が向けられる。四月もまだ半ばというのにもう別のクラスの子と仲良くなったのか、という羨望とやっかみにプラスして、なんであんな地味なやつが、という意外感が混ざった視線だった。


 その気持ちはよくわかる。が、これは自分が何かをした結果ではないし、歌鳴と交際をしているわけでもないので、優越感はまったくなかった。それに透徹はあまり目立ちたくない。


「えっと、それでどんな部活なんだっけ。昨日は急いでたからよく覚えてなくて」


「実は僕もまだよくわかってない。どう説明すればいいのか」


「何それ」

 歌鳴はクスリと笑う。

「今まではどんなことしてたの?」


 歌鳴は質問を変えたが、それにも答えられない。


「今までも何も、昨日が初めてなんだから。しかも入ったのも昨日だし」


「えっ、それじゃあ昨日入った部活で、いきなり部員勧誘なんてやってたの?」


「やってたのです」


 苦い顔でうなずく透徹。歌鳴は首をかしげる。


「もしかして、人材不足? 部員が足りないから仮入部期間が終わっても勧誘してたってこと? あたし、君が抜けると部の存続が危ない的ヘビーな立ち位置は嫌なんだけど」


「いや、たぶん大丈夫だと思うよ。部活じゃないって先輩は言ってたし」


 部活じゃない。

 その言葉に歌鳴はますます困惑したようで、首をかしげたまま目を大きくした。表情がコロコロ変わって面白いな、と透徹は思う。


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