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出会い

 新聞社でのアルバイトを定時の午後4時で終えた修平は、地下鉄で水道橋に向かっていた。帰宅ラッシュにはまだ早いこの時間だが、車内は学校帰りの中高生や大学生、買い物帰りの主婦、毎日が休日といった感じの老夫婦などで混雑していた。スーツ姿も見掛けるが、それは決して家路に就いているのではなく、出先から帰社していたり、次の営業先に向かっていたり、まだ勤務中といった風情だった。既に「拘束」から解放された修平はそんなスーツ姿にちょっとした引け目を感じた。

 進行方向右側の窓の多くには日よけのためのブラインドが下ろされている。地下を走っているのに、日よけもないだろうとふと思ったが、地上を走る私鉄から乗り入れていることを思い出し、納得した。ほとんどの乗客は無意味に下ろされているブラインドには関心がないようだったが、この地下鉄はまた別の私鉄に乗り入れていくため、その時にはまた下りているブラインドが役目を果たす。いや、次に地上に出る時に太陽が顔を見せるのは左側じゃないか…? どっちにしろ、修平はその前に降りてしまう。

「僕には関係ないか」

 そんなたわいもないことを考えているうちに、また一人の名前が浮かんだ。顔がしっかりと浮かばないのは、まだ出会って1カ月だから。その上、そのうち会ったのは4日だけだ。思い出そうとしても思い出せないのが、もどかしく悔しい。街で出会えば、彼女だと気付くことはできるだろうが、今、その顔を浮かび上がらせることはできない。

「次はいつ会えるんだか」


 彼女に出会ったのは4月11日だった。アルバイト先に新入社員として、新人研修を終えた彼女が、修平がいる社会部に入ってきた。正確には前日の夕方、配属されてきたのだが、修平は既に退社していた。

 その日の朝、早番の修平がまだ誰もいない社会部に行くと、ホワイトボードに3人の名前があった。

『新人 佐藤拓也 飯尾翔 江添優香』

 一人は女の子か…。可愛い子かな? そんなことが頭をよぎったが、すぐに消し去った。例え、好みのタイプだったとして、そこから発展する可能性は限りなくゼロに近い。今までの新人のように付かず離れず、関わればいい。


「おはようございます」

 その声に修平が顔を上げると、初々しい姿で、笑顔の女性が立っていた。エゾエユウカさんだ…そう思って見つめていると、

「はじめまして。新人の江添です。よろしくお願いします」

「アルバイトの高木です。よろしくお願いします」

「タカ…?」

「高、木…で、す」


 新人記者は、それぞれの部署に配属されると、まず1週間から10日ほど編集補助の仕事―つまり、修平らアルバイトがやっている仕事をする。毎年、新人に教えるように、修平は仕事の内容を教えていった。隣のデスクに座った彼女の横顔はとても美しく、修平はちらちらと見遣った。肩まで伸びる茶色く染まったストレートの髪はキラキラ輝いていたし、耳に光る銀色のピアスもまさに彼女のために作られたように調和していた。そんな気がした。

「あのー、これは…」

作業の手順を尋ねる、彼女の丸くて大きな瞳には吸い込まれそうだった。

「あぁ、そうなんだ」

納得して呟く、その口には薄い色の口紅が塗られていた。

「なんか違いますっけ?」

 修平の視線に気付いた優香が聞く。

「いやいや、合ってる、合ってる。大丈夫です」。

 動揺を何とか隠した。「あなたに見とれてました」なんて言える訳がない。もし言ったら、どういう反応をするのだろう。喜んでくれる? 困惑する? 迷惑する?

 結局、新人の社会部での編集補助の仕事は4日で終わってしまい、優香ら3人の新人はそれぞれ記者クラブへ配属された。修平が優香と会うこともなくなってしまった。

人生で初めて書いた小説らしきものです。率直な感想、厳しい意見などを聞かせていただけたら幸いです。

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