事情がある。
某警察関係の建物には出る。
これは知人が関係者だったから聞けた話だが、普通は中に入ってる連中も気付かないらしい。
けれど、たまーに霊感のあるヤツなんかが入ってくると、騒ぐのだそうだ。
「出た! 見ましたでしょ、見たでしょ!?」
監獄ってのは見通しが良いように出来ているから、その人の姿はよく見えるそうだ。
ズレて響く足音、生ぬるい空気、すれ違っても判然としない顔、そして一年通しての冬服。
「……見えない。俺は何も見てない、お前の気の迷いだ。さっさと寝ろ。」
「見てましたよ! センセ、今、目で追ってたじゃないですか!」
「なーんにも見てない。」
知人にははっきりその人が見えていたらしい。
しかし、出ると認めるわけにはいかないそうだ。
移転する為の費用も受け入れてくれる自治体もないんだから。
「幽霊なんてのは迷信だ。」
ばっさり。
この話を語ったあと、知人はわたしにこう言った。
「死んでまで仕事しなくてもいいのになぁ。」
そういう問題か。