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第一章 社畜宮廷錬金術師、首になる



 錬成、錬成、錬成、錬成。

 とにかく錬成、錬成、錬成。

 家にも帰らず・・・・・・ん? 家って何だっけ? 帰らず? 何で、家に帰るんだっけ? 家に何かあるんだっけ?

 ・・・・・・いや、余計なことは考えるな、とにかく、錬成錬成錬成。

 私は駄目な人間なんだから、錬成くらいはしっかりしないといけない。

 だって、私は錬金術が少しできるのだけが取り柄なのに、錬成すらできなくなったら、もう本当に救いようがないゴミになってしまう。


「トレニア!」

 錬成、錬成。

「貴様、姫への献上品である、風邪薬をオレンジにしたな!!」

 錬成、錬成、錬成。

「姫への献上品は全てピンクにしろといっただろうが!!」

 錬成、錬成、錬成。


「貴様は首だ!! 荷物を纏めて出て行け! もう二度と王都の土を踏むんじゃないぞ!!」


 錬成?

 錬成しようとして、私は眼前にフラスコが無いことに気が付く。

 そうだ、錬成するにはフラスコを手に持たなくては意味がない。いつから意味がないことをしていたのだろう。そして、フラスコはどこにあるのだろう。

 そこまで考えたところで、視界が回転し、そのまま暗転していく。


「おい!! 何、人のローブにゲロぶちまけてんだ!! この駄犬が!!」

 遠くで筆頭宮廷錬金術師の声がした気がした。

 いや、どうだろう。最近は筆頭錬金術師がいなくても、彼の声が聞こえてしまうし、本物か偽物かは分からない。もしかしたら、いないのかもしれない。

 視界が暗い。いや、世界が暗いのだろうか。

 もしかすると、世界が終わってしまったのかも。

 だとすれば、もう、働かなくていいのだろうか。



***



 どうやら、私は宮廷錬金術師を首になったらしい。・・・・・・首って何だっけ? 三日ほど失神していたらしいく、まだ頭がハッキリしない。まるで頭の中にモヤがかかっているかのようだ。

 だが、筆頭宮廷錬金術師がそうとう怒り狂っており、私の命が危ないのは確かなようである。真夜中に何人かが「安全のために」なんて言って病室から私を連れ出したのだが、途中で追ってくる誰かを撒くためだと言って、散り散りとなってしまった。無事だったらいいのだけれど、そもそも彼らは誰だったのだろうか。顔は隠していたし、声も小さくてよく聞こえなかったので、結局、最後まで分からなかった。

 そして、私と私を背負った誰かは最後まで闇に潜み、朝一番の乗り合い馬車に飛び乗ったわけである。


「おい、姉ちゃ・・・・・・いや、兄ちゃんか? ともかくよぉ、この嬢ちゃん、ずいぶんとボーッとしてるが、何か変な術をかけて誘拐でもしてるんじゃねぇだろうな? 誘拐の片棒を担がされるなんざ、ごめんだぜ」

「違うんです・・・・・・ちょっと、酷いこと・・・・・・いえ、辛いことがあって、この方は少し疲れているだけなんです」

「本当かぁ?」


 夢うつつの最中、同行人が疑われていた気がする。いや、どうだろう。気のせいかもしれない。現実感がない。ともかく、錬金術を使わなくては。そう、錬成、錬成・・・・・・何の? 駄目だ、何を錬成するのか全く思い出せない。たしか、墓場で拾い集めたイラクサの葉っぱで服を作らなくてはいけないのだった。いや、そうだっけ? 何のために服を作っているのだっけ? というか、誰にあげる服なんだっけ? 駄目だ、思考が纏まらない。


「・・・・・・その嬢ちゃん、何か白目剥いて、痙攣してないか?」

「えっ!? ちょ、大丈夫ですか!? もう、本当に仕事はいいですから、休んでください!!」

「おい、泡吹いてるって、この嬢ちゃん!!」

「ついに、仕事という言葉に拒絶反応が!?」

「おいおい、吐くか!? 吐きそうなのか!?」

「吐きましょう! もう、全部吐きましょう!!」

「ふざけんな!! 袋!! 袋に吐け、せめて!」

「ぽ」

「ぽ?」

「・・・・・・おい、この嬢ちゃん、もしかして寝たのか?」

「・・・・・・いえ、失神されたのかと」

「何で失神する前に「ぽ」って言ったんだ、この嬢ちゃん・・・・・・鳩かよ・・・・・・」



 錬金術、錬成、錬金術。ピンク。ピンクにする、ピンクだ。そう、ピンクにしなければならない・・・・・・ピンクって何だっけ? 色だったはずなんだけど、ピンクって一体何色のことなんだ? 駄目だ、どんな色だったのか分からない。怒られる。怒られてしまう・・・・・・一体、誰に?

 脳がぐるぐると回る。



 誰かに肩が強く掴まれている。強い揺れ。揺さぶられている、のだろうか。脳味噌が揺さぶられ、宙に浮いているみたいだ。

「ちょ、ちょっと、揺らさないでください! かの・・・・・・妹は見たとおり気分が悪くて・・・・・・」

「王宮からの命令で、王都から出ていく全ての女性を調べろって言われているんだから、仕方ないだろ」

「ですから、身分証をお見せしたじゃないですか!」

「だから、本人にも確認をしないといけないんだよ。おい、アンタ、名前は?」

「ぴ」

「ぴ?」

「ピンク」

「はぁ? ピンクがなんだって?」

「み、ミミズ吐きそう・・・・・・」

「はぁぁ??」

「だ、だから言ったじゃないですか、本当に気分が悪いんですって! 療養のために田舎に帰るところなんですよ、僕たち!」

「・・・・・・いや、幻覚見てねーか、これ? あー・・・・・・まぁ、本当に顔色が悪いし、病気なのは本当みてーだしな。仕方ねーか・・・・・・」

「で、でしょ!? すみませんね、門番さん・・・・・・」

「まぁ、いい。とにかく、気を付けていけよ。あぁ、あの──」

「はい。もちろん、わか──」


 何度も意識が浮上しては沈んでいく。

 浮上した私の瞳に映る景色は大体が積み上げられた箱、つまりは乗り合い馬車の中である。それが映る度に「あぁ、今、私の意識は覚醒したのだな」と思うようになっていた。

 だが、次に意識が浮上したとき、私の視界には見慣れぬ天井が映し出され、私の身体はベットに横たえられていた。

 遠くから小鳥たちの歌い声が聞こえ、どこからか吹く穏やかな風が布団に覆われていない私の顔を撫でていく。

 明らかに乗り合い馬車の中ではない。どこかの部屋の中である。


「・・・・・・地獄?」

 幾度目かの覚醒、私は自分の脳味噌が久し振りに回転を始めたのを感じた。



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