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終わる世界を最後まで  作者: ちび太


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8/13

勇者を待つ街


 その街は、待っていた。

 誰を、とは書いていない。

 ただ、待っている、という空気だけがあった。

 門は開いたまま。掃除された道。飾られた旗。

 祭りの準備のようで、でも音楽はなかった。

「……来るの?」

 僕が聞くと、刀は少し間を置いた。

「来ない」

 断言だった。

 広場では、人々が集まっていた。老人も、子どもも、兵士も。中央に簡素な演壇があり、そこに一人の少女が立っていた。

「もうすぐ、勇者様が戻ってきます!」

 声は震えていなかった。

 信じている声だった。

 拍手が起きる。

 疑う人はいない。

「何年待ってるんだろう」

「待つのに、年数は関係ない」

 刀の声は、低かった。

 僕たちは宿を取った。女主人は、やけに上機嫌だった。

「今日は特別な日なのよ」

「勇者が?」

「ええ。世界を救った方だもの」

 過去形だった。

 それでも、未来を指していた。

 夜になると、街に灯りがともった。人々は広場に集まり、空を見上げる。

「空から来るんだって!」

「剣が光るらしいぞ!」

 噂は増殖する。

 誰も止めない。

「……言わなくていいの?」

 僕は小さく言った。

「何を」

「来ないって」

 刀は、すぐには答えなかった。

「言っても、信じない」

「それでも」

「それでも、だ」

 広場の少女が、僕たちに気づいた。

「旅人さん!」

 屈託のない笑顔だった。

「勇者様を見に来たんですか?」

 僕は、喉が詰まった。

「……違う」

 そう答えると、少女は少し驚いた顔をして、それから笑った。

「じゃあ、間に合わなかったんですね」

 責める声じゃなかった。

「また次がありますよ。勇者様は、きっと何度でも来てくれますから」

 刀が、かすかに鳴った。

 夜が更けても、勇者は来なかった。

 空は静かで、何も起きない。

 人々は帰らなかった。

 待つこと自体が、目的だったから。

「……帰ろう」

 僕が言うと、刀は何も言わなかった。

 街を出る直前、少女が走ってきた。

「旅人さん!」

 息を切らしている。

「もし、勇者様に会ったら……」

 言葉に詰まって、でも続けた。

「ちゃんと、ありがとうって言ってください」

 僕は、うなずいた。

 約束はしなかった。

 街を離れてから、長い沈黙が続いた。

「なあ」

 刀が、ようやく言った。

「俺は、待たれる資格があったのか」

 答えは、簡単じゃなかった。

 僕は、歩きながら言った。

「分からない。でも」

「……でも」

「今、あんたはここにいる」

 刀は、それ以上聞かなかった。

 夜風が冷たかった。

 待つ街の灯りは、まだ遠くで揺れている。

 勇者が来なくても。

 世界が終わると分かっていても。

 人は、待てる。

 それが、希望かどうかは分からないまま。


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