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終わる世界を最後まで  作者: ちび太


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7/13

勇者像のある街


 その街には、像があった。

 門をくぐってすぐ、広場の真ん中に立っている。剣を掲げ、前を見据えた、立派な像だった。台座には文字が刻まれている。

 ――世界を救いし勇者。

 僕は、足を止めた。

「……似てる?」

 しばらくしてから、刀が言った。

「似てない」

 即答だった。

「でも、みんなはこれを勇者だと思ってる」

「思いたいんだろう」

 像の周りには、花が供えられていた。新しい。信仰は、まだ生きている。

 宿の女将は、像の話になると饒舌だった。

「この街はね、勇者様に救われたの。だから今も大丈夫なのよ」

「今も?」

「ええ。だって、勇者様がいるもの」

 彼女は、広場の方角を指した。

 像は、何も守らない。

 ただ、立っているだけだ。

「……本人は?」

 僕が聞くと、女将は不思議そうな顔をした。

「もうお亡くなりよ。でも、心はここに」

 それは、便利な言葉だった。

 夜、広場に出ると、像の前に老人がいた。酒瓶を持ち、像を睨んでいる。

「嘘つきめ」

 小さな声だった。

「英雄なんかじゃねえ」

 僕は、横に立った。

「知ってるんですか」

「知ってるとも。あいつは逃げた」

 老人は、吐き捨てるように言った。

「最後まで戦わなかった」

 刀が、微かに軋んだ。

「……それでも、街は救われた」

 僕はそう言った。

「偶然だ。運が良かっただけだ」

 老人は笑った。

「だが、人は物語を欲しがる。だから像が立った」

 その時、鐘が鳴った。

 広場に人が集まる。

「語り部の時間だ!」

 若い男が、像の前で声を張り上げた。

「勇者は最後まで剣を振るい、世界を救った!」

 拍手。歓声。

 老人は、背を向けた。

「……聞くな」

 刀が、低く言った。

「分かってる」

 僕は答えたが、耳は閉じなかった。

 物語は、綺麗だった。

 犠牲も、迷いも、恐怖も削ぎ落とされている。

「これが、俺の像か」

 刀が、初めてそう言った。

 声は、怒っていなかった。

 疲れていた。

「違うよ」

 僕は即座に言った。

「何が」

「これは、あんたじゃない」

「なら、俺は何だ」

 問いは、重かった。

 僕は、少し考えてから答えた。

「終わらせなかった人」

 刀は、何も言わなかった。

 翌朝、像の前の花が片付けられていた。

 新しい物語の準備だ。

 街を出る時、僕は振り返らなかった。

「なあ」

 刀が言った。

「像を壊したいか」

「ううん」

「どうして」

「壊しても、また立つから」

 しばらく歩いてから、刀が言った。

「……それでも、俺はあそこにいなくていい」

「うん」

 それだけで、十分だった。


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