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終わる世界を最後まで  作者: ちび太


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6/13

嘘をつく商人


 その街は、声が多かった。

 呼び込み、値切り、笑い声、怒鳴り声。人が多い場所は、それだけ嘘も多い。僕は嫌いじゃない。嘘は、生きている証拠だから。

「財布は気をつけろ」

 刀が言う。

「分かってる」

「分かってない顔だ」

 市場を歩いていると、すぐに声をかけられた。

「旅人さん! いい剣はどうだ!」

 僕は腰の刀を見せた。

「それよりいい?」

「……失礼しました」

 商人は即座に引いた。判断が早い。生き残るタイプだ。

 別の露店で、果物を見ていると、今度は若い男が話しかけてきた。

「情報を買わないか?」

「高い?」

「命ほどじゃない」

 胡散臭い。

 でも、嫌いじゃない。

 路地裏の店に案内された。看板はなく、棚だけがある。男は、にこにこしていた。

「俺は嘘をつく」

 いきなりだった。

「正直だね」

「嘘つきは、自分のことを隠さない。隠すと、死ぬ」

 妙に説得力があった。

「何の情報?」

「この街は、もうすぐ消える」

 僕は瞬きをした。

「理由は?」

「金」

「……?」

「金が尽きる。支える奴が逃げる。残るのは、信じた奴だけだ」

 男は肩をすくめた。

「だが、それを言えば人は逃げる。だから俺は言わない」

「でも今、言ってる」

「君には言う」

 理由を聞く前に、刀が低く言った。

「何を見た」

 男は、初めて刀をまじまじと見た。

「……あんた、旅人じゃないな」

「答えろ」

「未来を知ってる顔だ」

 男は苦笑した。

「この街の長は、終わりを隠してる。希望を売ってるんだ」

「嘘だね」

「そうだ。だが、人はそれで今日を生きる」

 僕は、しばらく考えた。

「じゃあ、君は何を売るの?」

「選択肢」

 男は、胸を張った。

「逃げるか、残るか。知らないまま死ぬか、知って生きるか」

「高い?」

「果物一個分でいい」

 僕はリンゴを置いた。

「安いね」

「嘘は安く売らないと、信用されない」

 変な理屈だった。

 宿に戻る途中、刀が言った。

「どうする」

「何もしない」

「冷たいな」

「選択肢は、もう渡された」

 それ以上、僕が介入する理由はなかった。

 翌日、街はいつも通りだった。市場も、笑い声も。

 男はいなかった。

「逃げたな」

「商人だから」

 街を出る時、門の外で、子どもが手を振っていた。

「また来て!」

「うん」

 嘘だった。

「なあ」

 刀が言う。

「嘘は嫌いか」

「嫌い。でも、必要だと思う」

「勇者は、嘘をつかない」

「だから、苦しかったんだ」

 刀は、黙った。

 遠くで、鐘が鳴っていた。

 何を告げる鐘かは、分からない。

 それでも、街は今日も動いている。

 嘘の上で。


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