終わる世界を最後まで
丘の上に立つと、世界がよく見えた。
遠くに街。
さらに遠くに、山。
空は広くて、何も知らない顔をしている。
「静かだな」
ガルドが言った。
「いつもこんなもんだよ」
「終わるって顔じゃねえ」
「終わる時って、だいたいそうらしい」
僕は腰を下ろして、草をちぎった。
青くて、ちゃんと生きている匂いがした。
下の街から、かすかに鐘の音が聞こえる。
祝福か、警告か、別れか。
どれでもよかった。
「なあ、リオ」
「なに」
「もし、あの時……」
ガルドは言いかけて、やめた。
「言わなくていい」
「……そうだな」
過去は、もう十分に重い。
丘の向こうに、旅人が見えた。
一人で歩いている。
荷は少なく、足取りは軽い。
「行く先、決まってるのかな」
「決まってねえだろ」
「じゃあ、僕らと同じだ」
ガルドは、小さく笑った。
「世界の終わりを知ってる旅人ってのも、妙な話だ」
「知らない旅人よりは、マシだと思う」
「理由は?」
「ちゃんと見るから」
ガルドは黙った。
でも、その沈黙は、拒否じゃなかった。
夕日が沈み始める。
世界が、ゆっくりと色を変えていく。
「全部は見られない」
僕は、もう一度言った。
「分かってる」
「それでも、見たい」
「……好きなんだな」
「うん」
誤魔化さなかった。
世界は残酷で、理不尽で、
それでも、綺麗だった。
「なあ、リオ」
「なに」
「終わるその時まで」
ガルドの声は、静かだった。
「俺は、お前の剣でいい」
それは、誓いじゃなかった。
覚悟でもない。
選択だった。
「ありがとう」
僕は立ち上がった。
「行こう」
「どこへ」
「まだ見てない場所へ」
丘を下りる。
道は続いている。
世界の終わりは、確かにある。
それでも、今はまだ、ここにある。
名前を持った僕と、
名前を取り戻した勇者と。
終わる世界を、最後まで。
それが、僕たちの旅だ。




