それでも旅は続く
朝は、普通に来た。
特別な光も、鐘の音もない。
ただ、昨日の続きみたいな朝だった。
「……名前、呼ばれるの慣れねえな」
ガルドが言う。
「僕は、もう慣れた」
「早いな」
「ずっと持ってたから」
持っていただけで、使っていなかった。
それだけの違いだ。
街道を歩いていると、分かれ道に出た。
片方は整備され、標識もある。
もう片方は、草に覆われ、先が見えない。
「どっちだ」
ガルドが聞く。
「決めてない」
「今までは?」
「決めてないまま、歩いてた」
少し間があった。
「……変わったか」
「たぶん」
整備された道の方から、商隊が来た。
人は多く、荷は重い。
その顔は、焦っていた。
「この先、街はありますか!」
先頭の男が叫ぶ。
「あります」
僕は答えた。
嘘じゃない。
ただ、全部は言わなかった。
「助かった!」
商隊は、安心したように進んでいく。
「いいのか」
ガルドが言う。
「何が」
「終わりが近いこと」
僕は振り返らなかった。
「知るかどうかは、あの人たちが決める」
「……前なら、黙ってただろ」
「うん」
「今は?」
「聞かれたら、答える」
それだけで、十分だと思った。
草に覆われた道の方から、風が吹いた。
冷たくて、でも澄んでいる。
「こっちは」
「行き止まりかもしれねえ」
「うん」
「誰もいないぞ」
「うん」
僕は、そっちを選んだ。
歩き出してから、ガルドが言った。
「なあ」
「なに」
「俺は、まだ正しかったとは思ってねえ」
「知ってる」
「でも」
少し、言い淀んでから。
「……お前と歩くのは、悪くない」
僕は、少し笑った。
「光栄です、元勇者さま」
「やめろ」
「冗談」
道は細く、歩きにくい。
それでも、足は止まらない。
遠くで、誰かが助けを求めているかもしれない。
何もないかもしれない。
世界は、確実に終わりに向かっている。
それは変わらない。
でも。
「なあ、リオ」
ガルドが、自然に名前を呼んだ。
「なに」
「終わるまで、どれくらいある」
「さあ」
僕は空を見上げた。
「全部見るには、足りない」
「……それでもか」
「それでも」
答えは、もう決まっていた。
僕たちは歩く。
勇者がいなくなった世界を。
名前を持ったままで。
終わりに向かって。
終わらせないために。
それでも、旅は続く。




