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終わる世界を最後まで  作者: ちび太


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10/13

勇者が選ばなかった道


 その遺跡は、地図に×がついていた。

 危険、ではない。

 触れるな、という意味の×だ。

 石造りの回廊は崩れかけていて、壁には古い壁画が残っていた。剣を掲げる人物、逃げる人々、空から落ちる光。

 どれも、どこかで見た構図だった。

「ここは……」

 僕が言いかけると、刀が遮った。

「来るな」

 珍しい言い方だった。

 遺跡の奥に、人がいた。

 年老いた女で、旅装でも研究者でもない。

 ただ、待っている人の立ち方だった。

「……まだ、残っていたのね」

 女は、刀を見て言った。

 僕じゃない。

 刀を、見ていた。

「それを持っているということは」

 女は一歩近づき、確かめるように呟いた。

「あなたは、ガルドを連れている」

 空気が、止まった。

 刀が、鳴らなかった。

 否定もしない。

「……知ってるんですか」

 僕の声は、思ったより冷静だった。

「ええ」

 女は、壁画に手を置いた。

「彼は、ここで選ばなかった」

 壁画には、分かれ道が描かれていた。

 一方には人々。

 一方には、深い闇。

「最後の門を閉じるには、勇者が残る必要があった」

 女は、淡々と語る。

「戻れないと分かっていても」

 僕は、刀を握った。

「でも、彼は戻った」

「ええ。人を置いて」

 責める口調じゃなかった。

 ただ、事実だった。

「それで、世界は延命された。終わりは先延ばしにされただけ」

 女は、こちらを見た。

「あなたは、それを知っている顔をしている」

 僕は答えなかった。

 沈黙の中で、ようやく刀が言った。

「……俺は、間違えた」

 低く、重い声だった。

「残れば、確かに終わった。だが、誰も救われなかった」

 女は首を振った。

「救われなかったのは、あなた自身でしょう」

 刀は、反論しなかった。

「名前を呼んでもいい?」

 女が聞いた。

 刀は、一瞬だけ、ためらった。

「……好きにしろ」

 女は、静かに言った。

「ガルド」

 名前は、刃よりも重かった。

 壁画の中の勇者が、初めて人に見えた。

「彼は、逃げた勇者じゃない」

 女は続けた。

「選んだ勇者よ。

 救いを、世界より先に人に渡した」

 それが、正しいかどうかは言わなかった。

 遺跡を出る時、外は夕暮れだった。

「……名前、出ちまったな」

 ガルドが言った。

「うん」

「後悔してるか」

 僕は首を振った。

「知れてよかった」

 ガルドは、少し笑った気がした。

「なら、いい」

 道は続いている。

 終わりは、まだ先だ。

 だが今、

 僕の隣には、名前を持った勇者がいる。

 それだけで、旅は少し重く、

 少しだけ、確かになった。


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