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終わる世界を最後まで  作者: ちび太


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1/13

終わりを知らない村

この物語は、世界が救われた「その後」を旅する話です。

派手な戦いや、明確な救いはあまりありません。

一話ごとに一つの国や場所を訪れ、

そこで生きている人たちを、ただ見ていきます。

少し静かで、少し重い話になりますが、

最後まで付き合ってもらえたら嬉しいです。

※本作は一話完結形式ですが、

旅と関係性は少しずつ進んでいきます。



 村は静かだった。

 音がないわけじゃない。風は畑を撫で、家畜の鳴き声が遠くで混じっている。ただ、それらがきちんと収まる場所に収まっている。そんな感じがした。

 畑はよく手入れされている。土は湿っていて、最近雨が降ったのだろう。柵は少し歪んでいるが、倒れるほどじゃない。直そうと思えば直せる。でも、今は困っていない。そういう歪み方だった。

 僕は歩きながら、空を見上げた。

 雲は高く、流れは遅い。

 ――まだ、大丈夫だ。

 胸の奥で、誰にも伝えない数を確かめる。

 言葉にする必要はない。言葉にした瞬間、壊れるものがある。

「……いい村だな」

 腰に下げた刀が、低く言った。

 中に宿っているのは、かつて世界を救った勇者の魂だ。

「うん。たぶん」

「その言い方は、好きじゃない」

「知ってる」

 それ以上、勇者は何も言わなかった。

 納得していない時の沈黙だ。

 村の入り口で、子供が二人遊んでいた。木の棒を剣みたいに振り回している。見ていれば分かる。喧嘩じゃない。

「旅人だ」

 一人が僕に気づいて言った。

「どこから来たの?」

「どこからでもないよ」

「変なの」

 笑って、また遊びに戻っていく。

 正しい反応だと思った。

 村の中は、昼の匂いがした。

 洗濯物が揺れ、食事の支度が進み、誰かが井戸に向かって歩いている。全部が、明日がある前提の動きだった。

 僕はそれを、ひとつずつ覚えてしまう。

 どうして覚えるのかは分からない。ただ、気づいたら頭に残っている。

「この村は……」

 勇者が言いかけて、止めた。

「何?」

「知らないんだろうな」

「何を?」

「世界のことを」

 僕は歩みを止めなかった。

 止めると、余計なことを言いそうだったから。

「知ってたら、畑の作り方が変わる」

「どう変わる」

「来年を考えなくなる」

 少しの間があった。

「……それが、正しいとは思えない」

「うん。僕も」

「なら、なぜ――」

「正しくなくても、楽な方を選ぶことはあるよ」

 勇者はそれ以上、続けなかった。

 村の中央に井戸があった。縁が少し欠けている。水を汲むには問題ない。だから、誰も直さない。僕はそこに腰を下ろした。

 石は冷たかった。

 水を汲みに来た女の人が、僕を見る。

 警戒はしていない。ただ、知らない人を見る目だ。

「旅の方?」

「うん」

「泊まっていきます?」

「できれば」

「空き、ありますよ」

 本当だ。助かる。

 こういう村は、夜も静かだ。

 女の人は笑って、去っていった。

 歩き方に迷いがない。

「言わないつもりか」

 勇者が言った。

「言わないよ」

「知る権利は、ある」

「考えた結果、笑えなくなる権利もある」

 僕は井戸の欠けた部分を指でなぞった。

 少しだけ、指が引っかかる。

「……お前は、優しいな」

「そう見える?」

「自覚がないところが、厄介だ」

 夕方になると、村は赤く染まった。

 子供たちは家に戻り、大人たちは明日の話をしている。

 誰も、終わりの話をしない。

 それが、嫌いじゃなかった。

 夜、簡素な部屋で横になる。

 天井の木目を眺めながら、数を確かめる。

 世界は、確実に終わりへ向かっている。

 それでも、この村は今日を生きている。

「……後悔する日が来るかもしれない」

 勇者が言った。

「うん」

「それでも、か」

「それでも」

 少しだけ、刀が静かになった。

 翌朝、村は昨日と同じだった。

 畑は耕され、井戸は冷たく、空は高い。

 僕は誰にも気づかれないように村を出た。

 見送られなかったのは、嫌じゃない。

 振り返らない。

 振り返る理由がない。

 それでも、覚えている。

 井戸の欠けた縁も、子供の声も。

 全部。

世界は、あと三年と百二十日で終わる。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この話で「何も起きなかった」と感じたなら、

それはたぶん、意図通りです。

この旅では、救わない選択が何度も出てきます。

次の話では、

また別の形で世界と向き合います。

よければ、続きを覗いてみてください。


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