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第五章 - 第9話 渋谷区、シアター・ルチア⑧

 鈴井(すずい)世奈(せな)は最寄りの警察署に連れて行かれた。パトカーの中で事情を聞く、程度ではどうにもならなかったらしい。


「できれば、今日は皆さんにも解散してほしいんですが」


 刑事、小燕が言い、「なんでですか」と不田房が尋ねた。


「今からこの建物の中を調べます」

「……令状もないのに?」


 宍戸が口を開く。痛いところを突かれたように顔を顰めた小燕は、「まあ」と曖昧に頷いた。


「こんな機会、滅多にないんですよ。シアター・ルチアの中に堂々と入ることができる機会なんて」

「それってつまりこれまで起きた失踪事件に、間違いなく()()()()が関わってるってことですか? 確信があるんですよね?」


 宍戸の質問に、小燕は答えなかった。答えないという形での肯定だった。


「別に私は引き上げてもいいけど」


 檀野が片手を挙げて言う。


「きみは?」

「え……ああ、まあ。今日は差し入れが目的だったし……もう終わったし……」


 和水も頷き、


「邪魔だって言うなら帰るかぁ」


 窪田が呑気な声を上げ、(きさらぎ)はまだソファの上で眠っていた。

 帰るか、と鹿野もなんとなく思った。確かに、劇場内で事件が起きたわけでもないのに警察が捜査に入るなんてこと、そう簡単には許されないだろう。仮にシアター・ルチアの舞台に立った人間がその後失踪したとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()、というケースでもない限り劇場側を責めるのはナンセンスだ。だが今日は、幸いにも、関係者の鈴井世奈が騒動を起こしてくれた。たとえば──本当に仮定の話だが──彼が何らかの薬物の手を出していて、それを劇場内に隠している可能性があるから調べに入る、というような意図があるなら、後から問い詰められても言い訳ぐらいにはなるだろう。イナンナからの嫌味も最低限で済むに違いない。


「あんまり良くないな」


 反駁したのは、宍戸だった。小燕が眉根を寄せ「なぜです」と声を上げる。


「小燕さん。ここ、良くないんですよ」


 デニムの尻ポケットからお札を取り出しながら宍戸が言った。市岡神社のお札だ──いや──


『野上神社芸事上達守護』


 墨文字で、そうはっきりと書かれている。文字を目にした「げっ」と窪田が声を上げ、檀野が片手を口に当てて後退りをする。


「そのお札が、いったい何……」

「これ、もともとはこうだったんですよ」


 不審げな小燕に、宍戸が別のお札を突き付けた。


『_ 岡_ 社_ _ 之攸』


 何が書いてあるのかさっぱり分からない。虫食い状態だ。ますます解せない様子で首を傾げる小燕に、


「話すと長くなりますが、警察の皆さんを気軽にお通しできる空間じゃないって意味です、ここは」

「だったら──どうするっていうんです? あなた方が探偵役でもやりますか。正直、警察としては民間人のそのような行動を容認することはできないんですが」


 睨み合う。沈黙が落ちる。

 あの、と宍戸と小燕のあいだに割って入ったのは、和水芹香だった。


「今、私たち──年明けから始まる公演に向けて仕込みを行ってるんですけど」

「仕込み?」

「舞台装置を組み立てたりしてるってことです。だよね、宍戸さん」

「ああ、はい、うん」


 唐突な和水の発言に、宍戸も毒気を抜かれた顔をしている。


「だから、えーっと……どうでしょう。舞台上は舞台班、楽屋は楽屋担当組、それに調整室には音響さんか照明さんに同行してもらって、警察の皆さんのチェックを入れるって言うのは」


 檀野が不審げに眉を寄せ何かを言おうとしているが、「それならありか」と宍戸が呟くように言った。


「令状なしの捜査なので、警察の皆さんは各部署のスタッフに『案内されながらルチア内をチェックする』という流れにしましょう。これなら、後からイナンナの関係者に文句を言われることもない」

「はあ……? ちょっと良く分かりませんが、分かりました。おい煤原(すすはら)、待機してる連中を呼べ」

「了解です」


 指示を受け、煤原刑事が劇場の外に出て行く。「何考えてるの」と檀野が和水に囁くのが聞こえた。「何も」と和水は笑うけれど、彼女の瞳には、明らかに何かが()()()()()

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