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スローライフは箱庭で〜二重生活で精霊たちの箱庭を開拓します  作者: 水玉りんご


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7/9

第7話 畑作りスタート

木のそばに湧いた湧き水のおかげで、箱庭ライフは一気に快適になった。

私も徐々に、この世界との二重生活に慣れてきている。


昨日は、小屋の外にある古いトイレを修復したところだ。

こういう作業が、だんだん楽しくなってきた自分に驚く。


最近のお気に入りは、小屋の裏にある小高い丘でのピクニック。

歩きながら、棚にあった本やノートの内容をタマちゃんに解説してもらい、午後からは身の回りの生活用品を整え、のんびり過ごしている。



◇◇◇



「小春ちゃん、お水湧いたよー。」


「タマちゃん、ありがとう!」


「えへへ〜。」


結局、精霊には“安直だけどいちばんしっくり来た名前”としてタマちゃんと名づけてしまった。

本人も喜んでいる(と思う)。


編み物の手を止めて、向こうの世界から持ち込んだ紙袋を取り出す。

中身はインスタント麺、とその粉末調味料。

ゴミ問題が心配で、食べられるものだけを紙袋に移し換えて転送したのだ。


「これがラーメン? カチカチだけど、柔らかくなるの?」


タマちゃんが興味津々で覗き込む。


焚き火台の上に吊るした鍋をおろし、インスタント麺をお湯へ。

粉末スープは紙袋を逆さまにして綺麗に全部入れる。


丘の上から箱庭を見下ろすと、とても美しい。

ちょうどここから見える景色が、箱庭を外から見た景色のようだ。


小屋。

その先に、私が川と見間違えたあの乾いた溝。

さらに奥は、土地が途切れている。崖のようにも見えるが、まだ確かめてはいない。

右の方には森が見えていて、タマちゃん曰く、そこを進むと村があるそうな。


小屋近くの湧き水は、いつの間にか湧き出る量が増え、今や泉の様になっていた。

このまま湿地帯になるんじゃないか、と少し心配になるほど。

そしてほんの数日で乾いた荒地に緑が増え、草原のように変わってしまったのだ。


「いただきまーす!」


ふうふうしながら麺をすする。


「わぁ、ほんとにあっという間にできるんだね。召し上がれ〜。」


タマちゃんは蝶を追いかけて飛んでいってしまった。

書物以外は食べないらしく、この美味しさを共有できないのが少し残念。


「おいし〜い!」


暖かい日差しの中、外で食べるインスタント麺のなんと美味しいことか。

これならもっとちゃんとした料理にも挑戦したくなる。


とはいえ、転送には制限があるし、そろそろ自給自足の方法を考えないといけない。


「ここで畑、作れないかな? この世界、今は春で合ってる?」


「うん、春だよ。地面も潤ってきてるし、畑、作れると思うよ!」


「野菜の種、少し持ってきてるから撒いてみたいんだよね。」


「いいね〜!」


タマちゃんは空を飛ぶ鳥を見上げ、嬉しそうに草花を眺めた。

この土地そのものが、少しずつ生き返っているのが分かった。


◇◇◇


「前はこの辺り、畑だったんだって。本に書いてあったよ。」


「クワがあってよかった……さすがにこれは転送できない大きさだし。」


箱庭では体を動かすことが多く、健康的に過ごせている気がする。

そう思えたのは最初の数回だけだった。


クワを振り下ろすたび、腕や足がプルプルしてくる。

明日、全身筋肉痛で動ける気がしない。


しゃがんで柔らかくなった土を手でほぐし、石や草をのける。

指の傷が完全に塞がっていてよかった。


「小春ちゃん、もう休憩?」


水筒の水をグビグビ飲む。


「デスクワークの身には、急な農作業はキツいのよ……」


タマちゃんがふよふよ飛んできて、私の膝へちょこんと着地した。


短い腕を突き出し─


「回復魔法〜!」


「え、そんな能力が!?」


……何も起きなかった。


「って、出来たらいいな〜って思ってたでしょ。」


「ぐっ……読まれてる……!」


結局、箱庭の魔法のような現象は、まだ法則が分からないままだ。

転送した道具のほとんどは、普段通りの使い方をされている。


がくりと肩を落として立ち上がる。


(寝る前に畑作りについて調べておけばよかった……)



◇◇◇



少し休憩したあと、小屋へ戻り、集めておいたレンガを畑の区画に並べる。

1m四方ほどの“小さな花壇”が完成。


「みたことないくらい小さな畑だね。育つかなぁ〜?」


「……今日はこれで限界!」


期待外れの声に焦りつつ、私は秘密兵器を取り出す。


「ほら、野菜の種! 初心者向けの早生品種だから、すぐ育つはず!」


畑の場所が草に埋もれないよう棒を立て、さらに編み物用の毛糸でポンポンを作って、棒の先へ結びつける。ふわふわの白いポンポンが、風に揺れて可愛い。


「 これなら遠くからでも分かりやすいね。」


「かわいいね〜。」


風で倒れたりするといけないので、四隅に同じように棒を立てた。

タマちゃんはポンポンを、サワサワと触り心地を楽しんでいる。


「か、かわいい…。」


白いぷにぷにとフワフワの共演に、スマホが手元にないのがこんなに惜しいとは。

などと考えつつ、種に薄く土をかぶせ、水をたっぷり撒いて、今日の作業は終わりに畑を後にした。



実はその背後で──

土の中で、すでに小さな変化が芽吹き始めていたが、まだ誰も気づいていないのだった。

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