第4話 希望が見えてきた
埃だらけの小屋を、ゆっくりと見渡した。
床板はところどころ腐りかけ、踏めばギシリと軋む。天井の隙間から差し込む陽光だけが、美しい。
「雨降ったら、確実に雨漏りする家だよね……。ねぇ、掃除道具ってある?」
「あるよー。物置、見てみて!」
案内してくれた精霊の後をついて物置の扉を開けると、がらんどうの棚の奥に、ほうきとちりとり、取っ手の折れたバケツがぽつんと残されていた。どれも長い間使われていなかったらしく、表面に埃が積もっている。
「水がないのが辛いなぁ。雑巾もないし。」
「泉は向こうの森にあるけど……道がね、塞がってるからね〜。」
精霊の声は軽いが、状況は軽くない。
ため息をひとつ吐き、覚悟を決めて掃除を始めた。
ほうきを動かすたび、土埃がふわりと舞い上がる。
鼻がむずむずしてくしゃみが止まらない。
床は黒ずんで、こびりついた汚れはびくともしない。
やってもやっても変わらない現実に、心が折れる音が聞こえてきそうだった。
「ねぇ、精霊さん……」
「んー?」
「パパッと綺麗にできる魔法とか……ないの?」
「いいね〜。そんな魔法があったら、本当に便利だね。」
返事は軽い。期待はしていなかったけれど、せめて「探せばあるよ」とか言ってほしかった。
小さな精霊はふよふよと漂いながら、ただ私の愚痴を聞いてくれている。
非力ゆえに応援しかできないらしいが、それだけでも少し心が軽くなる。
「この小屋……ほんとに人が住んでいたの?」
「うん。だいぶ前になるけどね。あ、道具は自由に使っていいよ。
……前の人、途中でいなくなっちゃったんだよね。」
精霊の声は一瞬だけ寂しげで、その響きに胸の奥がざわりとした。
私はそれ以上聞かず、黙ってほうきを動かし続けた。
◇ ◇ ◇
――数時間後。
「はぁ〜〜……もう無理。これ以上は……」
ふらふらと古い机に座り込み、額に両手を押し当てる。
視界がぐらりと揺れ、全身が重く感じた。
「病気になるって、ほんとに……」
その瞬間――
ポワッ
指先が温かくなった。
両手のひらの内側で、淡い光がゆっくり膨らんでいく。
「……え、何これ!? 精霊さん!」
「え!? 小春ちゃん、それ……!」
精霊が慌てて近づいてくる間に、光はすっと収まった。
そして手の上に残ったのは――
見覚えのあるプラスチックの感触。
「……これ、私の部屋にあった除菌スプレーだ!」
「なんで出てきたの?」
「分かんない! でもこれって……」
つまり――
「向こうの世界から、こっちに物が転送できるってこと!?」
私は勢いよく外へ飛び出して、日差しの下で干していた、古びた布団に向けてスプレーを押す。
シュッ
ミストが舞い、風に乗ってきらきらと光った。
「……すごい。」
目の前の布団は、数秒でふんわりと膨らみ、古い匂いが清潔感のある香りへと変わっていく。
現実世界ではこんな威力はなかった。
ここでは、予想以上の効果が出るのかもしれない。
「わあ〜……浄化の魔法みたいだねぇ!」
精霊はくるくる回りながら、輝く布団を感嘆の眼差しで見上げている。
私はスプレーを握りしめた。
――これ、使える。
「今日、箱庭を飾ってたの。
そのとき、フタの方にたまたまスプレーを入れてたんだよね。
多分、そのせいで……持って来れたのかもしれない!」
「そうなんだね〜。仕組みはよく分からないけれど……これで必要なもの、手に入れられそうだね。」
頭の中で、次々とイメージが湧く。
まずは生活に必要な道具たちを持って来なくては。
新品のタオル。
食材や水も必要だよね。
あとそれから調理器具や調味料。
異世界での生活が、一気に現実味を増した。
「楽しい……なんか夢が広がってきた……!」
「うんうん!」
精霊は楽しそうに、空を小さく弧を描いて回る。
「まあ……せっかく来た異世界だしね。お祭りのことは一旦置いといて、楽しんでみるよ。」
荒れ果てた小屋をもう一度見渡し、深く息を吸う。
さっきまで重かった空気が、少しだけ軽くなった気がした。
――明日持ってくるものは、あれに決まり!
もっとテンポを上げたほうが読みやすいですかね?
それとも、今のままでいくか……?
自分で書いておきながら、悩ましいです。
ご意見ご感想いただけると、大変嬉しいです。




