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オーバーロード~世界を征服するまで~  作者: 丸山 はがね
OVERLORD 同人 第17巻《法国滅び》(一・魔導王の怒り)
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終わりなき報復


【同日】——


『絶死絶命』と呼ばれる少女は、マーレとの戦いに敗れ、ナザリックの捕虜となる不幸に見舞われた。


彼女が「勇者の魂」と「死は全ての生命の終点」という二つの技能を連続使用したことから、マーレはこれらに関連性があると確信。アインズ様とシャルティアの決闘を監視し、何らかの複製能力を使用したのではないかと疑念を抱いた。


アインズはこの指摘に大きな衝撃を受け、試すように昏睡状態の『絶死絶命』に「記憶操作コントロール・アムネジア」をかけ、強大な吸血鬼に関する記憶を検索——


その結果、未だ漠然とした答えではあるものの、アインズはついにシャルティア事件の真の黒幕を知ることとなった。


あの、自らシャルティアを討たねばならなかった事件を引き起こした張本人を。


怒濤の怒りが襲う。


「直ちに法国を滅ぼせ。」


——そう命じた後、慌ただしく去って行くアルベドの背を見つめながら、アインズは一瞬、後悔の念を覚えた。


(ちっ、アルベドもデミウルゴスも、本来は法国を徐々に攻略する策略を練っていたはずだ。この命令は、彼らがこれまで費やした努力を無に帰すことになる……私は本当に無能な上司だ。)


しかし、たとえそれを理解していても、アインズは法国を即刻滅ぼさねばならなかった。


有能な上司である以前に、彼はまず何よりギルドマスターだったのだ。


ギルドメンバーの一人が外部者によって罠にはめられたなら、どんな手段を使ってもそのメンバーの仇を討つ——それが優れたギルドの鉄則である。メンバーが傷つけられるのを放置すれば、ギルドの結束は瞬く間に瓦解する。


特に、「精英集団」たるアインズ・ウール・ゴンにおいては尚更だ。


41人のメンバーの中に弱者は一人としていない。外部者がいずれかのメンバーを陥れれば、アインズ・ウール・ゴン全体による報復を招く。この結束こそがギルドの強さの礎であり、ギルドマスターとしての最大の責務なのである。


故にアインズは怒った。


そしてこの怒りは、精神抑制によって簡単に薄れ去る類のものではなかった。


「スレイン法国……傷つけられた子獅子を守る獅子の群れがどれほど恐ろしいか、今から思い知らせてやろう。」


アインズの呟く、冷ややかで霧のような言葉は、背後に控えるマーレとアウラをも震え上がらせた。


【十日】——


これは、ナザリックがスレイン法国の六百年に及ぶ歴史に完全な終止符を打つのに要した時間である。



【滅亡前夜、午後7時】——


時計型アイテムを見つめながら、法国による精霊国侵攻軍の司令官、ヴァレリア・アイーン・オビニエは深く眉をひそめた。


午後7時——これは「限界時間」だった。


この時刻を過ぎても、なお『絶死絶命』が精霊王の首を携えて凱旋しないのであれば、それは人類の守護者に何らかの不測の事態が起こったことを意味する。


(時計が壊れているのか? 実際はまだ6時なのでは——)


そんな愚かな考えさえ一瞬よぎり、ヴァレリアは蒼い苦笑を浮かべた。戦区司令部の時計が、絶対に誤作動を起こすことのない魔法アイテムであることを知っているからだ。


(あの方が、いったい何に……)


戦敗か? しかし、法国上層部は『絶死絶命』が単騎で精霊王を討ち取れると確信していた。だからこそ、彼女一人を王城に突入させたのである。上層部のその判断が、根本から外れているとは考えにくい。


(まさか、精霊王が本拠地で、我々の予想を超える何かを発揮したというのか?)


(いや、いやいや、あの方が敗北する可能性はやはり低すぎる。最強の神人だ……)


持久戦に持ち込まれているのか? それとも、精霊王が逃亡し、それを追跡しているのか?


今のところ、この精霊国王都を包囲する法国軍に、異常は見られない。


『絶死絶命』に転移系の能力はなく、精霊王の転移能力にも大きな制約があると伝えられている。もちろん、あの二人ともなれば包囲網の隙を物理的に脱出することも可能だろうが、やはり王城に留まっている可能性が最も高い。


とにかく——


(これはもはや、私の手に負える事態ではない。)


ヴァレリアが立ち上がると、足が少し痺れていた。限界時間が刻一刻と近づくにつれ、彼の血液もまた少しずつ凝固していくかのようだった。『絶死絶命』は、それほどまでに重要な存在だからだ。


ドン、ドン!


ノックの音がし、前代未聞のことに、室内の許可を待たずして誰かがドアを押し開けた。


若い参謀の一人である。彼は大声で告げた。


「“黒の聖典”各位が到着されました!」


「了解。こちらへ招け——いや、私が直々に向かう。」


『絶死絶命』の凱旋があれば、司令部から法国上層部へ魔法アイテムで連絡が入り、『黒の聖典』が「テレポート」魔法で迎えに来る手筈だった。


そして、限界時間を過ぎても連絡がない場合、『黒の聖典』は直ちに転移で「状況処理」に赴くことになっている。


ヴァレリアがドアを出ると、6人の豪華かつ特異な装備を纏った、英雄級の人物たちが、かすかな残光の中に輝いていた。


(三席『四大元素』、五席『一人師団』、七席『占星千里』、八席『巨盾万壁』、十二席『天上天下』、そして……筆頭席『黒の聖典』か。)


全員の表情が硬く引き締まっている。


事態はそれほど深刻なのだ。


「省略させて頂きます、司令官閣下。」筆頭席がすぐに口を開いた。「確認させてください。『黒の聖典』番外席……『絶死絶命』が、定刻までに帰還していない。間違いないですね?」


「ああ。」


ヴァレリアは簡潔にうなずいた。


筆頭席の顔色が一瞬で曇った。他の『黒の聖典』のメンバーたちも、一層陰鬱な空気をまとったのが感じられた。


「……承知いたしました。我々は直ちに搜索救出任務を開始します。」


「了解。しかし、筆頭席である貴方までが来るとは……万が一、貴方までが何かあれば——」


「万一、私が来なかったために『絶死絶命』を失うことになれば、法国にとって、いや人類にとって、それこそが最も許し難い損失です。」


「……そうか。」


「失礼いたしました。」


青年は軽く頭を下げた。さきほどヴァレリアの言葉を遮ったことへの詫びだろう。


若くして有為、超人的な力を持ちながらも礼儀正しい。まさに人類の希望と呼ぶに相応しい。正直なところ、異形とも言える『絶死絶命』よりも、ヴァレリアはこの筆頭席に好感を抱き、「ああ、こんな青年が我が子だったら」と考えたことさえあった。


彼は寬大な笑みを浮かべた。


「どうか、ご無事で。」


「え?……ありがとうございます。では、我々は出発します。ヴァレン。」


「——〈テレポート〉。」


三席『四大元素』、ヴァレン・ヴィット・シュベルトが、しわがれた声で魔法を詠唱する。


疾風の如き速やかさという言葉を体現するかのように、彼らはヴァレリアの眼前から消えた。精霊国王城へ直接転移したに違いない。


(どうか諸神の加護がありますように……)





静寂——


この言葉が王城を形容するのに最も相応しかった。


「数百名の生存者が確認。その多くは倉庫などの空間に潜伏しており、おそらくは戦闘力の低い者どもです」


七席『占星千里』——シェリー・アリス・シエランが目を開け、報告した。


水明聖典出身の彼女は、予言系ディビネーション魔法——つまり情報系魔法の専門家であり、さらにこの種の魔法を強化する天生異能を持っていた。例えば、情報魔法の有効距離や範囲を大幅に延伸させることなどができた。


カッツ平原の大戦を遠隔観測することも、短時間で王城全体を探査することも可能だったが、精度の点では完璧ではなかった。


「……依然として、番外席や精霊王らしき痕跡は発見できません。非常に不味い状況です、ウィル」


実際には、限界時間の午後7時が近づく頃、法国内では既に印のついた装備品を通じて、情報魔法で『絶死絶命』の状況を追跡しようと試みられていた。


彼女の不興を買う行為ではあったが、緊急事態ではやむを得ない。


——結果は、全て無効だった。


これには前例がなかったわけではない。元・黒の聖典九席のクレメンティーヌが、この種の情報追跡から逃れるために最初に行ったことは、法国が授けた装備を捨てることだった。


(『絶死絶命』……人類至高の守護者たる貴様が、いったいどうしたというのだ?)


筆頭席、ウィル・トゥルー・ローランドは冷静を装おうとしたが、もはや心中的の不安を隠せずにいた。精霊国王城の入口は、彼の目には漆黒で不気味な洞窟の入り口のように映っていた。


「侵入搜索を開始する」彼は命令した。「シェリー、番外席の行動残影を映せ」


「——〈トラック・パーセプション〉」


魔法が発動した瞬間、『絶死絶命』が皆の眼前に現れた。残念ながら、半透明の映像——過去の一時点での彼女の残像である。


残像は、『絶死絶命』がここで取った行動を忠実に再現する。彼女は戦鎌を担ぎ、ゆっくりと王城に近づき、入口で左右に戦鎌を高速で一振りした。衛兵を殺したのだろう、その屍が今もそこに転がっている。


彼女は飛び散る血しぶきを見つめ、何か独り言をつぶやいたようだが、ウィルたちには聞こえない。


神が残した知識によれば、より高位のこの種の魔法では、過去の情景をほぼ完全に再現することも可能だという。しかし、第五位階の「トラック・パーセプション」では、ここまでが限界なのである。


「魔力を多めに消費だ、シェリー。残像の再生速度を速め、我々が追いつく」


「承知」


ウィルは続けた。「ストレース、途中で森林精霊と遭遇した場合、速やかに排除しろ」


「了解」十二席『天上天下』ストレース・フリー・フォントマスがうなずき、透明化して消えた。


「ティル、魔法に集中するシェリーの護衛を」


「は」八席『巨盾万壁』ティル・グランタイル・セドランがシェリーの傍に立ち、六大神伝来の二つの盾で彼女を護った。


片方の盾は様々な治癒魔法を発動でき、仮に『絶死絶命』が重傷を負っている場合には、この盾の出番となる。


この他、五席『一人師団』クインエッセ・ハセア・クインティアは、精霊王との遭遇戦に備えて大量の魔物を召喚し盾や囮とする役割を、ヴァレンは「テレポート」魔法による緊急撤退を担当する。


「行くぞ!」


ウィルは手中の槍を振り、加速された『絶死絶命』の残像を追って隊を率いた。



【ナザリック地下大墳墓】——


法国殲滅の命令は、炎の如くナザリック地下大墳墓全体に伝えられた。


外の世界は静かで、何の変哲もない平穏な夜であったが、この日、世界最強の組織は「総力戦」の実行を決定した。この世界に転移して以来、初めてのことである。


デミウルゴスとアルベドは、並んで玉座の間へと続く通路を速やかに歩いていた。


「守護者総管として尋ねる。準備は万全だな、デミウルゴス? シャルティア不在における第一~三層の防衛、評議国への対処、そして法国からの逃亡者阻止策は……」


「準備は整っております、アルベド。ただし、王国の時とは異なり、法国に関する情報は完全ではありません。戦争の継続に伴い、随時、対策の変更が必要となるでしょう」


「ええ」


彼らは歩きながら早口で会話し、真剣な面持ちで前方を見据えていた。


ソロモンの鍵の円厅の向こうでは、メイドが軽くお辞儀をし、二人のために扉を開ける準備をしていた。


「——とはいえ、王国殲滅の際に積んだ経験が、各方面の計画を素早く立案する助けにはなっているわ」


「まさにその通り。さすがはアインズ様……あの王国殲滅戦に、そんな潜在的な目的があったとは。法国殲滅への準備運動だったのですね」


「それだけじゃない。今回のアインズ様による精霊国への突然の『休暇』については、あらゆる目的を想定して考え抜いたわ。だがまさか、アインズ様がこれほどまでに正確に法国の急所を狙っていただなんて、思いもよらなかった」


「王国と精霊国での展開を結びつけて考えると……アインズ様は常に事件の流れを把握しておられるとしか思えません。しかし、これほど遠い未来までも看破されていたとは? この智謀は、まさに恐るべきものです……」


「揣摩憶測はよしましょう。それが無上の至尊たちの統合者たるお方の智慧というものなのでしょう」


「おっしゃる通りです。……同樣に恐ろしいのは、あの怒りでもあります」デミウルゴスがそう言う時、その肩は微かに震えていた。


ゴクリ。


アルベドは唾を飲み込んだ。


「ええ、恐ろしい。あの怒りを一身に受ける敵が、あまりにも…………アインズ様より連絡がありました。この後、ご自身で第八層へ向かわれるとのこと」


「第八層——まさか『あれら』まで動員されるというのか……!?」


「ええ。アインズ様は、まずは進攻時にナザリックの防御を強化するため、とおっしゃいました。白金鎧のような情報不足の敵対勢力が存在する以上、当然のこと。そしてもう一つの目的は……お分かりでしょう?」


「法国は国土が広大ゆえ、この大国を殲滅するための『効率』、ですよね……?」


アルベドは答えず、ただ微かに笑みを浮かべた。


デミウルゴスも同樣に微笑んだ。


彼らは玉座の間に到着した。他の守護者たちは全員、玉座の下に跪いて待機しており、第四層の守護者ガルガンチュアも起動していた。


そして玉座の上には、那位の無上の至尊が金の杖を手に、これまでとは全く異なる威圧感を放っておられる。


アインズ様は普段から威厳に満ちておられたが、今この時は……どう表現すべきか? アルベドとデミウルゴスは感じた。アインズ様の今の威圧感は日常とは比べものにならず、その視線には物理的な圧力さえあるかのように。


「ご苦労、アルベド、そしてデミウルゴス」


「恐れ入ります!」


「では、基本的な準備は整った、ということでよろしいかな?」


それは、詰問のようであった。


二人とも、アインズ様の怒りが法国に向けられていることは理解していた。しかし、二人は恐怖を感じずにはいられなかった。空気さえも凝固したかのようだ。


「——準備万端でございます」


「良かろう。では明日より、スレイン法国を地図上から抹消するとしよう」

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