5話 おばあちゃんの家、大捜索!
おばあちゃん家の匂いはなんだか懐かしい。お線香の匂いだってママは言ってたけど。
手紙を見つけたのはおばあちゃん家の二階。大きくて日当たりが良くて、人が泊まりに来るたびに使ってる客間。客間って言っても、遠くに住んでる息子や孫が来た時に使う場所だから、結構いろいろな物が置いてある。
おじいちゃんが昔取ったゴルフのトロフィとか、お土産でもらった置物だとか。箪笥には着物も詰め込まれてるから、自分の部屋に入らない物を置いてるみたい。
「この箱だよ、入ってたの」
棚の上から埃が被った白い段ボールを下ろして、中から桐の箱を取り出す。薄い小物入れで、ちょうど手紙が入るサイズ。
「封筒が何枚も入ってる……あれぇ? 他にも手紙入ってたのに、なんでないの?」
おかしい。私が見た時は他にも手紙入ってた。まだ見てないのにっ!
「ばあちゃんが持ってったんじゃないの? 封筒がいくつもあるし、他にも手紙はあったみたいだけど……封筒の宛名が黒く塗りつぶされてるなぁ」
「これじゃ誰宛てかわからないね」
「切手と消印はあるから、ちゃんと出された手紙みたいだし、わざと宛先を塗りつぶしてるとなると……ばあちゃん、このことあんまり知られたくないんじゃないか?」
「そりゃそうだよ。おばあちゃんとおじいちゃん仲良いし、絶対言い出しづらいよ。って、何やってんの?」
久人は手紙を折りたたんで封筒に入れてみている。
「いや、封筒あってるかなぁ。って思ってさ。うん、間違いなくこの封筒に入ってた手紙だな」
「お、自信がおありのようで。何を持って言い切るんですかね? ミステリー研究部員さん」
「刑事モノでも見たのか? 悪ふざけはやめろ……ほら、この手紙って一部汚れてただろ? この宛先を塗りつぶしてるとこが、その汚れた部分に重なるんだよ」
「わぁ、ほんとだー! すごい! ……でなんで変な顔してんの?」
「いやさー……この手紙は誰かに出されたものなわけだろ? なのにばあちゃんが持ってるのがわけわかんねぇんだよなぁ」
「宛先の相手がわかればそれもわかるよ。案外なんてことない理由だったりしてね」
「かもなー。まあ、じいちゃんの返信とか出てきたら話は早いんだけど」
「え、じゃあ婚約者からおじいちゃんがおばあちゃんを奪っちゃったとかそういう展開もあるの!?」
「お前はドラマの見過ぎなんじゃねぇか? ミステリーだと犯人役だろ、それ」
「もう! 夢見させてよ!」
久人は笑いながら部屋の中を探索し始めた。私もまだ手をつけてない本棚へと移動する。
「野乃花はさ、ばあちゃんに別に好きな人がいたって衝撃受けなかったわけ?」
「受けたよ。だっておじいちゃんとおばあちゃんすごく仲良くて、おしどり夫婦って呼ばれてるくらいだもん。でもさ、昔のお見合いって恋愛とかもなく結婚するって話じゃん」
「まあ、親とか親戚からの紹介が多かったらしいな」
「恋愛と結婚は違うってママも言ってたし、昔好きだった人がいても不思議ではないでしょ。好きな人に会いたいのは、女の子共通! おばあちゃんが顔を綻ばせて会いたい。って言ってたんだもん、私は会わせたいよ」
「ふーん。野乃花もそうなのか?」
「へっ? 私?」
いつの間にか後ろにいる久人にびっくりする。いつもより真面目な表情してるな。そんなにおばあちゃんの手紙に夢中になってくれるとは、うれしい限りだ。
「知ってるでしょー。私は、まだちょっとわかんないの」
恋したことがないって言えるわけがない。気恥ずかしくて身体を引こうとすると、緊張のあまり足がもつれた。
「いったぁ……」
「何やってんだよ……」
久人の手に助けられて身を起こす。やってしまった。本が大散乱してしまった。
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