1話 おじいちゃん宛ての手紙じゃない
このような手紙を送るのは不躾かと存じますが、どうにも思いが止まらず、聞いていただきたいのです。
私一人で、この思いに心焦がれることを耐えることができましょうか。あなたに、■■■■■■■■いただきたいのです。
あ■■に初めて出会った時、私はまともに目も合わせられず、話もうまくできませんでした。けれど、あ■■は優しく話をしてくださいました。
これを一目ぼれと言わずになんと申しましょうか。
恥ずかしがらずに話をすれば良かったと悔やまれて仕方ありません。空がきれいだと、おっしゃられた優しい声色が今もまだ耳に残っております。
柔らかく微笑んでくれた顔がまだ瞼に焼き付いております。
とても素敵な殿方であらせられる。
この思いどのような言葉にすれば届くのでしょうか。
どうか答えを教えてください。
かしこ
トシエ
「はぁ、すてき……」
おばあちゃんの部屋から見つけた恋文は、とっても情熱的で、おじいちゃんへの愛に溢れてる。
ところどころ汚れてたり、かすれてたりして文章がわからないところはあるけど、それでもしっかり伝わってくるんだからすごい。
「私もこんな恋、してみたい……!」
私は二通目の手紙に手を伸ばす。
先日はゆっくりとした時間を過ごせたこと感謝します。
新しい服を褒めていただいて、それはもう天にも昇る気持ちでした。以前より楽しみに準備をしたかいがありました。
ですのに、わたしといえば緊張してろくにうれしい気持ちを返せずにおりました。
■■■■悲しませたこと、心苦しく思います。
ですので、挽回のちゃんすを得ようと筆をとった次第です。
こうして私の気持ちを綴れば口でものをいうよりも、流暢に言葉が出てきます。けれど、私は口で私の気持ちを伝えたい所存でございます。
直接会ってあなたにこのお慕いしている気持ちを■■■したいと思います。しかしながら、私もお見合いをした身。家を出るのにも都合をつけねばなりません。
彼の方に知られてはなりません。わたしの恥部でございますから、どうぞご内密にお願い申し上げます。
ご都合の良い日時を教えてくださいませ。
かしこ
トシエ
「ご内密に……え? これって――おじいちゃん宛ての手紙じゃない!?」
うそ、うそぉ! じゃあいったい誰に向けて書いたものなの!?
「おばあちゃ~ん!!」
私は慌てておばあちゃんの部屋へ駆けていった。
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