グショウシンシステム
倶生神システム、というものが万界構想にある。
ただひたすら、その個人の見える範囲と聞こえるものを記憶し続ける『録』とそれらを常に執務艦『鯨』に送信し続ける『送』である。
その者を殺して溶鉱炉に投げ込んでも、その投げ込まれるまでの記録は送信されているので、証拠隠滅はできない。
三歳未満は医療が無料で、あらゆる検査も受けられるため、基本的に奴隷民は皆、万界の指定医師や病院にかかり、これを仕込まれる。
公務員は定期検診があり、必ずつけている。
まあ、眉の下に小さな黒子が増えた、程度のものなので、気が付くものはいない。
告知もしていない。
横領も汚職も、調べる気になれば、全部丸見えである。
泳がせるのは、すべてを網羅し、一人残らず捕まえるため。
その者の現在地もわかる。
マイナンバーも真っ青の、超監視社会であった。
「この子、粛清リストにいない、潔癖な公務員じゃないですか」
王がいらっとした声をあげた。
万界構想の特殊さで、たとえば軍の階層は『万界王兼任万界軍総司令官』をトップに、『海軍総司令官(王が海賊退治が苦手なため、ここだけ別に司令官が配置されている)』『万界軍曹司令官直轄(麾下と通称マインズ)』が特例で置かれているが、それ以下は『砦長統括』『砦長』『隊長』『一般兵』である。
公務員に至っては
『万界王』『代理王』『郡長(国レベルの管理者)』『市町村長』『各役場支部長』『一般地方公務員』
となる。
理屈では、王のすぐに手の届く位置に一般公務員も存在する。
王の部下がさらわれたようなものだった。
しかも、誘拐婚の地域に連れ去られていた。
地域内では黙認したが、外の地域にさらいにいったら、重犯罪である。
舐められた、と王はただ、激怒した。
「誘拐婚の続行地域。208万人でしたね。兵は、実行部2千万、アシスト6万、大規模作戦なので、砦長統括2名以上で兵站を維持せよ。砦長は100名で、現地で指揮をとれ。私も行く。殲滅戦を開始する。一匹たりとも、赤子一人、胎児さえも、生き残らせるな」
「地域外に出ている罪人がおりますが?」
「アシストから割け。・・・治安維持隊も動かせ。外地でそのまま射殺は周囲に悪影響。見られないところで、屠殺せよ。マインズから、さらわれた娘たち救出専任部隊を作り、動け」
「イエス・マム」
「治安隊は、娘をさらわれたのに、被害届を出さなかった家長を、人身売買の容疑で、国家反逆罪として逮捕し、速やかに刑に処せ」
初めてさらわれたのが、公務員だった?
そんなわけがないだろう。
被害届を出さない奴隷民が居たのだ。
おそらくは娘を金で売ったか、さらわれた娘に価値なし、醜聞になるからと黙ったのだろう。
軍をこれだけ動かすのだ。
いらない羊は一気に殺し尽くす。
砦長統括1「ああ、心が痛みますね。よくない羊を殺すのはなんとも思わないけれど、ここから始まる1ヶ月以上の休みのなさに。一般兵が死なないか心配です」
砦長統括2「一般兵は定期的に休みが回りますよ。それよりも砦長は過労死しそうです。あと、私たちも」
誘拐発覚から、2時間半後、誘拐されてから16時間後になる。
総司令官直属、マインズと呼ばれる特殊技能持ちの兵が民家に踏み込んだとき、誘拐された娘の頑固さと芯の強さがあだとなって、悲惨な状態にされていた。
「う、マムのお怒りがとけぬな、これは。ただの死刑ですまんぞ」
「あと、女兵が必要だった。速度重視が仇になったな。仕方ないから、俺が触れる」
ウエストポーチから、圧縮されたアルミシートを出して広げ、被害者女性を包もうと一歩を踏み、だそうした瞬間に。
「ああ、私がやりますよ」
と、王が言った。
え、いたのか。
いつ。
マインズ、計8人は一気に胃がぎゅっと萎んだ。
未使用のシートが投げ渡され、広げたソレをひったくり、王が被害者の前にしゃがみ込んだ。
爪が全部剥がされていた。
両目が抉られて、下顎を砕かれていた。
王「あーあ、ここ肥溜めはありましたっけ」
「ないです。排泄をどこぞにぽいするだけの不衛生な村です」
王「ないですかー、残念。殺した連中の腸を絞って汚物を取り出して、この誘拐事件の実行犯と、共犯と、血縁者の、目玉と口に突っ込んでおきなさい。殺す前に。生きている間にね」
マインズは、イエス・マムと従順に応じながら、よけいな手間増えたなぁと、嘆息した。
妻になることを承諾しない娘に、苛立った男達が爪を剥いだ後、それでも頷かないからもういいと、輪姦し、目球を抉って性器を突っ込み、口を開けないから、下顎を火掻き棒のような鉄の器具で砕いて、突っ込んだ。
というのが痕跡でわかる。
銀のシートに包まれた娘は、
「ましゃあ・・・えい・・・あ?(まさか、陛下?)」
と、狼狽した声を出した。
「助けに来ましたよ」
今まで、気丈にというか、もはや何者にも屈しない鋼の精神というよりは、普通の人間とはあまりにも違う性質で、凛とありつづけた娘が。
え、そんな。こんな姿を見られ・・・。
ああ、もう殺して
という思考に陥って、壊れた顎で、うまく喋れないのに、ぐずり泣きながら、訴えた。
あまつさえ、血と精液で汚れきった身を抱きかかえられて。
「もう いいていえませう・・・(もう生きていけません)」
と、言っている。
「マム、可哀想なんで、俺が運びます」
「こういう時は女の方がね」
「いえ、マム。貴方は性別超越した、不可侵な生命体なので。ああ、もう、女兵、女兵はおらんかっ」
アシストと外(誘拐婚許可地外)の狩りに回っているのと、地域から逃げようとした罪人を刈るために村や町の外側にスナイパーとして配置すると、村の中で駆け回る実働部隊に女性はほとんど居ないことになる。
誘拐婚という名の、誘拐強姦殺人鬼の村であるから、あまり女性を入れないのだ。
「第一次医療の許可。治療費は王の私財にて」
空を旋回している空中要塞鮫『ソード5』から、医療班とポッドが降りてきて、彼女を受け取った。
「すぐに治療します」
「目も顎も爪も元通りになりますよ。顎は気圧によっては痛みますけれどもね」
と、宥められながら、『ソード5』に戻っていき。
「とりあえず、村長は、村民全部死んだのを見届けさせてから殺してください。長のつとめですよ。目を瞑ろうとしたり、顔を背けるなら、瞼を狩り落とせ。誘拐婚という制度の取りやめを宣言しなかった市町村は全部、万界構想から削除です。もうついでに幼婚地域も削除するので、連戦になります。ペース配分に各自気を付けて。私の犬ども。私の兵ら。愛していますよ。私にきれいな家畜のみを残してください」
この言葉は全軍に通達され、実行された。
「子供は気が重い」
「あ、ここだけの話、大人は死ぬまでほっておくが、子供は、5分したら首を落として良い。まあ、手を下したくないなら、そのまま衰弱死か出血死するまでほっといてもいい」
連座の罪人達の歯を砕き、耳まで頬を裂いて、汚物を突っ込みながら、ベテラン兵が言った。
グショウシンシステムのおかげで、被害者の見ていたもの、目を失ってもシステムは記録し続けるので、少なくても実行犯・主犯は全部判別できる。あとはDNA走査して血縁を引っ張り出す。
狭い村だと血族婚も多くなるので、三親等まで連座にしている。
「子供の基準は12歳以下、でそれ以上は駄目だが」
「前は、3歳以下は助けませんでしたっけ?」
「3歳未満、な。助けてたこともあったが、それらの中でこの虐殺を記憶していて、成長したあとテロ起こして、きれいな羊(民道を守る奴隷民)が八百人以上死傷したことがあって。陛下は言われた。『子供を助ける気持ちよさという、自慰に過ぎない行為のせいで、まじめな良き羊を大量に死なせてしまうとはね』 以降、一人残らず殺すことになった。・・・助けた子らの犯罪率も高くてな一番きつかったのは、助けようと進言した兵たちが、ショックを受けて、出家してしまったし、何人もが『善意』が壮絶な悪意になって、自分でなく銃後の羊に返ったことに、気鬱を煩う羽目になって」
「う、すいません。助けたいって、オナでしかないです、すいません」
「まあ、我らがマムのご命令。考えるな。ただ、マムの嫌うものを排除せよ」
「ですねぇ」
「おっと、そろそろいいかな」
ベテラン兵は喉を汚物で詰まらせて、ほっといても死ぬだろう赤子の首を手斧でがつんとはねとばした。
「つぎは善き羊のところに生まれてくるんだよ」