6. 金曜日の怪人……②幸運(?)な一人
― Fun Fun Fun…… ―
誰かが通報したのだろう。店の外に数台のパトカーが駆けつけて来るのが見えた。
慎重に“刺激を与え過ぎない距離”を選んで止まった車両から展開する警察官達……
(おうおう……仲間のピンチにはすぐに湧き出して来やがるな! 今日は忙しくないのかよ?)
俺は……正直に言えば、困っているのが“警察官”じゃなければ、立ち去るのにもう少し躊躇したかも知れない。
「チッ……大勢の警察官を見るだけでイラッとする」
俺は──過去に二度警察を訪れた事があった。一度目は親父達が殺された時……二度目は“いじめの被害届け”を出そうとした時だ。
だが奴らは……その二度とも俺の事を警察署から追い払った。
一度目は、あれこれと難癖をつけて捜査を進めず……年々捜査本部は縮小の一途を辿っている。二度目のイジメの告発に至っては……結局、被害届けすら受理しなかったのだ。
その時の警官が言い放った言葉は……“そういう問題は親か教育委員会に相談しなさい”だ。
本当に人を馬鹿にしている。
(親は死んでるし、教育委員会には何度も通報したんだよ!)
あの時は本当に悔しくて悔しくて……
その後も無料相談をやっている弁護士に相談したりしたのだが……結局は弁護士を雇うにも金はかかる。
そんな俺が最後の頼みの綱だと思って駆け込んだのが警察だったのに……
「まあ、あんた達が“俺を門前払いにした警官”と別人なのは分かってるが、それでも助けるかどうかは別の問題だ。それに……なんと言っても俺は未成年だからな。誰かを助けるのは両親に相談してからって決めてるんだ」
そう呟いた俺は、マネキンの影からそっと抜け出し、そのまま店内へ戻ろうとした……丁度その時だった。
銃を振り回しながら喚く男の声が聞こえたのは……
「だいたい……あいつが悪いんだ! 能無しのくせに俺から逃げ出しやがって……黙って働いて俺の所に金を運んでいればペットとして可愛がってやるのによ〜 それをコイツラが邪魔しやがって……俺はペットに飼い主に逆らったらどんな目に遭うか……じっくり躾てやろうとしただけだ!!」
……俺の足が止まった。
――――――――――
「ん……お前怒ってるのか?」
何がきっかけなのかは分からんが──突然リンクを介して伝わって来たそれは……
赤黒い溶岩の様な粘つく怒りだった。
多分……兵児の奴は気づいてないんだろうが、オレとあいつの間に繋がったリンクは言語だけを伝える物じゃない。
オレと兵児とでは精神の在り方に大きな違いがあるので、こっちの感情は殆ど伝わらないが……
『いや……うんざりしてるだけだ。それより、帰りがちょっとだけ遅くなる』
リンクから伝わる感情とは裏腹な言葉……コイツはオレの〔核〕を取り込む前からこの感情を抱えていた。〔核〕を取り込んでから少し性格が変わった様に見えるが……本当はこれがコイツの本質なんだろう。
「………液体肥料ってのを愉しみにしてたんだがな。まあ早いうちに今の身体がどういうもんか試すのも悪くねぇさ」
『悪いな……』
正直に言えば……オレは自分がマンドラゴラとして生育している間に〔適核者〕と巡り遭うなんてまったく想像していなかったのだが……
(今代の〔適核者〕がどうなって行くのか……まあ、じっくりと見極めさせて貰うさ)
――――――――――
「悪いな」
根菜類に帰宅が遅れると告げた俺は……ハロウィン用衣装として展示されていたホッケーマスクをマネキンから剥ぎ取り、代わりに1000円札を衣装のポケットにねじ込んでおいた。
もしかしたらコレじゃ足りないかも知れないが……
「まあ……もし足りなかったら警察に請求してくれよ」
顔バレしない様にキツく装着用ベルトを締め付ける。ちなみにエコバッグは背負いヒモが付いたタイプなので背負ってしまえば問題無い。
「よし……行くか」
――――――――
アタシがその騒ぎに出くわしたのは……同期の友人達と待ち合わせた店に向かう途中の事だった。
― ドウンンンッ ―
腹の底に響く轟音が後ろから聞こえ、慌てて振り向いた先に在ったのは……
「マジ? ……こんなの初めて見たわ」
そこには地面に血溜まりを広げながら倒れている警察官と……明らかに普通の状態には見えない男に包丁を突きつけられた女性警察官が居た。
「離れろ! ちょっとでも近づいたらコイツを殺す! お前等もだ!! もっと離れろ!!!」
突然の凶行を目の当たりにした通行人達。
男の叫声と……振り回す銃に気付いた彼らは我先にと逃げ出し始めた。
「わっ!?」
その勢いは朝の山手線も真っ青な……いや無秩序に逃げ出す群衆の迫力は秩序だった流れよりも更に恐ろしかった。
― ガッ ―
血相を変えたオバサンが、無言でアタシの事を突き飛ばして走り去って行く。
「あっ……」
不覚……突き飛ばされた拍子にスマホが路駐トラックの下に潜り込んでしまった!
「何すんのよ!! クソっ……」
大事な大事なスマホを救出する為にトラックの下に潜り込む。たとえ暴漢が暴れているとしても……スマホを見捨てる選択など有り得ない。あのリンゴマークが輝く最新モデルはこの三ヶ月のバイトの成果なんだ。
「コイツはこれから人気Qチューバーとしてデビューするあたしの相棒だからね……簡単に諦める訳にはいかないんだ……よ!」
狭い隙間に体を押し込み相棒に手を伸ばす。なんとか身体を押し込み、伸ばした手の先にギリギリ届いた相棒を回収した。
「……やった! って……あれ?」
その時になって──
初めてトラックの周りに人影が無い事に気づく。
「ウソ……」
あわててさっきの暴漢の方に目を向けると、あい変わらず何か大声で喚いている。仮にここからノコノコと這い出したりしたら……
絶体にあの男の目に留まるだろう。そうなったらどんな目に遭うか分かったもんじゃない!
(……カンベンしてよ)
自分の迂闊さを呪うが……今更どうしようもない。
(いや……待てよ?)
本当に不運なのか?? 確かにヤバい状況ではある。だが……こんな場面、間違い無く一生に何度も拝めるもんじゃない!
(もしかしたらこれは……アタシがのし上がるきっかけになるかもしれない!)
アタシは出来る限りそぅっと動画配信のアプリを起動した。同時にバックライトをギリギリまで暗く調整する。周りはギラギラのネオン街だしそこまで目立ちはしないだろう。
「行くぞ……」
タイトルといくつかのハッシュタグだけを打ち込み、リアルタイム配信を開始する。
― Fun Fun Fun…… ―
配信開始とほぼ同時にパトカーが数台駆けつける……いいぞ! 臨場感半端ない!!
(やっば……タイムリー過ぎる!! 間違いない。これは二度とお目にかかれないほどのチャンスだわ!!)
あそこに倒れている警察官は気の毒だが……閲覧者数が毎秒ごとに跳ね上がっていくのを見たアタシは確信した。
カメラアングルを駆けつけた警察官達も映る様に調整……彼らは周囲の人間が安全圏に逃げ果せたのを確認して、今度は犯人に向かって説得を始めた。
(暴漢はめちゃくちゃ興奮しているみたいだけど……そんなに刺激して大丈夫なの?)
「……?」
リアルタイム配信は既に訳の分からない閲覧者数になっている。と、それと同時にコメントも多数書き込みされていて……中には批判的な物や、さっさと逃げるべきだなんて物も多い。
(フェイク? 編集なんか出来ないわよバカ! リアルタイムだっての!)
確かに暴漢の垂れ流す自分勝手な理屈は、ともすればヤラセかと思う様な物も多いけど……
(だけどこれリアルタイムだから! ってか、通り魔なんてどうやったらヤラセで撮影出来んだよ!)
当然だがリアルタイム配信なので編集するのも無理だし……それに、
(今の時点でも“血だらけにの警官”なんて刺激的コンテンツなんだ。それこそ何時BANを喰らうか分からないから!)
― ゴロゴロゴロ…… ―
ウソ?! 出かける前からヤバい天気だったけど……ここで雨なんてやめてよ!
― カッ! ―
わー?! 光った!!
これ現場の雰囲気バリやばくな……はっ?
「………??? なによアレ?」
稲光で視界が白く染まったその次の瞬間……暴漢の後ろに人影が現れていた。
「はぁ……何で??」
そこには、ホラー映画でお馴染みのあいつ……
ホッケーマスクを被った筋骨隆々の男が立っていた。
いつも読んでいただき誠にありがとうございますm(_ _)m
私の作品はどれも展開が遅いです。本音を言えば自分でもどんどん話を転がしていきたい気持ちはあるのですが……
最近では……これはもう物書きとしてのスタイルだと割り切って“遅い展開を読ませる”努力をしています(笑)
何卒お付き合いいただければ幸甚にございます。
あと暫くは午前零時をタイミングとして更新していく予定ですが……仕事の都合でこのペースを続けるのはあと少しになりそうです。
更新が出来るうちに区切りよく締めたいです。
読者の皆様には面倒な事とは思いますが、もし少しでも興味を持ってもらえましたなら……
イイネ、ブックマーク、☆評価、感想など……
どんな反応でも嬉しいです!
是非応援のほど……よろしくお願いいたしますm(_ _)m