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5. 金曜日の怪人……①不運な二人

……?


(何事だ?)


 微かに聞こえた悲鳴……俺はエコバッグを掴んで出入り口へと急いだ。


(……嫌な予感がする)

 

 ― ドォンッ……… ―


(???)


 出入り口に到着する寸前……体の芯まで響く轟音が店の外から鳴り響いた。


 間髪入れず、聞こえてきたのは……


「離れろ! ちょっとでも近づいたらコイツを殺す! お前等もだ!! もっと離れろ!!!」


 と半狂乱で喚く男の声。


 俺は、あわてて出入り口に並んだハロウィン用衣装(コスプレ)のマネキンに身を隠し、隙間から外の様子を伺った。

 

「マジかよ……さっきの男じゃないか!」


そこで目にしたのは……


 あの刺激臭を放っていた男が、女性警察官に特大の包丁を突きつけ……もう一人の警察官が血溜まりに倒れる姿だった。


――――――――――


 最初、その男が警邏中の私の目に留まったのは偶然だった。


 服装はツイードのジャケットに生成りのコットンパンツ、足元は黒のレザースニーカー……手は膝の上に置いた黒のナイロンボストンをぎゅっと握りしめている。


 座っているから身長は分かり難いが、線も細いしさほど大柄な人間では無さそうだ。


 一見なんでもない市民が休憩をしている様にしか見えないが……私の記憶が正しければ、彼はもう一時間はあそこに座っている。


「ちょっと……」


 同僚の肩を揺すって注意を促す。今日の当直でペアを組んでいたのは今年やっと本採用になった後輩の巡査だ。


「あの人……少し様子が変よ。ちょっと声を掛けてくるから、ここお願いね」


「……僕が行きましょうか?」


 180cmを超える巨漢で……クマのプーさんの様な温和な顔つきの後輩が、僅かに不安そうな表情を浮かべる。


 彼は見た目こそ優しげではあるが、剣道の腕前は署員の中でも随一と評判の男だ。学生時代(インターハイで)は日本一に輝いた事もあるらしい。


 それに引き換え、私は女性警察官の中でもそうとう小柄な部類に入る。これでも訓練は欠かさず続けているが……


(彼から見たら……不審者へ単独で対処するには不安なのかしら?)


 僅かな時間、彼の心配を嬉しく思う私と煩わしく思う私が心の中で反目し合うが……今は勤務中だ。


「大丈夫、少し話を聞くだけだし……万が一の時はバックアップをお願い」


「……ウッス。了解しました」


 僅かな沈黙に続く返事に頷いてから、私はゆっくりした足取りで男の方へ向かった。なるべく視線を気取られない様にしながら男に近づいて行く。


 男の面相はマスクをしているせいで詳しく分からないが……細い銀縁眼鏡の奥にある眼がキョロキョロと落ち着かなく動いている。その様子からすれば、何か……もしくは誰かを探しているのは間違いないだろう。


「あの……すいません」


 なるべく刺激する事の無い様に……穏やかに声を掛ける。恐らく私が近づいていた事には気づいていた筈だが、男は自分が挙動不審だとは思っていなかったらしく……私に向けた視線は声を掛けられた事に心底驚いている様子だった。


「はぁ……なんですか?」


 男は、私と目を合わせず不躾な返事を返してきた。


「……随分と長くそこに座っておられるようですが大丈夫ですか? もし体調がすぐれないのなら……」


 ― ちっ ―


 男は私の話が終わる前に、小さく舌打ちしていきなり立ち上がった。


「休憩していただけです」


 男は早口でそれだけを口にすると、その場から立ち去ろうとする。


「ちょっと待って下さい。少しお話を聞かせて……」


 私は思わず男の肩に手を掛けていた。思えばこの行動は、任意の職務質問としては適当な行動ではなかった。


 あえて言い訳をするなら……


 この時の私の行動は、この男を見て“何か良からぬ事を企んでいるに違いない”と感じたからなのだが……


 後日、この事件を振り返った時。


 私は曖昧に感じた予感で行動した事を激しく後悔する事になる。


――――――――――


 男は無言で掴まれた肩に視線を落とし、次の瞬間……


 ― パシュッ ―


 自分の身体の影から、私の顔へ何かのスプレーを噴射した。


「キャーっ?!!」


 あまりに咄嗟の出来事で……私はロクに避ける事も出来なかった。


 かろうじて両手で顔面を覆う。だが、既に噴射された液体は次の瞬間に“熱さと刺激”に変わり……目と鼻腔、そして口腔にも拡がっていく。


「ゲホゲホォッ」


(油断した! こんな物を無防備で喰らうなんて……どんだけマヌケなのよ!)


 おそらく──浴びせられたスプレーは痴漢や害獣避けに販売されている護身用具の類だ。今すぐ水で洗い流せば後遺症を残す事は無いはずだが……


(こんな物持ち歩いて警官に躊躇なく浴びせるなんて……どう考えても()()()じゃない!)


「貴様! 先輩に何をした!?」


 怒号と共に近づいて来る足音。その時、初めて近藤巡査(後輩)が異変に気づいてこっちに向かった事に気づく。


「来るな! あっ」


「ちっ、余計な事を言うな!」


 私は背中を蹴られた感触と共にその場に倒れ込んだ。


 ― ドボッ ―


「 ──カハッ 」


 同時に鳩尾に靴の感触が食い込み、痙攣した横隔膜が肺の中に残っていた空気を無理やり押し出した。


「ヤロウ!」


「馬鹿が! 大人しく観光客の道案内をしてれば良いのに余計な事をしやがって!!」


――――――――――


 ほんの10メートル先で……肩を掴まれた男が振り向くと同時に、先輩が悲鳴を上げた!


(??)


 俺からは先輩が何をされたのかは見えなかったが、()()先輩があんな声で悲鳴をあげるなんて……有り得ない!!


「貴様! 先輩に何をした!?」


 先輩はその場で顔を抑えて酷く咳き込んでいる。俺は即座に男に向かって走り出したが……その時、男の手にガングリップが付いたスプレーが握られている事に気付いた。


(催涙スプレー?!)


「 く゛る゛な゛ 」


「ちっ……余計な事を言うな!」


 俺は、先輩の言葉と男の催涙スプレーらしき物を見て一瞬無防備に近づく事を躊躇したが……


 男は無防備な先輩の背中を蹴りつけ、その場に倒れ込んだ先輩の鳩尾に蹴りを入れやがった!!


(野郎!!)


 その様子を見た瞬間、俺の頭の中は即座に沸騰した。


 その場でベルト(ホルスター)に手を伸ばし、特殊警棒を引き抜くと……左腕で目の前をカバーしながら突進した。


「馬鹿が! 大人しく観光客の道案内をしてれば良いのに余計な事をしやがって!!」


 男は怒号を上げる……が、


(この間合いならスプレーが俺の目を潰すよりこっちが一撃食らわせる方が早いはずだ!)


「ちっ!」


 ― カンッ ―


(???)


 だが、男はこちらの想定とは全く違う行動を取った。何故か、男は足元に()()()()()()()()()()()た??


「馬鹿が!!」


 ― ドォッ ―


 轟音が俺の鼓膜を震わせ……同時に強烈な()()を喰らった様な衝撃!


 次の瞬間、俺は意識を手放していた。


――――――――――


「アレは……あいつがやったのか?」


『ん? 何かあったか?』


 俺の呟きがリンクを通して聞こえたのか……自宅の根菜類(マンドラゴラ)が俺に話し掛けてきた。


「ああ、買い物が終わったから帰ろうとしたんだが……店の前がエラい事になってる」


 俺は状況を手早く説明した。


『かー、まったく不条理極まりないな。そいつが何をトチ狂ってんだが知らんが……官憲とコトを構えるなんて“社会生動物”の行動としては下の下だぜ』


 根菜類がそんな感想を語る間にも……店の外では、男が何かを喚いている。


 男は片手で女性警察官の首元に包丁を当てているのだが……もう片方には、なんと短く切り詰められた散弾銃持っている。


 察するに倒れている警察官はアレにやられたのだろう。


『まあ、そんな見ず知らずの奴らの揉め事になんぞお前が首を突っ込む必要も無いだろう。さっさと帰ってこいよ』


「……そうだな。あの倒れている人には気の毒だけど……犯罪者をなんとかするのは警察官の仕事だからな」


 幸い、男は出入り口に背を向けている。このまま店内の方へ戻れば気づかれる事も無いだろう。他の客も異変に気付いたのかこちらの出口には来ていない。


 店の外では、普段は野次馬根性丸だしの街の奴らも、蜘蛛の子を散らす様に逃げてしまっている。


 まあ、派手な銃声と負傷した警察官を見れば当然だろう。


 一部の危機感の足りない奴らが、少し離れた車や電柱の影からスマホのカメラを向けていたりもするが……


 そんな奴らが流れ玉に当たったとしてもそれは自業自得って奴だ。

 いつも読んでいただき誠にありがとうございますm(_ _)m


 第五話は如何がだったでしようか?


もう暫くは午前零時をタイミングとして更新していく予定です!


 読者の皆様には面倒な事とは思いますが、もし少しでも興味を持ってもらえましたなら……


 イイネ、ブックマーク、☆評価、感想など……


 どんな反応でも嬉しいです!


 是非応援のほど……よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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