31. 金曜日の芳香
「兄貴! ブレーカーはなんともありません。どうやら……電気自体が来ていないみたいっす!」
「……なんだと?」
マグライトを持ってチェックに走った部下が告げたのは……停電の原因がまったく分からないという事実だけだった。
不審に思いながら執務室の窓から外の様子を伺う。近隣の建物や街灯の電気は消えてない?
(まさか……小娘を拉致した事が漏れた? いや、こちらが拉致した目的は宮野弁護士への脅迫だ。現状ではそれすら行っていないのに……誰がここに来るってんだ?)
「まずいな……お前ら、侵入者の形跡が無いか出入り口と窓をチェックしろ。俺は地下の金庫室を確認する」
「「うっす!」」
部下達が全員一階に向かって散った後……俺は執務室の奥の書棚から収められたファイルボックスの一つを引き出した。ぽっかりと開いたスペースの奥に手を入れ合板の模様に偽装されたスイッチを押し込む。
― カチッ ―
施錠が解放される音が響く。解錠音を確認した俺は腕を引き抜き、そのまま書棚の横に移動して両手で押した。
書棚は書類整理に使用している本物なので結構な重量があるが……実際は外から見えない車輪に乗っているので問題無く動かすことが出来る。
そして……書棚の後ろから、この建物で唯一地下の大金庫に繋がる階段室への入口がぽっかりと口を開けた。本来なら書棚をスライドさせた時点で照明が点灯する仕組みだが……
「ちっ、当然ここも停電してる……か」
スマホのライトを点灯して書棚のスライドを戻し地下の金庫室へと降りる。
地下に金庫室が備わっているのは元々ここが信用金庫の建物だったからだが……一階の階段室への進入路を壁で塞ぎ、二階の執務室からしかアプローチ出来ない様にしたのは俺だ。地下への経路が一階に存在しない……これが意外なほど金庫室の秘匿に効くのだ。
― コツコツ ―
すぐに地下室まで降りてスマホのライトを周囲にかざす。正面に見える大金庫の扉や周りには特におかしな所は見当たらない。
「ちっ……心配しすぎか」
「いや、助かったよ」
背後から聞こえた聞き覚えのない声に……俺は即座に腰のホルスターから38splを引き抜こうとしたが……
「こんな所に地下への階段が隠されてるとか……自力で見つけられる気がしないからな」
腰の後ろに回した腕と反対の肩を同時に掴まれ、身動きを封じられた。俺は即座に身を捻って拘束から逃れようとしたが……???
「てめぇ……何者だ? 俺の部下達はどうした?」
右腕と左肩を掴まれただけで特に関節を極められたわけでも無いのに……俺を掴む背後からの手は全く微動だにしない?!
(ちっ……なんて馬鹿力だ?!)
「さあな? みんな残業続きで居眠りでもしてるんじゃないか?」
そんなはずねぇだろうが! まさか……五人全員コイツに殺られたってのか?
「そんな事より、その金庫の中に居るんだろ……宮野茜が? お前らの話しぶりじゃ他所に監禁してるとも思えなかったが……どうりで、声も聞こえねぇし匂いもしないわけだ」
(くそっ)
どうやってここにたどり着いたのかは分からねぇが……やはり娘の関係者か。それにしても俺達の話を聞いたって? まさか……盗聴されたのか?
(まったく……なんて間抜けなんだ。自分達が盗聴や監視をしているんだ。どうして向こうがそういう事をしてこないと思ってたんだ?)
確信する様に自分が知っている事を語った男に……俺は内心で舌打ちをしながらしらばっくれた。
「はっ、何の事だか分からね……」
― ボグゥ ―
「ぐぁっ?!!」
嫌な音と激痛が……肩から脳へと走りぬける。
(こいつ腕を捻って俺の肩を抜きやがった?! 馬鹿なっ、関節技で極めらてるならまだしも……まさか肩関節を力尽くで外したってのか??)
「いいか? お前達が彼女を攫ったのは分かっている。余計な問答をするつもりも無い。お前が金庫を開けるつもりが無いと言うなら……開けたくなる様にしてやるだけだ」
「おいおい……勘弁してくれよ。俺はこう見えても頭脳労働が本職なんだ」
「そいつは手間が省けて助かるな。さあ、開けろ。それとも……幾つまで関節が外れる痛みに耐えられるか試してみるか?」
何処から現れたのかも分からない男は……俺の腕から手を離して腰のリボルバーを抜き取りぎこちない手つきで弾を抜く。
と、そのまま足元に弾丸を捨て俺の愛銃から振り出された弾倉を………(???)
― メギッ ―
力任せにへし折りやがった??
「……ありえねぇ」
「夢だって? なんなら……目が覚めてるどうかの確認を手伝ってやろうか?」
「……分かった。手荒にすんじゃねぇよ。俺は頭脳労働が本職……ひっ?!」
その時になって……初めて俺は背後の侵入者のフードの奥に隠れた顔に視線を向けた。
俺の取り落としたスマホのライトは……あの有名な殺人鬼の仮面を暗い地下室に浮かび上がらせていた。
――――――――――
半グレ共に兄貴とか呼ばれてた男は、渋々大金庫の扉へと進んだ。
男は肩関節の無事な右手を使って金庫にある30cm四方の扉を開いた。おそらくその中に金庫を開閉する為の機構が納められているんだろう。
「……ちっ……片手じゃ操作しにくい」
ブツブツ言いながら中の機構を弄くっている男。小さな扉の中からカチカチと鳴る作動音が聞こえるのは……ダイヤル錠でもついてるのか?
「なあ、あんた? 一つ聞かせてくれねぇか? 今回の事……どうして俺達の仕事だって分かったんだよ?」
男は手元でカチャカチャと機械の音を鳴らしながら俺に探りを掛けてくる。残念だが俺はお前たちの対立組織では無いのでそんな探りには意味がない。
「お喋りしてる余裕があるなんて大したもんだな?」
「おうおう……おっかねえ」
― プシュ ―
なんだ今の音は?
「まったく……あんた、仮面のセンスからしてただもんじゃねぇのは分かるぜ? だけどよ〜 俺……も色々としがらみ……ってのが…あるんでな〜」
何故か突然男の呂律が怪しくなって……同時に男の方から嗅いだ覚えのある匂いが漂ってきた?
「コいツはなぁ……つカい方が難しィんだヨ」
― グォグッ ―
今度は……知らない間に扉の中に突っ込まれていた左腕の肩から鈍い音が?
(?? コイツ……まさか左手で何処かを掴んで無理矢理肩を入れたのか? 下手をすれば関節が外れるより激しい痛みが襲う修復方法だぞ?)
この身体になって初めの一週間を部屋の中での治験に費やした俺は……凡そ人体が感じる痛みには相当に詳しい。
いつの間にか……振り向いた男は、金庫の扉の中に隠してあったとは思えない白鞘の日本刀を右手に持ち、何処か焦点の怪しい眼で俺を見つめていた。
「さあ……もう一度ヤロウか?」
男の身体から……何か得体のしれない香りが地下室に充満していく……これは……?
「そうか……お前、金曜日に暴れてた猟銃の男と同じだな?」
長らく更新お休みしてしまい申し訳ありませんm(_ _)m
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