29. どいつもこいつも……②
「それは……」
確かに俺みたいなのは他人から見りゃ理不尽そのものだろうが……
「……ま、おめぇが何モンなのかは俺にとっちゃどうでもいい事さ。俺は薬の代金分の仕事をこなす。お前は愛しの君を救い出す……WIN‐WINの関係ってヤツだな」
「ああ……ってちょっと待て。愛しの君ってなんだ? 彼女はそんなんじゃない!」
「へぇ……ま、そういう事にしとこうか。おら、着いたぞ」
「まったく……これだから昭和生まれは……」
俺は爺さんの軽口にブツブツ言いながら窓の外を確認する。そこは……Dante666のマスターが挙げたいくつかの候補の中で、一番盗聴犯の可能性が高いとした反社会的勢力の社屋の前だった。
幹線道路沿いに堂々と金融会社の看板を掲げたその建物はさも堅気然とした社屋だが……リフォーム代をケチったのか入口の上には古い社名を剥がした跡がくっきりと残っている。
「どうやら潰れた信用金庫の社屋を買い取ったみたいだな。爺さん、ゆっくり建物の周りを一周してくれ」
「おう、任せときな」
ゆっくりと道路沿いに進む爺さんの車は角地に建つ建物の裏手に向かって曲がった。どうやら裏は専用の駐車場になっているらしい。ここはそこそこ人通りもある町中だが、こちらからなら攫った宮野を運び込む事も難しくは無いだろう。
「しかし……半グレどもが街金を表看板にするのは定番中の定番だが、見た目はどう見ても堅気の会社だな。まぁキリヤの情報通りなら中身はまともじゃねぇんだろうが……」
こんな時間なので当然入口は閉まり、窓を含めた外につながる場所には分厚いロールカーテンが下りているが……その隙間からはうっすらと明かりが漏れている。
「なんにしろ中に誰かが居るのは間違いないさ。爺さん、もう一度前に停めて暫く静かにしてくれ」
「おう!」
俺は車が止まる前に後部座席のウインドゥを下げ、停車するのと同時に眼を閉じ古びた社屋の中に意識を集中する。
今の俺がその気になれば中の人間の話し声くらいなら楽勝で聴き取れる。
「あのマスターすげぇな…………当たりだよ爺さん」
――――――――――
「なぁ、兄貴……おのガキもう喰っていいだろ?」
「そうだよ兄貴……どうせやっちまうんだからさ」
「うるせぇ!! 大人しくしてろ!!」
(このバカ共が……俺が好き好んでこんな危ない橋を渡ってるとでも思ってやがんのか!)
「いいか……まだ、あのお偉い弁護士先生が明後日の裁判で馬鹿な真似しねぇとも限らねぇんだ。ギリギリまで余計なリスク積む様な真似はするな!! いいなこれは命令……」
― Boon…… ―
頭の足りねぇ部下共に言い聞かせてる最中に……俺の内ポケットでスマホが唸りだす。
(ちっ、どいつもこいつも……)
画面を確認すると……俺達の業界御用達“通話記録自動破棄型”の通話アプリがアイツの着信を表示している。
『娘は?』
「ピンピンしてる。あんまりうるせえから薬で眠らせたがな」
『良いだろう。指示があるまでは大人しくしていろ』
ちっ……偉そうに。
「分かってる。だが……この件が終わったら例のモンは返して貰うぞ?」
『随分と鼻息が荒いじゃないか? そんなにこの裏帳簿が上の人間の手に渡るのが怖いか?』
「………」
『ククク……安心しろ。大陸の組織が裏切り者に厳しい事は良く知っている。一族郎党女子供まで皆殺し……そんなニュースはこっちも見たくはない。たとえそれが電話越しににしか話した事のない他人の運命だとしてもな』
「てめぇ?!」
『また連絡する』
― pi、 ―
「グッ……クソっ!!」
俺は反射的にスマホを投げつけそうになる手を危うく押し留めた。
――――――――――
久宝君から受けた唐突な電話の後……
私は既に退勤していた署に戻り、自分の席で久宝君が知りたがっていた事件の調書をチェックしていた。
「と言っても、特におかしな所は無いのよね……」
この事件は既に送検された事件だ。言い換えれば、警察としては“これ以上の捜査は必要無い”と判断されたという事なのだが……
「なんの目的でこの事件の事が知りたかったかは分からないけど……放っとくと余計に変な事に……」
「よう……今日は帰ったんじゃなかったか?」
― ビクッ ―
薄暗い刑事部屋で突然話し掛けられ……私は思わず椅子の上で飛び上がってしまった。
「……びっくりしたぁ。勘弁してください椚さん」
なんの気配も感じさせず私に話しかけてきたのは……刑事部屋で私の研修指導員を務める椚六輔警部補だった。
「すまん。誰も居なかった筈の刑事部屋から明かりが漏れていたから気になってな……」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。少し気になる事がありまして……」
「そうか……仕事熱心で結構。俺が君の歳の頃は……いや、やめとこう。昔話は老害の証拠らしいからな」
「いえ、そんな事は……椚さんこそこんな時間までどうしたんですか?」
「いやなに“金曜日の事件の報告書はまだかっ?”って部長がうるさくてな……カミさんに今夜も遅くなるって電話をしてきたとこだ」
あの時……現場を指揮していた椚さんは、久宝君を取り逃がした事で上から叱責を受けたらしい。
父がそれとなく手を回しているから、彼の評価が下がる様な事は無かったはずだが……
(申し訳ありません椚さん……)
私は心の中で彼に謝罪したが……そんな事は当然伝わるはずもない。
私が黙ってしまった事を不思議そうな顔で見つめていた上司は……疲れた顔で流れる様に紙タバコを咥えた?
「ちょっ……班長、署内は禁煙ですよ?」
「……分かってるさ。咥えただけだ」
「いや、今明らかにライターを握ってましたよね?」
「……良い推理だ。真壁ちゃんは良い刑事になるよ」
「そんなので誤魔化されませんから……あとちゃん付けはセクハラです」
この昭和のテレビドラマから抜け出て来た様な昔気質の刑事は……そっとオイルライターをポケットに戻し、黙って両手を挙げた。
「降参だ……で、その仕事熱心な真壁刑事はいったい何を調べてんだ?」
「実は……」
私は……パソコン上に開いたままの捜査記録のファイルをチラッと眺めた。
「少し前に起こった“男性医師首刈り事件”の事でちょっと……」
― ピクッ ―
椚さんの顔に……ほんの少し何かが過った気がした。
本作をここまでお読みいただいた読者様……誠にありがとう御座います!
更新遅くなって申し訳ありません。どうしても私生活の事で時間が取れず……(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
そして……本当は読者の皆様へお願いをするのは恐縮なのですが……
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