28. どいつもこいつも……①
「おう……そうか……本家の連中には知らぬ存ぜぬで通せ。ああ、あと兄弟には直接見舞いに行くって言っとけ」
運転席でイヤホンマイクに向かって指示を飛ばす爺さん……どうやら墨河会総長の怪我は無事に治癒したみたいだな。
「よお! おめえの薬ってのは大したもんだな?! さっきまでやばい位置に残った弾のせいで手の施し様が無かった兄弟が……もう意識が戻って腹が減ったって抜かしてやがるらしいぜ?」
「そんな事より……宮野茜の居所に見当はついたのかよ?」
この爺さん、なんかさっきからウキウキしてないか?
「まぁ任せとけよ……蛇の道は蛇ってな!」
俺の心配を他所に上機嫌で車を走らせていく爺さんは……歳のわりにハンドル捌きが抜群に上手い。
デカい車体のこの車を結構なスピードで流してるというのに……全く危なく感じない。多分だが、普段から相当車の運転に慣れてるのだろう。
「なら何処に向かってるかくらいは説明してくれよ」
「そいつは吝かじゃねぇけどな……もう到着したぜ?」
爺さんが車を滑り込ませたのは組事務所が入っていたビルよりも更に一回り大きい雑居ビルの敷地だった。
そこを半周する様に建物の裏手に回ると、そこには地下駐車場の入口が表通りから隠されるように存在しており……爺さんが車を停めた途端、何の誰何も無しにゲートが上がる。
どうやらこの車両は自動認識システムに登録されているらしい……よほどの顔見知りなのか?
「おい?? まさかここに宮野がいるとでも?」
だとしたら……やっぱり罠か?
「慌てんじゃねぇよ。ここに居んのは……まぁなんだ、いわゆる“情報屋”ってヤツだ。一応言っとくが……お前暴れんじゃねえぞ? ただでさえ気難しいヤツなんだ」
「……それで宮野の行方が分かるんならな」
車を停めた爺さんと俺は地下駐車場のエレベーターに乗り込んだ。俺が雑居ビルのテナント案内を眺めていると……爺さんは行き先ボタンを何やら複雑な手順で次々と押し始る。
「爺さん、何して……」
「まあ黙って見てろ。ここの店主に会いたいならな……それなりの手順ってヤツが必要なんだよ」
そう言った爺さんは最後に6Fのボタンを連打し続け……不意にエレベーターが動き始める。ただ……
(このエレベーター、案内では一番下の地下駐車場から乗ったのに……下に向かって動いてる?)
それから暫く……と言っても時間にすれば10秒ほどだろう。滑らかに降下したエレベーターは目的階に到着したらしい。反射的に階数表示を見た俺の視線の先には……
(666? 随分と悪趣味だな)
いや、こんなマスクを被ってる俺に言われたくは無いか……
「さあ、着いたぜ」
開いた扉から慣れた様子で爺さんが歩み出る。俺は爺さんに続いて“獣の数字”を示す階層に足を踏み入れた。
そこには間接照明に浮かぶ暗紅色のカーペットが敷かれた通路と“あらゆる拷問に悶える人間”が彫り込まれた趣味の悪いドアが一枚……
「おい……客が来てんのに出迎えも無しかよ?」
正直、さっきの組長室より趣味が悪いドアの前で爺さんが怒鳴った。あんた……気難しいって言ってなかったか?
〘花田さん……ウチが一見さんお断りだというのはご存知でしょう?〙
スピーカーから聞こえたのは……意外にも若い声だった。電子的な加工のせいで男か女かまでは分からないが、イントネーションにはかなりの若さを感じさせた。
「てやんでぇ! 招待する人間が居なきゃ誰が来たって一見だろうよ!?」
…………
― カキッ ―
〘まったく……これだから祖父の代からの客は嫌なんですよ。遠慮も何もあったもんじゃない〙
「まあ……そう言うな。今日は面白い奴を連れて来たんだ」
爺さんが解錠されたドアを引いて中へと進み、俺も爺さんに続いてドアの奥へと足を踏み入れた。中は……
「……」
意外にも……そこに存在したのは本格的なカウンターバーだった。
暗い店内はカウンターの周囲だけが仄明るい照明に照らされ、五脚のみのスツールが、けして大人数の来客を歓迎しないと主張している。
(バーなんて動画でしか見たことねぇんだけど……こんな風になってるんだな)
「ようキリヤ。ちっと聞きたい事があるんだがよ……」
「花田さん……ここはバーです。雑談を始めるなら、せめて一杯くらい注文してからにしてください」
カウンターの奥……照明の影に俺と同じくらいの身長の男(?)が立っていた。
で、何故クエスチョンが付いているかというと……
声は男のそれなんだが……薄暗い照明の中に浮かぶ顔は男女の判別が難しいほど中性的だったからだ。
「済まねえなマスター……ちっと急いでんだよ。こっちのあんちゃんが」
マスターと呼ばれた人物が手に持ったグラス越しにこちらを見る、反対の手には乾いたガラスクロス……どうやらグラスを磨いていたらしい。
「慌ただしい来客は歓迎出来ませんね……」
――――――――――
「なるほど。そのお嬢さんの行方を探しておられると……」
俺と爺さんは仏頂面を隠そうともしないマスターに勧められてスツールに腰掛け、それぞれオーダーを告げた。本当はこんな事をしている時間など無いんだが……
このマスターが日本でも有数の情報屋で“お前の探し人を見つけ出せるとしたらこの男しか居ない!”と爺さんが力説するので渋々こんな手間を掛けている。
「お気の毒ですが……私のネットワークを使ったとしても“宮野さんが何処に拉致されたか?”なんて事は分かりかねます。 そうですね……私に分かるとしたら、それは“誰が宮野氏の事務所を盗聴していたか?”くらいです。しかも短時間でという事なら……情報の精度は落ちざるを得ません。私からすればその様な情報を口にするのは……」
「それでも構わない……教えてくれ」
俺はマスターの言葉に被せ気味に要求した。もともとが雲を掴む様な話なのだ。今はどんなに細くても良いから手掛かりが欲しい……
「頼む。今の話を聞けば時間が無いのは分かるだろう?」
― ビキッ ―
俺のオレンジジュースのグラスにヒビが走った。勿論俺にこのマスターを脅す様なつもりは無い。焦りから力が入ってしまっただけだ。
「いい加減な情報をお話するのは私の流儀ではないのです。が、そこを曲げろと仰るなら……一つ賭けをしましょうか?」
マスターの手が滑らかに動き、俺の前に二つのショットグラスが並べられた。中身はどちらも炭酸の泡が弾ける濃い金色の液体……?
「この二つのグラス。見た目は変わりませんが一つは普通のジンジャーエール、一つは……人が口にすれば絶対に助からない猛毒が入っています。貴方がこのグラスのウチの一つを飲み干し、それでも生き残ったなら……私も流儀を曲げて情報をお渡ししましょう。如何ですか?」
どうやら、この一見はまともに見えるマスターも、一筋縄ではいかない人物らしい。
だが今回に限っては、俺の隣に座る爺さんと俺自身の心情は殆ど同じだっただろう。
つまり……
(おいおい……そんな事で良いのかよ?)
という意味でだが……
――――――――――
「まったく──お前が平然とグラスを飲み干した時のキリヤの顔ったら……」
ハンドルを握る爺さんが堪えらきれずに笑い出した。
「クソ……あの野郎、マジで絶対に助からないレベルの何かをグラスに注いでやがったぞ? こう言っちゃなんだが俺に平然と同行する爺さんといい……あんたらの業界の奴らはどいつもこいつもオカシイぜ?」
「おいおい……今更何を言ってんだ? それを飲み干して平然としてるお前のほうがよほどおかしいだろう?」
いや確かにそうなんだが……それにしたってさ?
本作をここまでお読みいただいた読者様……誠にありがとう御座います!
さて亀の歩みの如くゆっくりとした足どりですが……やっと探している人の手掛かりが得られそうです。
あと少しでこの忙しい日も終わりますので……m( _ _ ;)m
そして……本当は読者の皆様へお願いをするのは恐縮なのですが……
もし少しでも興味を持ってもらえましたなら……
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