26. どっから見ても……
「信じられるか!」
脇差しを抜いて即座に構える。この手のヒットマンが口を開くのは相当に珍しいが……相手が薬中となれば話は別だ。
流暢に喋りやがるのは特に危ねぇ……
― タンッ ―
「落ち着けよ爺さん」
俺の顔の横を銃弾が掠める……
(ヤロウ……ありゃあ蝶野の拳銃か?)
「抜かすな! カチコミ喰らって落ち着いてられたらヤクザなんぞやっとらん! 若ぇ衆の敵はきっちり取らせて貰う!!」
薬でバケモンみてぇになってようが所詮は人間。胸に本身が貫通してりゃ動き続けるにも限度が……
「……外の奴らは死んでねぇよ。人を殺人鬼みたいに言うな」
「どっからどう見ても殺人鬼だろうが!!」
ちょっと待て? 鉄砲弾ヤロウの言い草に思わず怒鳴り返しちまったが……
― ブシュッ ―
「はぁ……?」
ヤロウ胸に貫通したオイラの国広を抜きやがった? そんな事すりゃ出血が止まらなくな………??
「血が出ねぇだと?」
いや、刀身にはもちろん血が付いてるし幾らかは出血してるが……
(あの位置……間違いなく急所だ。あの程度の出血で済むはずがねぇ? そういやコイツ……首も弾痕からも殆ど血が流れてねぇ?)
「参ったな……マジモンの怪物かよ。てめえみてぇなの寄越すってこたぁ……本気でウチを皆殺しに……」
「だから……誰も死んでねぇって。まあなんだ……ちょっとだけ騒々しくなっちまったのは謝るが、俺の目的はあんたらを潰す事じゃねぇよ」
はぁ……??
「だったら何の用で来やがった?」
「……商談?」
「ふざけるな!!!」
「大マジだよ。あんたらはここいらじゃ一番デカいヤクザなんだろ? 多分俺の知りたい事の噂くらいは知ってんじゃ無いかと思ってさ」
鉄砲弾ヤロウの口振りに……ほんの少しだけ焦りが滲んでる様に感じるのは気の所為か?
「てめぇ……イ◯レてやがんのか?」
「だからそうじゃねえって。ジジイってのはなんでこう頑固なのかね……まあ、いいや。こっちの要求を言うぞ。俺は人を探してる。ここらを縄張りにしてるあんたらなら、拉致やら監禁やらをしでかしてもおかしく無い奴らくらい耳に入るだろう?」
「はあ?? てめぇ……そんな事を聞きに来たってのか? そんなモン俺らが知らなかったら……」
「そん時はハシから聞いて回るさ。それに……爺さんのトコはここらじゃ一番デカい組なんだろう? 」
最低限の計算は弾いてるってか?
「ウチがやってたらどうするつもり……」
「それは無い。少なくともこのビルに居ない事は匂いで分かるし……あんたらそれどころじゃないだろ?」
そりゃぁ知ってるか……普通にニュースになってたからな。だが、それにしても……匂いってなどういう意味だ? ……いや、今それはいい。間違えるな、問題はどうやってこの場を切り抜けるかだ。
「……良いだろう。だが商談だと言うなら商品には対価が必要だろう? てめぇはウチで暴れまわっただけでこちとら赤字もイイとこだ。これで何か寄越せってんならてめぇ……俺らよりタチが悪いぜ?」
「ああ……こっちもそれなりのモンは用意してきたさ」
そう言ってヤロウがジーンズのケツポケットから出してきたのは……
「てめぇ……やっぱりふざけてやがんな? それか……マジでイ◯レてるのか??」
ヤロウが手に持ってんのは……俺が若い頃から売ってる有名な栄養ドリンクの瓶だった。
「いや手近な容器がこれしか手に入らなかっただけで中身は別モンだ。コイツはなどんな傷でも一瞬で治す薬だ。確かあんたらのとこのトップは襲われて入院中なんだろ? 重体だってな?」
呆れるぜ……そんな与太話を誰が信じるってんだ? やっぱりコイツはイ◯れてやがる。
「そりゃぁすごい。そいつを飲めば死人もファイト一発ってか? ……リポ◯タンDにそんな力があるとは知らなかったぜ?」
「だから中身は違うって言っただろ? そんなに信じられないなら……見てろよ」
ヤロウ、おもむろに自分のこめかみに銃を当て……?!?
「てめぇ何しや……」
― バスッ ―
こめかみから入ったた弾は……そのまま頭を貫通して事務所の壁にめり込んだ。
「ありえねぇ……ここまで暴れ回って自殺するだと??」
自分の手で頭を撃ったイカレヤロウはそのまま事務所の床に倒れ……倒れない??
「勝手に殺すな」
――――――――――
若い組員から聞き出した部屋に居たのは……おおよそ六十代後半くらいの爺さんだった。
さっきの入口に居た奴らほどじゃないがそれなりに長身……白髪をオールバックに撫でつけ、顎周りには頭髪と同じ白い髭を蓄えている。
(偉そうにしてるし高価そうなスーツ着てるし……この爺さんが組長で間違いないな)
敵討ちとかなんとか言ってたしな。誰も死んでねぇけど。まぁ、もしかして骨くらいイッてる奴はいるかも知れんが……
「ありえねぇ……何の冗談だ? てめぇが死なねぇのがその薬のせいだってのか?」
まずいな……脳みそ撃ってみせたのはやり過ぎたか?
「……信じないなら仕方ない。これからあんたらの本家ってとこに行って……」
「待て待て待て!! それだけは止めろ。お前みたいなのがノコノコ行ったら……本家の連中はハッパでもナガモノでも持ち出して来やがるぞ?!」
ははっ、なんで俺の心配してんだよ爺さん。
「……それはあれだ……近所に迷惑だな」
(まあ、俺は多分死なんし……でも粉々になったらどうやって再生するんだ?)
チラッと……前に読んだマンガの事を思い出した。確か“容赦しない呼吸法の師範”は肉片がうぞうぞと這い寄って再生してたな……
(うげぇ〜…)
『お前何考えてんだ? 再生の仕方なんて時と場合で変わるに決まってんだろ……気になるのは分かるが……その時が来るまで楽しみは取っとけ』
(楽しみなわけ無ぇだろ!)
「おい……何を黙ってやがる?」
おっと……根菜類のせいで爺さんをほったらかしにしちまってた。
「なんでもない。で、どうすんだ? 俺は別に本家ってのに行ってハッパやらナガモノやらを相手にしても良いんだが……」
爺さんが俺の言い分に目を白黒させてる。
「一つ聞かせろ。その薬……後遺症とかは無ぇんだろうな?」
「そんなモンは無いが……注意点が二つある。一つは用量。この瓶で一人分だ。もし分けて使ったら治るかは分からん。もう一つは消費期限……こいつは劣化が早い。効果を保証出来るのは明日の日没まで……ってとこだ」
「………」
爺さんが俺の顔をじっと見つめる。というかマスクを……だけど。
多分十秒ほどか……俺を見つめてた爺さんが、不意に脇差しを鞘に納めてデスクの上に放り出した。
「……で、誰を捜しゃあいいんだ?」
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