25. 墨花組の悪夢
そいつは……唐突に屋上出入り口の前に現れた。
この墨花組では若い衆の中でもいわゆる“中堅どころ”の者が、持ち回りで警備を任される。
そんな若い衆の中で常々“なんでそこに設置した?”と言われている屋上出入り口の監視カメラ。そのモニターに映っていたのは
「………ジェイ◯ン?」
確か昔のホラー映画に出てくる殺人鬼。ホッケーマスクを被り肉切り包丁を振り回す……みたいなキャラクターだった筈だ。
「はぁ?! 何だこいつ??」
ちょっと待て? コイツが何者かは別にして……どうやっていきなり屋上に現れた?
うちのビルは周囲全てのビルより高い。侵入出来る経路なんてどこにも無いはず……?
「おい、いきなりどうしたってん……はぁ?」
今夜の俺の相棒……もう一人の警備係を仰せつかっている洋二がモニターを覗き込んで俺と同じセリフを口にした。
コイツにも見えてる……って事は、どうやら幻やオバケの類では無いらしい。
「おい……すぐに社長に報告しろ。俺は課長に連絡して下の奴らを回して貰う」
よりによって俺が警備の時に侵入者だと?
俺達暴力団はフィクションじゃ四六時中抗争してるみたいに描かれているが……戦後や高度成長期ならいざ知らず、今の時代には抗争なんて滅多に起こるもんじゃない。利害の対立なんて金銭やら利権の調整やらで手打ちにする方がお互い得だからな。
ましてや……今時一銭の得にもならないメンツなんて古参組織を標榜する一部の組にしか存在しない。
だが……かといって暴力沙汰が消滅したのかと言えばそんな事も無い。いわゆる外国人マフィアとの抗争だ。奴らは日本に地盤なんて築かない。イナゴと同じで利益を食い荒らして終わりだ。
「くそ……よりによってこんな時に!」
ヒットマンを送ってくるとしたら中華・東亜系もしくは露系の奴らか……だが、
(いきなりヒットマンを送るか? 確かに会長の警備はウチがメインで回してるけど……)
「よりによって若頭達が出てる時間に……いや……もしかして出るのを待ってたのか?」
うちの若頭と補佐は、今時の業界では珍しいゴリゴリの武闘派だ。その二人が入院中の本家の会長の警備に出向いてから僅か数分……タイミング的に見ても狙ったとしか思えない。
俺は二階の詰め所に常駐している蝶野の兄貴に内線を飛ばした。
『おう……どうした?』
「侵入者です! 屋上出入口に現れました。人数は一人ですが、どうにもおかしなヤロウで……」
『………武装は?』
課長は必要最低限の事を短く聞いた。見た目は厳ついが、仕事は素晴らしく出来るし下の者にも優しいからみんなに頼りにされている。
「それが……おかしなマスクを被ってる他はどうも手ぶらに見えます」
俺はとにかく現状を伝えた。
『……落ち着け。屋上のドアは外からは開かない。そもそも鍵穴すら無いからな……ドア自体も鋼板入りだし内開きだから蝶番も壊せんはず………』
― ドゴォッッッン…… ―
(???!)
『どうした??』
「兄貴、俺どっかおかしくなったかもしれません……侵入者が……扉をキック一発でぶっ壊しました?!」
『はぁ??』
――――――――――
洋二の奴が侵入者の事を報せに来てから……おそらく10分も経ってない。
「この化けもんがぁ!!」
― タタンッ タタンッ ―
銃を使ってるって事は蝶野か……
組事務所にはガサ対策で殆ど武器は置いていない。せいぜい趣味だと言い張れるゴルフクラブや金属バットが精々だ。
万が一のカチコミ対策で組員達には格闘技の習得と防弾チョッキを常備させてるが……
「クククッ……俺もヤキが回ったもんだな」
組長室の外が不意に静かになる。全員殺られたか……
「すまんな。とりあえずヤロウは道連れて行くから……お前らそれで勘弁しろや」
しかし……報せにきた洋二の話じゃヒットマンは一人って事だったが……
「よほどの腕っこきを寄越したか……」
背後に飾られた本身を抜いて侵入者を待つ。
― ガチャッ ―
(おいおい……律儀にドアノブ回すかぁ? こちとらドアの外から蜂の巣にされるのを警戒してデスクの陰に隠れてたのによ?)
即座に飛び出し、足音を立てない様にドアに突進する。ドア前にいるなら今が好機!!
― トスッ ―
“国広の一振り”って触れ込みで手に入れた愛刀はドアノブの上を貫通。間違い無く刃が肉に食い込む手応え……
だが……
「抜っ……抜けん!」
パット見は分からないが……ドアノブの上はそこだけが柔らかい木材になっている。いわゆるトラップドアだ。つまり木材に噛んで抜けないわけじゃない?
― めきっ ―
何だ??
俺の愛刀が……ドアの向こうから引っ張られてる? 凄まじい怪力で引かれた愛刀は、とうとう鍔元までがドアに埋まり……
― バギャンッ! ―
最後には……目釘が割れ拵えだけを室内に残してドアの向こうに消えてしまった?!
「畜生め……どんな怪物寄越しやがった!!」
(くそ……流石に手ぶらではどうにもならん!)
俺は即座にデスクの向こうに飾られた脇差しに手を伸ばしたが……
― メキメキメキメキ…… ―
ヤロウ……ドアの鍵が開かないからって……樫のドアを無理やり押し開きやがった?
「ちっ……なんてバケモ……はあ??? 」
俺もこの業界に長いことのたくって来たが……こんなのは見たこともねぇ……
「おいおい……お前は弁慶かよ?」
ドアを開けた侵入者は、報告通りフザけた面を被っていたが……驚いたのはそんな事じゃ無い。
この男……首元に柳葉を刺し込まれ、身体のあちこちに弾痕を貼り付け……極めつけはオイラの国広に心臓を貫通されたまま平然と侵入して来やがった?!
「おいおい? ジャンキーの鉄砲弾とか……外の奴らは相変わらずえげつねぇことしやがるな」
「………勘違いするな。俺は鉄砲弾じゃ無い」
驚いたね……コイツ喋りやがった!
いつも読んで頂き誠にありがとうございます。
更新遅くなってしまい申し訳ありません!m(_ _)m
今回は大暴れ回でしたがいかがでしたでしょうか……主人公は順調に怪物になっていっております(笑)ので、是非皆様で生ぬるく見守ってあげて下さいm(_ _)m
そして……プライベートが慌ただしい作者からお願いです!
本当は読者の皆様へお願いをするのは恐縮なのですが……
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