24. “金曜日の怪人”再び
「久宝君。電話をくれたって事は、昨日父が話した件について了承してくれた……と思って良いのかしら?」
真壁刑事は開口一番昨日の件について切り出してきた。
現在21:19。刑事といえどおそらくはプライベートな時間のはずなのに……電話に出てくれた事は僥倖だ。ただ……
(真壁刑事って……少しせっかちだよな)
『少し……か?』
根菜類のセリフに無言で肩をすくめた俺は……本題を切り出すべく真壁刑事との会話に戻った。
「い、いえ。その件についてはまだ検討中です。ありがたい申し出だというのは理解しているんですが……もう少し時間を下さい」
「そんな風に思ってくれたなら……父も喜ぶんじゃないかしら。だいたいあの人は自分に娘しか居ないからって……“彼の保護者になれば、これはもう息子が増えた様なもんだろう?”とか言い出すのよ?」
ああ……これはあれだ。やっぱり後見人の件は親切心で申し出てくれたと思って良さそうだ。……もちろん俺に恩義を感じてくれているというのもあるんだろうけど。
「はは、それはひとまず置いといて……突然の電話で恐縮ですが、実は真壁刑事に折り入ってお願いがあります」
俺は、単刀直入に『現在公判中の殺人事件の裁判で、明後日に証人尋問が予定されている事件』についての情報を教えてもらえないか尋ねた。
『その事件は……多分アレね』
幸運にも真壁刑事は事件の事を知っているらしい。
『多分貴方が言ってるのは三ヶ月前に起こった54歳の男性医師が殺害された事件の事だと思うわ。確か現場のラブホテルから被害者の頭部が持ち去られてた事で大きなニュースになった……』
あの事件か?! 俺も当時テレビやネットでバンバン報道されていたのを覚えてる。
「おそらくそれです。申し訳無いのですがその関係者の事を……」
『待って?! あなた……どうしてその事件の情報なんて知りたいの? あの事件は確か同じ病院に勤めていた女性看護師が容疑者として起訴されているはずよ? 私は担当ではないけど……一緒にホテルに入る所を防犯カメラが撮影してた筈だわ?』
そう……確か加熱した報道合戦の末、後日にそういう報道がされてたのも見た記憶がある。
「………言わなければいけませんか?」
『……困ったわね。もちろん私の立場として、捜査情報を簡単に漏らすわけにはいかないんだけど……そもそも事件の背景自体が至極単純で関係者も殆ど居ないのよ。殺された医師と被疑者は不倫関係でその痴情のもつれが原因だとされているし……医師の家族は配偶者と子供が二人、その子供にしたってそれぞれ成人して被害者とは同居してないし……容疑者に至っては天涯孤独の身の上だったはずよ』
「……それは──こう言ってはなんですが随分とテンプレートな事件ですね。でも良いんですか? 先程情報を漏らすわけにはいかないと仰っていたのに……」
『今話した内容は既に報道されてる物だし……こう言ってはなんだけど私に聞かなくても調べれば分かる事だわ。それより……どうしてそれを知りたいのかという事の方が気になるわ。あなた、いったい昨日の今日で何を……』
「ありがとうございました真壁さん。例の件は決心が着いたらお電話します」
俺は真壁刑事との会話を強引に打ち切った。
(これは……警察の方から情報を得るのは無理だな)
会話の内容は同時にリンクに乗せたから根菜類も状況は把握しているはずだが……
『ああ……聞こえてたよ』
(そうだ?! お前はなんか宇宙規模のデータにアクセス出来る存在だとかなんとか言ってたよな? なら彼女の事を……)
『無理だな。俺がアクセス出来るのは、既に死んだ生命体が残した知見の……更にそれらが収斂された物だ。今現在の個体の位置情報なんて分かりゃしねえよ』
(マジかよ。クソっ……どうすりゃいいんだ? こんなグズグズしてる間に宮野が……)
『慌てるな……お前の覚悟次第でまだ打てる手はある』
……そんなのがあるなら早く言えよ!!
――――――――――
根菜類の打開策を聞いた一時間後……俺は、とある場所にある、一見なんの変哲も無い雑居ビルを路地裏から観察していた。
「おいおい……本当にここなんだろうな?」
『俺に聞くなよ……お前がQチューブってので見つけた動画には間違い無くここが映ってたんだろ?』
あまりの変哲の無さに俺が不安になっていると……
不意に二人の男が周囲を警戒する様にビルの入口から外に出てきた。
一人はざっと見ても身長190cmを超える大男。で、もう一人はその男よりは若干低い身長ながら身体の厚みは1.5倍はありそうな巨漢……
二人共に剣呑な視線を隠そうともせず──服装に至っては、一般市民が絶対にチョイスしないセンス……
(どこからどう見てもヤ◯ザだな。どうやら目的地は間違って無かったみたいだ)
そこは……とあるQチューバーの動画で見つけた、日本の五大指定暴力団【墨河会】を構成する一次団体の一つ『墨花組』が入居するビルだった。
(しかし……未だにあんないかにもな奴らって要るんだな?)
『そりゃぁ世の中の見た目がどんなに変わってもそういう事自体は無くならんからな……当然それを請け負う連中ってのも無くならん』
(ああ……やだやだ。世知辛いねぇ……)
俺は先日購入したホッケーマスクをカバンの底から取り出して(何処か適当な場所に捨てるつもりで持ち歩いてたのに……)装着し、ベルトを強く締め込んだ。
制服も、ここに来る前に目立たないジーパンとパーカーに着替えておいたので……マスクを装着した時点で俺の痕跡はゼロだ。
(よし……行こうか)
俺は目的の雑居ビルのニ軒隣のビルの外階段の鍵を壊して侵入し屋上へと登る。目的のビルとこのビルの屋上はほぼ同じ高さなのだが……面倒な事に間に挟まるビルはこのビルよりかなり低い。
(……時間が惜しい!)
俺は10Mは下にある狭間のビルの屋上に飛び降りた。
― ビキッ ―
足腰のバネを総動員して衝撃を殺し、空挺部隊の五点接地を参考にして隣接ビルの屋上に降り立つ。
それでも、足首や膝からは嫌な音が響いた。だが……
(おおぅ……なんか骨折が一瞬で治癒した?!)
『順調に“存在力”が上がってる証拠だよ。さあ、さっさと次に行くぞ』
(そりゃ自分でも“人間離れしてきてるな”とは思ってたが……俺は、この先どうなっちまうんだ?)
自分の先行きがチラッと不安になるが……今はそんな暇は無い。俺は頭をよぎるモノを強引に振り払って目的のビルの壁面を見上げた。
(ちっ……)
たどり着いた墨花組ビルは、全ての窓がハメ殺しの鉄格子で蓋をされていた。が、そんな事は想定内だ。
窓を潰す鉄格子と壁面の凹凸、縦横に走る排水パイプや配電管……これだけの凹凸がある壁面なんて、今の俺からすればジャングルジムと変わらない。
そして……路地裏から数えてきっかり五分後。俺は墨花組ビルの屋上ドアの前に立っていた。
――――――――――
「はぁ?! 何だこいつ??」
監視モニタの前で若い衆の一人が呟いた言葉が──墨花組の悪夢の始まりだった。
いつも読んで頂き誠にありがとうございます。
更新遅くなってしまい申し訳ありません!m(_ _)m
誠に申し訳無いのですが……これから暫くは実生活の都合で更新時間が不定期になりそうです……
出来る限り毎日の更新は続けるつもりなので……ご容赦のほどよろしくお願いいたしますm(_ _)m
そして……そんな不器用な作者からお願いです!
本当は読者の皆様へお願いをするのは恐縮なのですが……
もし少しでも興味を持ってもらえましたなら……
イイネ、ブックマーク、☆評価、感想など……どんな反応でも嬉しいです!
是非応援のほど……よろしくお願いいたしますm(_ _)m




