14. 思いがけない申し出
『ふん……甘っちょろいやつだぜ。官憲なんて他の世界でも大して変わりゃしねぇぜ?』
はいはい……わざわざ嫌な事を教えてくれてありがとうよ。せいぜい用心するさ。
「それはまた……僕も一安心です」
俺は必要最低限の返答だけで口をつぐんた。この人が自分の娘の事で俺に借りがあると思ってるのなら好都合だが……俺としては迂闊な会話で通り魔襲撃犯の証拠を押さえられたくはない。
「そう言って頂けるなら……私達も肩の荷が下ろせます。あと、これは個人的な事ではありますが──もう一人の入院中の娘が難しい病状から脱しましてね。これがまた危険な手術を受ける事すらなく病状が快方に向かっておりまして……医者に言わせるとあり得ない奇跡だとか?」
「それは……おめでとうございます」
いい大人がそういうモノの挟まった言い方はやめてほし……いや大人だからこそか。
「ありがとう。まあ病院の医師達からすれば理不尽極まりない事態だそうですが……私達家族からすれば奇跡を詮索するなど意味の無い事でしょう」
『へぇ……おまえの事を詮索する気は無いってよ』
(鵜呑みには出来ないね。というかこんがらがるから喋るんじゃねえよ)
「御立派です。僕の様な若造ではとてもそんな風には……」
というか……そんな事をわざわざ言いに来たのか?
「そうですか……ただ私の様な年齢になれば、人の世という物が奇跡ではなく人の営みで成り立っていると分かる様になります。そして、私の娘が奇跡に救われたなら……私も誰かの助けになるべきだと思い立ちましてね」
??
「なんでも……久宝君は今、学校や私生活でいくつかのトラブルを抱えているとか?」
(どうしてアンタがその事を知ってる? 俺の被害届は受理されていない筈だぞ?)
俺は自分の視線が少し厳しくなってしまった事に気付いて……慌てて表情を和らげた。今この人達に喧嘩を売ってもなんの意味も無い。
「どうしてそんな事を知ってるのか? って顔ね。確かに久宝君の被害届は受理されてはいませんでしたが……貴方が所轄の警察署に相談した事は届け出の受理・不受理に関わらず記録されるものなの」
真壁刑事が俺の表情に浮かんだ疑問に答えてくれた。俺はそんな決まりがあるなんてまったく知らなかった。
「どうも記述した者は貴方の話した内容をできる限りぼやかして書こうとしたフシが見受けられるのですが……その事についてはこちらでも留意して署内の綱紀粛正に努めるつもりです」
どうせなら俺が尋ねる前に……いや今それを考えても意味は無い。
「その事については娘が所轄署での研修中にキチンと改善するつもりですが……君はご両親の事件についても……」
「…………」
駄目だ……表情が抑えられない。
「失敬、余計な事を口にした。では単刀直入に……君をこれ以上怒らせる前に私から一つ提案がある」
「提案??」
「もし君が了承してくれるなら……私を君の“未成年後見人”として選任する気はないかね?」
この提案には……随分と意表を突かれた。
「勘違いしないで欲しいんだが……私には君の自由や権利を侵害する意図は無い。ただ……私は君の現状での境遇は決して満足の行くものでは無いはずだと思っているんだ」
「それは……」
「本音を言えば君をいじめるなんて事が普通の同級生に出来るものなのかという疑問はあるが……どうも御両親の事件がいじめの原因にも繋がっているのではないかな? 私が未成年後見人となれば君のご両親の事件の捜査を本庁扱いにする事も不可能では無い。そうすれば事ある毎に捜査に横槍を入れる者達を排除する事も出来るだろう」
――――――――――
『少し考えさせて下さい』
久宝君の言葉を受けた私達は、それ以上説得する様な事はせずに彼の部屋から辞去した。
「……彼は提案を受けてくれるかしら?」
「どうだろうな……もしかしたら俺の提案は彼にとって余計なお世話なのかもしれん」
「でも……彼の現在の未成年後見人は外国在住の大叔父だけなんてしょう? しかも相当に高齢の?」
彼の縁戚関係については、彼の両親の事件の記録にある程度の記載があった。
「記録ではその人しか血縁は居ないらしいな。まあ、実際に監護する人間が側に居ないのなら、俺が彼の未成年後見人に選任される事はそれ程難しい事じゃない。あとは彼がこの提案をどう判断するのか……」
実は……私は今日、父がこんな提案を彼にするとは聞かされていなかった。それどころか、私は彼の起こした奇跡を父が信じるとも思っていなかったのだ。
「ねぇお父さん。どうして私の言葉を信じてくれたの? それに、彼からすれば正義感からの行動だとしても──あの通り魔の手首を切り落とした事はどう考えているの?」
「信じるも信じないも……楓子の病状が劇的に改善したのは事実だからな。ならそれに連なる事実も正しいと考えざるを得んだろう?」
えぇ……そんな考え方でいいの?
「彼がいったい何者なのかは俺にも分からん。今回の楓子の事や彼自身の怪我があっという間に治癒した事実は……もしかしたら人の世界にとんでもない変革をもたらすきっかけになるかも知れんが……」
「が?」
「変革が“みんなを幸せにするか?”なんて誰にも分からんよ。なら、彼がその事を話さない限り、我々は知らんぷりをしとくべきだろう? ま、身内を助けて貰った俺達が言うのもなんだがな」
自分の父親ではあるが……この人はどうも官僚的な考え方をしないなぁ。
「あと……あの通り魔の事はとりあえず正当防衛って事で納得しとけ。なんたって猟銃を腹にぶち込まれてんだからな。少なくとも過剰防衛にはあたらんさ」
それは……確かにそうかも知れないけど……
「もし彼が今後も無茶をするつもりだったら? 今のうちに止めるのが彼の為じゃないかしら?」
「その可能性も無くは無いだろうな。だが、彼は若さ故の至らなさはあっても馬鹿では無いよ。それは今日話してみて良く分かった。それに……そういう可能性も含めて後見人の提案をしたんだ。俺が後見人になればそうそう無茶も出来んだろ?」
――――――――――
彼らが帰ってから……俺は途中だった洗濯物を畳む作業をしながら思案にふけっていた。
『……で、どうするつもりだよ?』
少し傾いた太陽が窓際から遠ざかるタイミングで根菜類が話し掛けてきた。
「あのオッサン、ちょっと俺じゃ想像出来ないくらいの偉いさんみたいなんだが……いったいどういうつもりだと思う?」
俺はいくつかの可能性を想像しながら根菜類の考えを聞いてみた。
『……それは俺にも分からんな。ただ……今までも“俺の同類”を取り込んだ人間というのは、この地球にもごく少数いたんだ。で、だ。そういう奴らには良くも悪くも人を引き寄せる何かが備わるもんなんだ。それこそ巨大な帝国に仕える賢者として庇護された者も居れば……人類の敵として滅ぼそうとしてくる奴らもいたらしい。ま、俺も閲覧可能な部分をざっと見ただけなんであのオッサンがどうとも言えんのだが……』
いつも読んで頂き誠にありがとうございます。
もっと地の文でスピード重視にする事も出来るのですがしばらくは今のスタイルで行こうと思っています。
勿論それには理由があるのですが……申し訳ありませんが皆様もう少しだけお付き合い下さいm(_ _)m
そして、読者の皆様には毎度の面倒事とは思いますが……
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