12. 土曜日の奇跡
「ちなみに……妹さんはどちらの病院に入院されてるんですか?」
真壁刑事の顔に……驚きやら猜疑心やら喜びやら──とびきり複雑な表情が浮かんだ。
「……真聖会病院本院のICUです」
………近いな。徒歩でも30分はかからない。
「そうですね。僕はその被疑者の事もまったく知りませんし、ましてや真壁刑事とは初めてお会いしたわけですから……お気の毒ですが妹さんの事は僕にはなんとも言えません。ただ……」
「ただ……?」
「妹さんにはお友達が居ませんか? ふらっとお見舞いに現れる様な?」
おっ? 表情に喜びの割合が増えた。
「……居たかもしれません」
「では……そのテーブルの上の物を持ってお帰り下さい。いくら警察官でも身内が危篤となれば多少の無理は効くでしょう? 余計なお世話かもしれませんが……すぐに病院に駆けつけて側に居てあげた方がいい。それに……その場に貴方が居ないと見舞客が来ても対応出来ないでしょ?」
――――――――――
(なあ……こんなので本当に大丈夫なのか?)
俺は隣人と交渉して借り受けた自転車で病院へと向かっていた。以前の俺の身体だと自転車を漕ぐのも一苦労だっのだが……今の俺なら自転車は快適そのものだ。
『心配すんな。とりあえず人間の異常程度ならそいつを飲ませときゃなんとかなる』
あい変わらず俺と根菜類を繫ぐ謎の直通糸電話はクリアな品質を保っているな……
(そうは言うけど……この空のペットボトルでチャプチャプしてんのは“根菜類の葉っぱをいくつか鍋で煮たやつ”に、ちょびっと俺の血を混ぜただけの代物だぞ?)
『あのな……それは前等の知ってる薬とは根本的に違うんだよ』
おいおい……余計に心配だ。だってろくに計量もしてないんだぞ? コイツ本当にわかってるのか?
(本当かよ……今時小学生だって“薬は量を間違えたら毒になる”って知ってるからな?)
『大丈夫だからキュッとやらせとけ』
だから仕事上がりの一杯じゃねえんだよ。まったく……
(はあぁ。ただの憂さばらしついでの人助けだったのに……なんでこんな面倒事ばっか増えてくんだよ? 俺もしかして前世でなんかやらかしたのか?)
『そんな事は知らんよ。だいたい……オレが知ってるどんな世界でも“前世の因縁”なんて見た事も無いぞ?』
「並べて世は事もなし……って? 勘弁してくれよ」
っと、無駄話をしてる間に病院が見えてきた。さて……駐輪場は何処に……
「はっ?」
なんと……病院の入り口で真壁刑事がウロウロしてる?!
「気持ちは分かるが……」
いや……身内が危ないのならあれが普通だよな。
「急ごう」
俺は駐輪場に自転車を停めてすぐにパーカーのフードを被った。あとは普通のマスクを顎から引き上げて100均製のグラサンを掛ければ……
(これでどっから見ても俺だと分からんだろ? 我ながら完璧な変装だぜ)
『おっおう……お前がそれで良いなら俺は構わねぇが……』
(? なんか問題でもあるのか?)
変な奴だな……まあ、根菜類に俺のファッションセンスは分かんねぇよな。
駐輪場から入り口に向かうと……そわそわした真壁刑事が俺の側に走り寄ってくる。俺が言うのもなんだが妹さんの側に居なくて良いのか?
「………えっ……あっ、……あの……」
「………」
俺は無言のまま人差し指を上に向ける。信用しないわけじゃないが録音機器が無いとも限らない。
「分かったわ……すぐに案内します」
――――――――――
「いったいどういう事です?」
「それが……いったい何が起こったのか……」
私は画面に映し出されたMRIの画像を見て放射線診断科の竹澤先生に問いただした。
系列病院からのたっての要望で緊急手術をするべく来訪した真聖会病院の本院。
眼前の竹澤医師は年上で、立場も私より上ではあったが……元々私は手術支援ロボットの操作技量を買われて雇われているだけの人間だ。ここをクビになったところで私の腕を欲しがる病院は無数に在る。
ましてや……病院側がVIPの娘である入院患者に“全力を尽くしました”というアピールをする為に送り込んだのが私だ。
多少の特別報酬を提示されたとしても不機嫌になるのはしょうがないだろう。ましてや……手術予定の患者から病巣が綺麗さっぱり消えているなどと聞かされた日には……
「私は自分が好かれていない事は知っていましたが……こんな手の込んだ嫌がらせを受けたのは初めてですよ」
(“女だてらに手術室の序列を乱している”だったか? まったく……下らないプライドだ)
竹澤医師は暫くの間無言で俯いていたのだが……意を決した様に顔を上げて話しだした。
「この患者は今日の昼までは確かに脳腫瘍と複数の脳動脈瘤の併発でいつ死んでもおかしく無い状態でした。実際、昨日の夕刻に小型の脳動脈瘤からS A Hを発症し──この様な言い方は心外ではあるのですが──薬剤によるコントロールで貴方が来られるまでの時間を稼いでいたくらいなんです」
確かに……竹澤医師の語る内容はカルテとも齟齬がない。私に依頼が来たのも確かそのくらいの時間だった。
「状況が発覚したのはいつ頃です?」
「術前検査の為にMRIに入ったのは今日の15:07と記録されています」
「……患者の取り違えの可能性は?」
「患者はこういった症例には珍しくまだ17歳の女性です。そして現在脳神経外科では10代の入院患者は彼女だけなんです」
年齢だけでその手の事故が発生するわけじゃないが……さすがに確認を怠ったとも思えない。
「つまり……この患者は『複数の重篤な脳疾患を抱えていたが僅か半日足らずでその全てが完治し、そしてその原因はまるで分からない』……こういう事ですか?」
竹澤医師が無言で頷いた。
「意味が分からない。そりゃあ患者本人にとってはまさしく奇跡だが……」
医師にとっては……悪い夢以外の何物でも無いな。
今日の更新は少し短めです。
楽しみにして下さっている読者様、誠に申し訳ありません。m(_ _)m
……次回の更新にご期待下さい!
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