10. 土曜日の訪問者
俺はこれ以上ドアの前で騒がれたくなかったので仕方なく彼女を家に入れた。当然だが彼女の身分証明を求める事も忘れない。
確認したIDには「警部補 真壁薫子」と記載されていた。
(へえ、この歳で警部補って事は……いわゆる“キャリア組”ってやつか)
勿論聞きかじりの知識でしかないので本当に彼女がキャリア組かどうかは分からないが……外見の年齢と階級からすれば、少なくとも優秀な人物だというのは間違いない。
(なら、さっさと話を聞いてなるべく早くお帰り頂くのが最善か……)
「で、ご要件は?」
家には残念ながら来客用のティーセットなんて洒落たものは無い。俺は唯一提供出来る麦茶を冷蔵庫から出してコップに注いだ。
彼女は玄関から丸見えのキッチンで大人しく椅子に座って俺の部屋を見回していた。
ちなみに根菜類はペットボトルで作った容器に漬かって……窓際で光合成中だ。
「お構いなく……というか要件は分かっているでしょう?」
「まったく想像がつきませんね」
この人が俺の所に現れたのは驚きだが……少なくとも物的証拠は何一つ無いはずだ。
逃走に使った経路も慎重にカメラの類の無い場所を選んだ。それにもし見落としがあったとしても、警察を撒いた時点でマスクを脱いでド◯キで買い求めたジャージに着替えている。
もちろん把握していないカメラに撮られた可能性は否定出来ないが……少なくとも現場から逃走した人物とジャージを着て帰宅した俺を同定出来る映像は絶対に存在しない筈だ。
「そうですか……ちなみに昨日の19:00から20:00の間はどちらにいらっしゃいましたか?」
「近所を散歩していましたね」
「それを証明出来る方、もしくは防犯カメラを備えた施設への立ち入り等は?」
「居ません。カメラについても把握している物はありませんね」
真壁刑事は俺の返答を無言で聞いていた。……取調室でじっと反応を観察されてる気分だ。
「凄いね……あなた、本当に15歳なの? 実は転生したオジサンとかじゃない?」
失礼な……
「……バレては仕方ありませんね。実は人に転生したのは今回で三度目なんですよ」
ジョークにまで真面目に答えてやる必要ないと思うんだが……ちなみに俺の返答を聞いた彼女は目をまん丸にしている。
「うん、それなら私も……貴方を“分別のある大人”として扱わせてもらいます。勿論あなたのジョークを信じたわけじゃないわ。“同等、もしくはそれ以上の能力を備えた人間”として認めた……と思って下さい」
「年端もいかない未成年なんですがね?」
「普通の15歳は刑事の訪問にそこまで落ち着いて対応出来ません。それに……実は昨日から徹夜でね。こっちにもそれほど余裕が有るわけじゃないの」
確かに……彼女の表情にはどことなく疲れが伺える。目も充血しているし化粧で誤魔化しているがクマも酷い。
「それで……もう一度聞きますがご要件は?」
「正直に言うわね……あなたの助けが欲しくてここに来ました」
――――――――――
………意味不明だ。この人はいったい何が言いたいんだ?
「当然意味が分からなでしょうね……順を追って説明します。まず……昨日、近くの大手量販店の前で通り魔事件があった事は知っていますね?」
「………ニュースで見ました」
「……OK. 私はその現場に居たんですが……現場から一人の人物が逃走しています。彼は逮捕された被疑者の供述によれば通り魔事件そのものとは無関係の様です。ただし、事件の最中に突然現れた彼は……被疑者に対し重症を負わせ警察車両と公共物を一部破損させて逃走しました」
「………」
「彼の罪状についてはこの際横に置いておきましょう。問題は彼が腹部と左肩に銃撃を喰らっているにも関わらず逃走した事です。現在我々は近くの医療機関を中心に件の人物を捜索していますが……私は彼が医療機関には現れないと考え、別のアプローチを行いました」
この人……いったい何を知ってるんだよ?
「彼の服装はいわゆる作業用ツナギで……かなりのオーバーサイズでした。一般的とは言い切れませんが街中を歩いていたとしても特別変な風体とは言えません。また彼の逃走した時間以降に激しい降雨があった事も逃走には好都合だったでしょう。しかし彼は大事な事を見逃していました。つまり……彼は逃げる事ばかりに気を使って“自分が何処から現れたか?”という事まで意識が向いていなかったわけです。……これは事件が起きる数分前のド◯キのレジ付近を撮影していた防犯カメラの映像です」
真壁刑事はそう言って、自分のスマホをを俺に見える様にテーブルに置いた。画像には……確かに逃走犯と全く同じ服装の俺が写っていた。
「そう言えば買い物をしていたかも……うっかり忘れていました」
ここはすっとぼけておこう。忘れたってのは魔法の言葉だからな。政治家が領収書を忘れても捕まらない国なんだから市民にも寛容だよな?
「……この映像を見つけてからは簡単でした。入店時の映像からどちらの方向から来店したのかを確認し、いくつかの防犯カメラを辿り……最後にこの付近に辿り着きました。聞き込みも簡単でしたよ? この画像のあなたは以前より随分と痩せているそうですが……近所の方に言わせると着ている作業服や顔つきなんかはいつも通りの貴方だと仰ってました」
ゲロったのは河内屋のおばちゃんあたりか?
「確かに巷に氾濫している……き……“金曜日の怪人”とやらの服装に似てはいますね ですが……マスクの人物と僕が同一人物という証拠はあるんですか?」
「現在、この人物が使用していたマスクについては件の量販店の店頭に展示されていた物だという証言を得ています。残念ながら落雷の影響で店舗入り口の防犯カメラがホワイトアウトしてしまい、マスクの男が量販店から出てきたとは確定出来ませんでしたが……ちなみにマスクと共に展示された衣装には1000円札が入っていたそうです。被疑者は意外と律儀な人物みたいですね」
「……話をそらさないで下さい」
「……実は本来なら絶対に検出されるはずの指紋や血痕、その他の痕跡が何一つ発見出来ないらしいんです。彼は確かに腹部に散弾銃で銃撃を受けました。普通に考えれば生命すら危うい特大のアクシデントです」
彼女はそこで一度言葉を切るとコップのお茶をぐいっとやった。
「さらに……その後の彼の行動は想像を絶しました。彼はあまつさえ自分の傷口から銃弾を抉り出し、しかもその弾丸を投擲して現場の照明を破壊するという……武蔵坊弁慶や銭形平次も真っ青な離れ技を披露したのですよ!! そしてそれだけの事をやらかしたにも関わらず……現場には何の痕跡も残っていなかったんです。血痕も、指紋も……毛髪の一本もです」
「そんな屋外でも抜け毛なんか見つかるんで──いやまあ……それは別にしても、随分と不思議な話です。ですが……やはりその画像の人物が僕である証拠は無いという訳ですね」
俺がそう言うと真壁刑事は不思議な表情をしていた。その表情はなんと言うか……不安と確信と疑念がない混ぜになったような複雑な表情だった。
「久宝君、あなたさっきから証拠の有無に対して随分と自信があるみたいな口ぶりでしたが……本当ならもっと重要な証拠をあなたは提示出来ますよね?」
「どういう意味です?」
「私がさっき説明した様に……被疑者は腹部と左肩に銃弾によって受傷しています。なのにあなたはその事実にはほとんど触れません。自分にはそんな傷は無いから無関係だと主張出来るはずなのに?」
………
「確かに僕の身体には傷なんてありませんね。早く主張したら良かった」
「……本当は触れて欲しくて無かったんじゃないですか? あの時、お腹の傷が完治しているのを目撃した私には……」
いつも読んで下さっている皆様、誠にありがとう御座いますm(_ _)m
主人公はまだ15歳の少年なので……さすがに警察の捜査能力を甘く見積もりすぎでしたね(;´∀`)
さて……真壁さんがいったい何を願ってやって来たのか?
次回の更新にご期待下さいm(_ _)m
そして、読者の皆様には毎度の面倒事とは思いますが……
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