狩人連合
パエス王国の王政が解体され、三十年に及ぶ革命期が終わりを迎えた。そして同時に、紅玉の世界政府が樹立、国家の概念が完全に廃止された。世界政府には、各大陸の有力な政治家や、学者、魔術師が集められ、今後の星の運営について毎日毎夜議論、そして実際に行政が次々と実施されていった。土地不足解消のための、漂白地の土地再生、経済格差、及び情勢安定のための基礎収入の導入、医療費の無償化含む社会保障の拡充、更には、星全域の交通網や個人情報の人工知能による完全統御など、急進的な改革を次々と実施。一時は非難も多かったが、時間が経つにつれて成果を挙げていき、世界政府は人々の信頼を勝ち取ることに成功した。
しかしその国家解体の一環で、実施された軍事組織の解体は、思わぬ弊害をもたらした。国家間の争いは無くなったため、軍事放棄は問題ないかと思われたが、土地再生や、経済安定による生活圏の拡大の結果、魔獣災害が増加してしまったのだ。この事態は予期こそされていたが、各都市に配置した魔獣防衛組織で対応可能と思われていた。しかし予測以上の規模、速度の魔獣災害の発生は、各地の討伐組織での対応が間に合わず、また軍事組織が、こうした災害の収拾にも一役買っていたことを、思い知らされることとなった。
これに対して、世界政府は拙速な対応を迫られたが、政府の頭脳として機能していた魔工宗匠たちによって、かつて行われていた、魔獣討伐を個人で行い、それに報酬を支払う、狩人制度の復活が提案された。大規模魔獣災害だけでなく、魔獣災害の原因となるような、小規模の魔獣発生にも事前に対応することで、将来の災害発生を未然に防ぐことも期待された。しかし民間の個々人の采配に、人々の命を預けることの倫理的問題、そして報酬の支払いを行う上での財源の確保、個人の資産集中などが問題視されていた。
ただし魔獣災害が活発化することは、人類の生存圏の後退や魔力資源の減少をもたらす。従って、魔工宗匠たちの試算では、高額な討伐報酬の支払いと、魔獣討伐によって確保できる資源を比すれば、後者の方が上回るとしていて、財源については問題ないと結論付けた。また各地の忌避されるような強大な魔獣や、魔獣の群れの討伐についても、発起人である魔工たちが率先してその任を受けるという、特別資格契約を世界政府と結ぶことで対応した。また魔工たちは、機械の発明、技術の発展のための科学研究費に、討伐料を充てることを約束した。
魔工を中心に、九四〇五年、狩人連合が発足。狩猟資格が解禁され、人々の魔獣討伐が許可されるようになった。魔獣災害は狩人の手によって大きく減った一方で、危惧されていた財源の確保についても、大きな問題が生じることは限りなく減少した。
『紅玉星世界政府公報―狩人連合制度―より』