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再創星 第一節

 脳に直接電流を叩き込まれ、血管に熱湯を流されるかのような苦痛。

 それを、今、リャージャは味わっていた。

 言葉にならないような悲痛な叫びをあげながら、本来向いてはならない方向に全身の関節がねじ曲がっている。

 竜の世界、厳密には、物質界と竜の魔窟の境界に立つやいなや、リャージャの魂は、莫大な力と情報によって捻りつぶされていた。魔神王は深海に喩えていたが、それすら「生易しく」感じるほど。まるで、その世界は「生命体の活動」を拒んでいるかのようだった。

 リャージャは、竜の世界に足を踏み入れていたものの、絶え間なく注がれる苦痛の波によって、その世界が「どのようなものか」を認識することさえできていなかった。いや、ひょっとすると、リャージャの体は、余計な情報を取り込まないことで、自分の身を守ろうとしたのかもしれない。

 リャージャは既に、この異界に来たことを後悔していた。強靭な意志、など、この世界ではなんの役にも立たなかった。砂漠の熱さに、たった一片の氷がなんの役に立つというのか。リャージャは理解していなかった。ここは、意志や知恵がなんの意味も持たない、魂と力の世界なのだと。

 高潔、勇敢、剛胆、冷静。あらゆる「意思の強さ」を表す語彙は、文化的な社会の中でのみ意味があるものであり、荒れ狂う大自然の中では無用の長物に等しい。この竜の領域においては、思想や意思は、ただの枷に過ぎず、必要とされるはただ一つの本能のみ。


「生きたい」


 本来のリャージャであれば、この生存本能を呼び起こすことは難しくはなかっただろう。しかし拷問に等しい苦痛が永遠に続くことを承知で、「生の本能」を保つことは、容易いことではない。

 肉食獣に襲われたとき、一部の草食獣は自ら仮死状態に至るのと同じこと。「死」を受け入れることもまた、本能なのだ。今リャージャの中では、この二つの矛盾した、それでいて表裏一体でもある本能が争っていた。


 魂が砕けかけた、最後の一時、リャージャはあるものを見た。


 遥か遠く。いや、距離という「概念」が存在しない、この地において、それは地理的な隔たりではない。存在する次元の違いである。

 遥か高天で蠢くなにものかを、リャージャは見た。

 残念なことに、その目は、一瞬で光に焼かれ、すぐにその光景は消え去った。高次元の存在の姿など、今のリャージャにとっては、追い打ちのようなものだ。風雨で今にも壊れそうな”あばらや”が爆撃を受けたに等しい。だが、意外にも、それはリャージャに味方した。


 そのほか全ての痛みと苦しみが、その太陽の如き閃光によって、薙ぎ払われたのだ。奇妙なことに、次元を超えた苦痛は、リャージャのような「低次元」の存在には、麻酔のように機能した。


 そして、リャージャの、劣勢だった「生の本能」を再び燃え上がらせた。その高次元の光景が、強靭な意志や、自己を規定する哲学を薙ぎ払い、結果として非常に純粋な「本能」だけが残ったことが幸いした。そして、リャージャ自身の魂も一度完全に溶けたが、本能がそれを不純物なき錬鉄に鍛えなおした。

 奇妙な枯れ木のような見た目になっていたリャージャの体は、形状記憶の合金のように、少しずつ本来あるべき形へ戻っていく。だが、それに伴い、リャージャの意志が再び顔を覗かせる。再び苦痛がリャージャの身を襲いかかろうとする。

 しかし、リャージャの本能が、すぐにそれを「消し去った」。痛みによって、それすら不可能になる前に。

 手段や方法を選ばぬ、生への執着が、この一見すると奇妙に思える野性的判断が、リャージャを再びの窮地から救ったのだ。

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 リャージャの魂から湧き上がる咆哮が、竜の世界にこだまする。

 そして、リャージャはついに、この世界に「存在する」資格を手にしたのだ。

 魂がもとに戻ると同時に、先ほど垣間見た景色が、その脳裏に蘇った。


 渦巻く白銀の風の中、更に一際、白金に輝く存在の姿。

 長く、大きく、強く。

 大竜が一角。大神に匹敵する最高存在。


 白竜の姿を。


 自らの起源を遡り、竜の力を得て、その魂は高みへ至る。しかし、リャージャは余韻に浸ることなく、すぐに飛び出した。自分の姿や、今いる世界の景色さえも眼中にない。ただじっと何かを手繰り寄せるように集中していた。

 魔神王に言われた、二つの物質界に通ずる縁である。

 一つは力の縁。同じ竜の因子を持つ同胞を探す。弱く小さくはあるが、近くに別の竜の気配を数多く感じる。間違いない。もう一人の白竜の竜因、ルセッタだ。

 意外なほど、最初の縁はつかみ取ることができた。

 次だ。二つ目は血の縁。

 長らく会っていなかった、二人の肉親。しかしこればかりは、どれだけ集中させても兆しすら見えてこなかった。最初、リャージャは二人が竜因と違い、ただの人間で、力が弱いからだろうと考えた。しかし、うっすらと、不安がよぎり始めた。

 本当は、二人はもう、物質界にいないのではないのかと。

 家を出てから、リャージャは一度も両親のもとへ帰らなかった。それこそ、竜因への嫌悪感情が多少落ち着いてもなお、会いに行かなかった。

 その理由は、これまでリャージャも考えるのを避けてきたが、しかし、ここにきて、その答えに思い至った。

 二人は、死んでいるかもしれない。

 思えば自分が家を出てから、約4年間、最後の竜が統べる国、<パエス>が崩壊するまで、革命期と竜因への反発は続いた。その数年の間、両親が本当に無事でいられる保証はあるだろうか?

 あれからいくつもの新聞を読んだ。「竜因」と疑われた、全くの一般人が、「悪竜」として一家もろとも焼き払われた痛ましい事件。一件や二件の騒ぎではない。時には「世界政府」構想に反発する旧体制派や、竜因の王族の側近などにも、そのいわれのない「竜認定」騒動が及んでいた。

 本当の竜因を親に持つ、リャージャの両親が、無事である可能性など、どれだけあるのか?

 子どもの自分が用意した稚拙な言い訳など、熱に浮かされた群衆にどれだけ通用するのか?

 そう。そんな単純なことから目を背けるために、リャージャは一度も両親のもとへ戻らず、連絡さえも取ろうとしなかった。手紙が「受取人不明」を理由に送り返されてくるのが怖かったのだ。

 先ほどまで感じていた、竜の世界の圧力とは、また別の痛みが、リャージャの魂を襲う。鈍く、それでいて深いひび。長らく、内側に走っていたひびが、表面にまで到達したのだ。

 集中力が揺らぎ、一度は手にしたはずの第一の縁すら見失いかける。慌てて、魂の絆を再び手繰り寄せた。だがどれだけ待っても、もう一つの縁が見えてこない。

 ないものを永遠に探し続け、竜の世界に囚われることになる恐怖以上に、家族を既に失っているかもしれないという不安が、リャージャの魂を傷つけていた。その結果、一度は克服しかけた、竜の世界の圧力が、再びその体に襲い掛かる。最初は緩い関節痛のようなものに始まり、後に骨と骨が剥離していくような感覚が襲い掛かる。体がバラバラになりそうになる。物質なきこの世界で、肉体に生じる変化は、魂の反映である。つまりこの変化は、リャージャの心が今にも砕け散ろうとしていることを意味した。

 再び、その魂が生への希求を叫び始めた。しかし、今回は、今までとは異なる声だった。


 母さん、父さん、たすけて


 迷子になって、はぐれた幼児のような叫び声が、竜の世界に響き渡る。この世界にひしめく力の象徴たちにとって、そのような「弱き願い」は、石ころが目の前を転がる音に等しい些末な雑音。だからこそ、このような声を聞き届けるものは、いない。

 はずだった。

 きらりと、宇宙の向こう側で、二つの星が輝くのを、リャージャは見た。目から溢れる涙が見せた、幻影かと思い、その眼を拭うと、先ほどよりも明瞭に、爛々と輝く連星をはっきりと捉えることができた。光無き世界を貫く二つの光。その光はリャージャ以外の存在にとっては、周囲で輝く一等星に紛れて、全く目立たない、無数の名もなき星に過ぎないが。しかしリャージャにとっては、それは神と竜にすら穿てぬ、二つの世界の壁を繋ぐ、光の梯子に等しいのだ。

「見えた」

 その言葉を口にした瞬間、リャージャの双眸より再び涙があふれ出る。

 だがその涙に、もう苦さはない。

 弱さではなく、強さを与えるものだ。

 力いっぱい、リャージャはその二つの縁を手繰り寄せる。すると周囲の景色がどんどん移り変わっていく。光の速度で、星々の海を駆けるかのように、目まぐるしく世界が切り替わっていく。


 世界の狭間でのみ見える景色。無限に等しい大小さまざまな世界の一片が、ちらりと顔を覗かせたのだ。情報量という意味では、竜の世界に等しいものだったが、今のリャージャにとってそれは、望遠鏡越しに見る星雲のように美しかった。

 心を更に弾ませる。不安が無いわけではない。物質界に戻っても、また「送り返される」かもしれない。ネーパットの企みを挫くことができず、呆気なく散ってしまうかもしれない。

 だが、その心に恐怖は無かった。リャージャは、確信していたのだ。自分の友が、今も戦っていることを。魔人だったころのおぼろげな記憶の中に、ネーパットに対峙するサネトの姿があった。彼はきっと諦めない。誰よりも粘り強く、それでいて聡いことを、リャージャは知っていたからだ。

 だからこそ、一刻も早く駆け付けなければならない。相手はネーパット、魔を統べる者であるタミーナフの生まれ変わり。こと魔に関して言えば、魔の扉を開いたトナティフ、竜因の始祖たるフューオンに並ぶ存在。竜の世界に足を踏み入れたからわかる。もし、そのような称号を持つのであれば、タミーナフに勝つことは万が一にもありえないことだ。

 きっとサネトは知恵を絞り、死力を尽くすに違いない。だが、もし「業を煮やした」ネーパットが、ほんのわずかでも「本気」を出してしまえば、常人のあがきなど、些末なことに過ぎない。リャージャが駆け付けたところで、力の差は決して埋まらない。つまり「ネーパットの機嫌」という不確かな導火線が爆弾に辿り着く前に、戦場に駆け付ける必要がある。

 そうこう考えているうちに、目前の光が一層強くなっていく。経験は無いが、これが、物質界への帰還が近いことは直感で理解できた。

 一方で光が強まると同時に、一抹の不安がリャージャの脳裏をよぎる。ネーパットへの恐怖からではない。この光は、リャージャの血の縁。つまりこの先にいるのは、リャージャの両親である。

 もう二人が無事なのは、この煌々とした光の強さからも明らかだ。しかし、二人は、果たして、自分の顔を見て、すぐにかつての我が子であると気づけるだろうか。あれから年月が経ち、容姿も随分と変わった。きっと気づけない。突然どこからともなく現れた存在に、むしろ恐怖を覚えるだろう。不気味なものを見て、おびえた二人の表情を目にして、自分の心が再び折れたりはしないだろうか。そんな不安がどこかにあったのだ。

 だがリャージャは、すぐに意識を切り替えた。なんてことはない。そもそも、一刻を争う事態なのだ。両親の顔など見ず、とっととサネトの元へ飛んでいけばいいのだ。そうすれば自分の心を揺らがせることなど、なくてすむのだから。

 そのように意志を固めて、リャージャは光の入り口に自分の身を投げ入れた。わずかに閃光に包まれたかと思うと、一瞬で周囲の景色が一変する。上には、青い空、周囲には緑の木。間違いない。物質界だ。世界を跨ぐ移動は、思ったよりも呆気なく終わったことに拍子抜けしつつ、リャージャはすぐさま、遥か遠方で炸裂する強烈な魔力を感じ取った。これほどの魔力を使用できるのは、この世界に一人だけだ。リャージャはすぐさまその力の方へ飛び立とうとする。


 しかし。


 ふと、自分の足元に視線を降ろしたくなった。そこには自分の両親がいるはずなのだ。屋外にいるということは、洗濯でもしていたのだろうか。そのあたりを散歩でもしていたのだろうか。

 すこしだけ、ほんのすこしだけでいい。

 顔をちらりと見て、あとはすぐ飛び立てばいいではないか。葛藤する時間すら惜しいのだ。判断は早い方が良い。

 そう思い、リャージャは恐る恐る、そこにいるであろう両親の方へ視線を向ける。自分の足元には、畑の上で仕事をしていたであろう、母と父の姿があった。随分と老け込んでいる。二人とも髪の毛は白髪交じり、肌には苦労の跡が刻まれていた。

 表情に浮かんでいるのは、疑問と困惑。

 当然だろう。突然何もない所から、人間が出てきて、しかもこうして中空に浮いているのだから。だが二人の表情は一向に変わらない。やはり今のリャージャの姿を見て、我が子であるとは気づかないのだろう。

 既にリャージャは、自分の決断に後悔をし始めていた。とはいえ、リャージャの心を折るほどのものではない。さぁ、さっさと友の元へ駆けつけてしまおう。

 意識を切り替えたそんな時だった。


「リャージャ?」


 女性の声。もうすっかり忘れたと自分でも思い込んでいた、母の声。

 体がわずかに停止する。頬が緩み、目頭が熱を帯びるのを感じる。

 だがリャージャは振り返らなかった。ただ一言

「行ってきます」

 そう小さく告げて、天高く飛び去ったのだ。




 白竜の力により、身動きの取れないサネトに、ネーパットは目に見えぬ魔力の刃を、今にも振り下ろそうとしていた。

 空間を完全に外と隔離しているため、全ての存在の移動を禁じる白竜の力が薄まることは、外部の介入抜きでは成立しない。だが、あのネーパットが、この空間封鎖に使用する障壁を、そうやすやすと破壊できるものにするわけがなかった。

 現に、いち早く白竜の力の行使に気づいた竜因と、彼らと共にいた魔工宗匠たちは、安全圏からの観測をやめ、その空間障壁を破壊せんと攻撃を続けているが、未だに傷一つついていなかった。

 ネーパットは、計算を誤らない。広範囲に及ぶ障壁である以上、それほど魔力は費やしてはいない。実際こうして白竜の力に囚われてさえいなければ、サネトとヨベクであれば、単独で破壊することもそう難しくない程度のものだ。しかしその二人を除いて、この障壁を破壊可能なほどの魔力を有する存在や兵器は、現在のこの星には存在しない。

 つい、先ほどまでは。

 突如、地震のような揺れと、硝子が砕けたかのような音が鳴り響いた。全てが停止しているこの空間に、突如訪れた「変化」。

 その音と共に、サネトの眼に稲妻が戻る。白竜の力が僅かに薄れた証拠である。だが未だ常人であれば指一つ動かすことができないほどの、絶対零度の世界。

 しかし「移動」という力を司る今のサネトにとって、そのわずかな緩みは、体を動かすのに十分なものだった。首に振り下ろされる刃を、サネトは体をひねって躱したあと、そのまま隣で未だ体を動かせないヨベクを腕で抱え、ネーパットから距離を取った。

 そしてその後、ネーパットとサネトの間に、空から何者かが勢いよく降ってきた。

「リャージャ……」

 サネトからは、その人物の背中しか見えなかったが、戦友の姿を見間違えるはずがなかった。

「よう、裏世界から、舞い戻ってきたぞ、ネーパット。いやタミーナフ様よ」

 リャージャはその体から莫大な魔力を滾らせる。すると、空間を覆っていた白竜の力が、徐々に消えていった。

「なるほど。わしでも、覚醒した竜因相手では、同じ力では張り合えぬか」

 ネーパットは諦めたのか、白竜の力と、それを包んでいた結界を解除する。

「じゃあ、これはどうだ?」

 ネーパットが親指を立てる。その合図は、サネトが既に一度目にしたものであった。

「まずい、ヨベク、一秒で良い!止めろ!」

 サネトは急ぎその場から立ち去った。爆発的な火炎から逃げるためではない。白竜の力に囚われたサネトらを助けに、「近づきすぎた」魔工と竜因たちを救うためである。

 竜因や魔工たちは、未だ何が起きているのか理解できていない。サネトは四名を腕に抱えて、安全圏まで逃がしていく。だが合計、十三名もいる。一度に抱えきれる人間も四名が限界である。

 一往復終えたとき、既にネーパットは地獄の業火を顕現させていた。

「ヨベク、手伝え!」

 太陽と見紛うほどの大閃光に、リャージャは果敢に向かっていく。そしてその両の腕を広げて、その火炎を総身で受け止めた。白竜の力は、全ての移動を制御する。その力を最大限に駆動させ、黒竜の力を制止した。だが、例え竜因を覚醒させたものであっても、伝説的な英雄の究極の術を制止することはできない。先ほどは同じ白竜の土俵だったために、より力の根源に近いリャージャに分があっただけ。リャージャはすでにその身を焼きながらも、炎の侵攻を完全に止めることはできないでいた。

 その背後から、ヨベクもまた、複数の魔神術式を組み合わせて、リャージャの支援をしていた。だが、やはりその勢いを止めることはできなかった。

 だが、二人が稼いだ時間は、サネトが、残りの人間たちを離脱させるだけの猶予があった。

「はぁ、乱暴な運び方になってすまん」

 サネトが息を切らしながら、竜因と魔工たちにそう言って、すぐにリャージャたちのもとへ戻っていく。

「ちくしょう。とんでもないもんい巻き込まれていったもんだ」

 レアケがそう悪態をついたときには、サネトの姿は影も形も無かった。




「うおおおおお!」

 リャージャは、火炎にもまれながらも、特に大きな傷を負えっている様子はなかった。ヨベクも同様で、二人は、寸前のところで自分自身の体を守るためだけにその力を集中させていたのだ。

 リャージャはその拳に力を籠め、ネーパットを殴打する。しかしやはりその拳は、透明な鎧に防がれて、彼女の体を傷つけるに至らなかった。

「くそぉ。なんなんだこれ」

 リャージャは一度後方へ大きく飛び、距離を取る。と同時にサネトも、再びこの場へ戻ってきた。

「悪い、二人とも。ネーパットの体の周りには、何かえらく頑丈な結界のようなものがあるんだ」

「……恐らくですが、あの結界は、魔力による障壁です」

 ヨベクが、そう神妙な表情で答えた。

「魔力?そんなもんわかってるよ。ネーパットが神術使えるわけでもあるまいし」

「いえ、そうではないんです。あれは、魔力そのものなんですよ」

 ヨベクの説明はサネトにもリャージャにも得心の行くものではなかった。

「わかるように説明してくれ、ヨベク」

「紫竜は魔力を司る竜だと言われます。ネーパットの体を覆う術も恐らく紫竜に起因するもの。どのような方法かはわかりかねますが、ネーパットは魔力を固形化させ、それを鎧として纏っているのだと思われます」

「それだけで、あんな頑丈な防御になるのか?」

 サネトたちには、とてもその原理で、あれほどの防御力を備えた術になるとは思えなかった。

「いえ、むしろこれ以上ないほど頑丈です。魔術は、魔力を消費し、それを別のものに変化させて行う。炎の魔術であれば、魔力を燃料に火を灯し、水の魔術であれば、魔力を動力として水を動かす。高度な術になればなるほど、変換における魔力消費量は大きくなる」

「いや、そりゃわかるが……待った。つまり、もし魔力をそのまま強度を持たせることができたら、ってことか?」

 サネトの言葉に、ヨベクは首を縦に振る。

「そうです。仮に百の魔力を燃料に、炎の術を使えば、炎に変換したことで、その出力は恐らく八十程度になる。ですが、百の魔力をそのまま術にしてしまえば、出力は百のまま。平易に言えば、ネーパットのあの結界は、既定の魔力量を下回る術を全て防ぐのでしょう。しかし問題は、ネーパットの魔力出力は、我々三人を合わせてもようやく互角程度」

「互角ってことは、魔力の変換率で劣る私たちじゃ、あれを破るのは逆立ちしても無理、ってことか」

 リャージャはひどく冷静な声色で、自分たちの勝率がゼロに等しいことを認めた。

「いえ、一つだけ方法があります」

 ヨベクが、ネーパットを睨みつける。

「私たちも同じ術を、使えばいい」

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