タミーナフ治世緑 第二部第七章
若き神が、聖王にして賢君、タミーナフを頼り、十月が経った。
魔に染まり、堕ちし、かつての神々。その数、合わせて一〇二四柱。
神々への反逆の首魁にして魔神王、クームベサム。その力、創世にさえ比肩する。
彼らは人の形をした魔の群衆を従え、地上と神の国へ侵攻を続けていた。
聖王タミーナフであっても、聖都のつわものであっても、彼らに敵うはずもなし。
しかしタミーナフは、その瞳で確かに、彼の勝利を見たのだ。
魔神たちの千人長が破れ、領主もまた砕かれた。
一〇二二柱の魔神が、聖王の前に跪き、その力を貸し与えた。
残すは二柱。
大嵐と旱魃の王にして、魔神王クームベサム。
洪水と戦争の王にして、将軍たるクン・プユス。
いずれも創世に歯向かい、にもかかわらず、打ち倒すこと叶わなかった強大な魔神。
「おお、我らが新たな主よ、それは死出の旅、定められし負け戦。魔神王と、その将軍は神すら叶わぬ、無比無双の存在。決して挑むべきではない。われらと共に、聖都へ引き返し、その繁栄に務めよ」
涙をこぼし、膝を負って、タミーナフの新たな臣下は王に訴えた。
「哀れな子らよ、汝らは、かの神々、かつての汝らの主人を究極と信じて疑わぬ。だが汝らの新たな主は、一〇二二の零落せし神々を従え、古の知恵を得た英雄の王なり。我にとって、彼奴らが誇る神力など、些事に過ぎず。彼奴らが揃える軍勢など、雑兵に過ぎず」
タミーナフの言葉に、しかし未だ忠臣は恐怖を覚え、思わず体を震わせる。
「恐れるな。我は聖王、魔術の祖、魔を理解し、操りし者。若き神さえ我に頼るというのに、何を恐れることがあろうか」
王の勇ましき言葉に、此度においては忠臣は鼓舞され、喜びに心を震わせる。
王は一〇二二の供を連れ、魔神王統べる領土に足を踏み入れる。
その宮殿は、零落した神々の威容を伝え、その玉座は、魔に染まった支配者の脅威を現す。
かつてそこには、神を讃える神殿があり、周囲には荘厳な城壁が立ち並んでいた。しかし最早その面影は無い。神の代わりに、魔王が鎮座する城塞となっていた。
「我はタミーナフ、聖都の王、若き神の友なり。魔に堕ちた神々を誅すべく、この地を訪れた」とタミーナフは、大いなる門の前で声を荒げる。
「愚かな。そのようなことができる人間がどこにいようか」と魔神たちの主にして将、大水をもたらすものと、砂嵐を導くものが答える。
「一〇二四柱の魔神の王よ、汝らは我が糧となる。汝らは我に平伏する。汝の力、我が物としてみせよう。その力を以て、タミーナフ、賢君にして、至上の王たる我が、魔を統べるものとなろう」
タミーナフは杖を掲げる。しかし魔神王と将軍は王の威光を受けてなお、ひるまず。
「おお、タミーナフ、汝の力、見事なり。だがそれでは足りぬ。我らが力を託すに能わず。我らが魂を継ぐに能わず」
タミーナフは、魔神の言葉に怒りを示し、杖を力強く振るう。
「我に従わぬなら、汝らは我が敵に過ぎぬ。汝らの仲間を束ね、魔を統べた我が奥義を以て、魔神王と将軍の、その魂を砕こう」
タミーナフの杖より放たれた、世界を焼き尽くす火炎は、またたくまに二柱の魔神の頂点の身を焦がし、膝を折らせた。
「おお、タミーナフ。汝の力に、零落せし我らの神力は及ばず。我、クン・プユス、氾濫を司るものの終身に及ぶ隷属をもって、先の非礼への謝罪とさせてほしい。そして願わくば、我らが主の命も、見逃してほしい」
寛大なるタミーナフは、魔神の将軍の嘆願を受け入れた。クン・プユスはその身を力に転じ、タミーナフの指に宿らせた。クームベサムは、人と神の世界への侵攻を、今後行わぬとタミーナフと約定を交わし、我が物としていた土地を神へと返した。
一〇二三柱の魔神の力を携え、タミーナフはとうとう、彼が治める聖都へと舞い戻った。
これにて若き神より任ぜられた魔神調伏は相成った。人よ讃えよ。これは聖王タミーナフの誇る、万の事績の一つである。




