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凍土の幻妖 第一節

 <玄黄星>のように、地軸が傾いておらず、そして<天藍星>のように、恒星が二つあるわけでもない。この星において、季節という概念は存在しない。従って常に熱気に包まれる赤道付近とは対照的に、極に近づけば近づくほど、氷に閉ざされた厳しい凍土となる。

 <イパイス>大陸。<紅玉星>の中でも最大の大陸であるにもかかわらず、その人口が最も低いのは、北極に近いためでもある。だが同時に、人を寄せ付けぬこの気候は、生命ならざるものをおびき寄せた。魔獣たちにとって、寒波なぞ大した障害にならない。しかし生命亡き地では、魔力もまたそれほど潤沢ではない。ならば何故魔獣が集うのか?それはこの大陸が、禁域と言われる<ミューン>大陸に最も近く、そして、魔力流の関係で最も影響を受けやすい地であるためだ。魔の氾濫する彼の地は、しかし魔獣にとっても決して生易しい地ではない。魔が魔を食い荒らす過酷な競争の地、生存本能を持たないはずの魔獣でさえ、逃げだしたくなるのが、禁域である。生存競争に負けた魔獣たちは、流氷の橋を渡って、極地<イパイス>へと流出していくのだ。

 サネトとリャージャは、彼らの新たな財産となった機械人形ヨベクを連れて、この大陸の中で数少ない人間の住む地であり、そしてその中でも最大の都市である<トゥヴヤ>へと赴いた。しかし大都会で、人間が居住可能なように整備されているこの都市でさえも、普段熱砂の中暮らしているサネトとリャージャにとっては、少しでも足を止めれば、凍えて動けなくなりそうになるほどであった。

「寒いわ」

「寒い」

 サネトとリャージャが震える唇を必死に動かして紡げた言葉は、その一言だけだった。

「お二人とも大丈夫ですか?」

 水晶門から出たばかりの二人の背後から、ヨベクが声をかける。

 その問いかけに、しかし二人は答えることができなかった。全身の震えのせいで上手く声が出せないのだ。そんな様子を見かねたのか、ヨベクは二人の背中をとんと押した。

 すると突如、二人の身体から身震いが止まった。それどころか、少しずつ体を凍らせる寒さが、少しずつ消えていくのだ。

「生命活動に支障が出るほどの事態と察しましたので、勝手ながら恒温処理を行わせていただきました」

「お、おいおい。身に纏う暖房ってことか?つくづくてめーは、高性能だな」

 サネトの口は、すっかり寒波の牢から解き放たれていた。

「すみません。出過ぎた真似でしたら、今すぐ中断しますが」

「ばかばか、辞めないで!宿に行くまでこのままで!ね!?」

 サネトの悪態を誤解して、術を中断しようとするヨベクを、慌ててリャージャが制止した。

 二人は、すたすたと、軽やかな足取りで、事前に調べを付けていた、この都市の宿へと向かう。小さいながらも設備の良さで評判な宿で、この大陸を初めて訪れる二人は、野宿は絶対に避けねばならぬということで、部屋の予約を取っておいたのだ。

 宿に訪れると、外とは別世界の如く心地の良い温度に調整されており、もうヨベクの術は必要なかった。

「しかし、こりゃ魔人よりも寒さの方が怖いな」

「そうだね。ヨベク、激しい戦闘中も、さっきの温度調整って可能?」

「はい、激しく運動する場合、少し温度にむらは出るかもしれませんが」

 それを聞いて、一安心するサネトとリャージャ。喫緊の問題が解決したこともあり、二人は既に別の話題に意識を移していた。

「で、ヨベク、私たちの所有物になった感想は?」

 リャージャは、直立不動の姿勢を保つヨベクに背後から抱きついて、悪戯っぽい表情を浮かべながら、そう述べた。

「感想ですか。どうお答えすれば、お二人を喜ばすことができるでしょうか」

「そうだな。ネーパットの正体を教えてくれると、とても喜ぶぞ」

 サネトは、遠回りで攻めるリャージャとは対照的に、極めて直接、本題をぶつける。

「ネーパット様の正体、ですか」

「ネーパットだ、間違えるな」

 抱きついているリャージャは、ひどく低い声で、ヨベクの言葉を訂正した。その腕には力が籠り、ヨベクの機会の身体からは、鈍い軋む音が響いている。

「おいおい、リャージャ、壊さないでくれ。こいつには聞きたいことがわんさかあるんだ。それで、ヨベク、ネーパットの目的と正体、どれだけ知っている?いや、どれだけ情報を残している?」

 サネトは、ネーパットがヨベクの記憶領域に細工したことは、既に理解している。だが所有権を引き渡される際に見せた、高度な推論能力をもってすれば、二人が知らないネーパットの一側面を知ることができると考えていた。

「わかりました。ですが、サネト様。私の記憶領域はひどく空白があります。特にネーパットに関するものは大半が消失しております。元々私がどこまで知っていたのかさえ、判断はつきません。そんな状態ですので、今からお話しすることには、多分に誤りが含まれている可能性があります」

 ヨベクの注意書きは、サネトもリャージャも既に覚悟の上であり、早く続きを話せと促した。

「そうですか。では、まず正体から。これについては確信を突くようなことは入手していませんが、二点、確実なことをお話しします。まず一点目、ネーパットは千年以上生きています」

「千年!?」

 二人はそれを聞いて耳を疑った。千年を超える寿命など聞いたことも無い。

「待って、それ、なにをもって確実なのよ?アンタが作られたのが千年前とか言わないよね?」

 リャージャは驚きのあまり、ヨベクから離れ、その正面に回った。

「はい、その通りです」

 冗談のつもりで言ったことが的中し、リャージャは思わず頭を抱えた。

「待った。ネーパットは、お前の記憶を削除したんだろ?どうして千年前に生み出されたことを覚えている?」

「厳密には、千年前の記憶はありません。しかし私は、外部情報を数多くの軸で記録しています。光、音は勿論、匂い、時空間情報、魔力流、因果律などです。ネーパットによる消去の記録は主に光と音、そして時空間情報には及んでいましたが、ほぼ手付かずのものもありました。恐らく単体では情報量として意味をなさない判断とされたのでしょう。魔力流の情報だけで過去を復元することは不可能ですから。ですが言い換えれば、私がそれらの情報をいつから記録し始めたかは、まだ閲覧可能です」

 サネトは少し冷静さを取り戻し、思案に耽っていた。彼の一番の疑念は、今こうして話しているヨベクの言葉自体が、ネーパットに仕組まれたものではないか?というものだった。こうして、ネーパットの超越性をヨベクから話させることで、自分たちがネーパットに反抗心を持たぬよう仕向けている可能性も少なからずあった。

「ヨベク、その記録について、どこか不自然な点はない?情報の奇妙な繰り返しがあったり、重複があったり」

 リャージャの質問は、実に的確な内容で、思わず膝を打った。もしヨベクの独白がネーパットの作戦の一つで、そして嘘であるなら、その記憶領域は捏造されたものということになる。そして千年に渡る情報を一から作るのは、かなりの苦行なはず。光や音、時空間情報といった、複雑な情報とは対照的に、匂いや魔力流、因果律は、仮に類似した記録が何度もあっても、それほど不自然ではない。しかしそれでも、その作業は確実に「手癖」が出る。人間が適当な数値を打ち込み続けても完璧な乱数は生まれないのと同じで、不自然な反復や重複が見られてもおかしくはない。

 ヨベクはリャージャの指示通り、目を閉じて自身の記憶領域を検索し始めた。

「なぁ、リャージャ、今思ったんだが、千年分の記憶なんてどこに書き込んでるんだ?」

「私も気になってた。どんな記憶領域積んでるんだろうね」

 リャージャとサネトがそんなことを小声で囁いていると、ヨベクは検索行動を終え、目をゆっくりと開いた。

「検索したところ、記憶の不自然な重複や反復は見られませんでした。この記憶が捏造である可能性は、極めて低いと言えます」

 ヨベクは、リャージャの質問の意図を汲んだ回答を返した。

「ふむ、なんていうか、そうなのか……」

 彼の落胆の声色からもわかる通り、どちらかと言えば、捏造であった方が嬉しかったというのが、サネトの本音だった。

「待った。それはアンタが千年前に作られたことを証明しただけでしょ。ネーパットではなく、他の誰かが、千年前にアンタを作った可能性があるじゃない」

 気落ちしているサネトとは対照的に、リャージャは冷静にヨベクの見解に批判をした。

「はい。それはもう一点のわかっていることと関係します。私は文字通り、この星の全ての情報を閲覧ができます。個人の口座番号から、政府の機密まで。ですが、その力をもってしてもネーパットの研究記録に侵入する能力がありません」

「つまり、ネーパットの暗号技術は、貴方の力を上回っていて、そしてそれはこの星全ての技術者を超えていることを意味していると?」

「はい。それ以外にもあの研究室や、サネト様の義手、リャージャ様の火砲、いずれをとっても、この星の技術を遥かに上回っております。そして、少なくとも史料が現存する第三次文明崩壊以降の五千年間、ネーパットの技術に匹敵するものは彼女が手掛けた物以外には、確認されていません」

 ヨベクの言っていることは、ネーパットの唯一性の証明である。

「ふーむ。まぁまだ聞きたいことあるけど、今はいいや。じゃあヨベク、次はネーパットの目的について聞かせて?」

 どうやらリャージャには、そのヨベクの説明にも反論したい箇所があったようで、どうも煮え切らない表情だったが、それは一旦保留し、次の議題へと移った。

「目的ですね。こちらも魔人の心臓を集めているという点や、確認できた工房の設備からの類推となります。こちらについても間違えている可能性があることを、承知ください」

 するとヨベクは空間に映像を投影し始めた。それは一見すると、設計図のようであった。

「これは私がネーパットの工房で見かけた設備、そして魔人の心臓を素材に作り出すことができる装置の一例です」

「これはどんな装置なんだ?」

 素人目には、その設計図を見たところで、その機械の用途は理解できない。

「端的に言うと、莫大な魔力を恒久的に生産し続ける魔力炉です。概算では、この星で一日に消費される魔力量と、全く同等の量を半日で生産し、そして千年以上稼働させ続けても停止しません」

「おいおい、とんでもねえこと言いだすじゃねえか」

「それだけ、魔人の心臓というものは高性能な魔力器官ということです。それを十三個も集めれば、大抵のことはできます」

 専門家ではないので、そんな技術が果たして可能なのかどうかも、サネトたちには判断がつかなかった。特に魔人の心臓については、それを扱った技術というものを聞いたことがなかったため、余計想像がつかなかった。

「大量の魔力生産装置を作るのが目的、ってわけじゃないよね。これを使って何を企んでいるのかまで、想像はついているんでしょう?」

 リャージャがヨベクにそう問いかけると、ヨベクは再び別の映像を投影した。

「はい。恐らくこの星を救うこと、それが目的と思われます」

「またそれかい」

 ヨベクの口から飛び出す聞き覚えのある大言壮語に、リャージャは呆れた顔を見せた。

「なぁ、もしかして、この星が瀕してるっていう、魔力不足をその装置で補おうってのが、ネーパットの目的か?」

「私はそう理解しております。事実として、この星の魔力生産力は急速に落ちています。少なくとも私の千年間の魔力流の記録は、それを顕著に示しています」

 サネトはそれを聞いて、何かを考え込み始めた。思考を促進させるかのように、彼は一定の感覚で、ゆっくりと中指で額を小突いていた。

「ヨベク、お前、この星は何で魔力不足に陥ったかは知っているのか?」

 サネトはそう問うと、ヨベクはゆっくりと首を横に振る。

「いえ。ひょっとすると記憶領域から消された内容には、それに関するものがあったのかもしれませんが、少なくとも現在の私にはそれに関する確固たる定説は持ち合わせていません」

「じゃあ、曖昧でもいいから、アンタの推論を聞かせてよ」

 リャージャの問いかけに、表情のないヨベクの顔がどこか困ったような様相を見せる。

「これは、あくまで、仮説になりますが」

 ヨベクは、まるで渋々言いたくないことを述べているような、歯切れの悪い口調で、前置きをし、その後、本当に聞くのかと、現在の主人に確認するかのように数秒間黙っていた。二人からは特に返答はない、が、その目は雄弁に続きを聞かせろという彼らの心情を物語っていた。

「この星の星神、<紅玉神>が、もう死にかけているのではないかと」

「は?」

 あまりに想定外の言葉に、二人とも眉間に皺を寄せていた。

「突拍子もないことは承知しております。ですが、考えてみれば、星の中心は星神、神気を核とするものです。例え魔力溢れる<紅玉星>であっても、そのそれは変わらないはず。ではなぜ、この星は神気と相反する魔力に満たされていたのでしょうか?」

「そりゃ、お前、『新星界書』で言われてただろ。魔王<ディシティフ>の魔力溢れる遺骸をもとに、この星を作ったからで……」

「もし伝承通りだとすれば、この星は、神に運営されながら、その土壌は魔ということになります。星神なしには星は存在し得ないのに、この星そのものが星神を蝕むという状況が、勇者<ゼット>による魔王討伐以来ずっと続いているのだとしたら?」

 二人は突然背筋がぞっとした。ヨベクの言っていることは、全く突拍子もないことである。しかし今まで疑問に思われてこなかった神話における星の成り立ちの、不自然さをつきつけられ、困惑を隠せなかった。

「だから、星神が衰弱しきっていて、いつ倒れてもおかしくないから、星神の代わりになる装置を作ろうとしている、ってこと?」

 リャージャが恐る恐るそう推論を述べると、ヨベクはためらいなく首肯した。

「……それ、世界政府は知ってんのか?」

「世界政府も、異常な星の魔力の低下以上の事は高確率で知らないと思います。が、ひょっとすると、一部の人間、例えば、魔工宗匠のレアケなどは知っているかもしれません」

「……まぁ、この件についてはこれくらいにしておくか。もう他にヨベクが知ってることはないんだな?」

「はい」

 サネトは、ネーパットに関する議論を切り上げることにし、リャージャもそれに同意したのか、一人寝台に体を預けた。

「おーい、まだ明日の魔人退治の話があるぞ」

 今にも眠りにつきそうなリャージャを、サネトは制止しようとするが、リャージャは体を起こさず、そのままこう返した。

「えー、もう流れでいいでしょ。二体同時とかじゃないし」

「おいおい、そういう油断がだなあ」

「ネーパットも『救うもの』には気を付けろって言ってたけど、次の『頑迷なるもの』については、そんな特記事項も無かったじゃん。大丈夫だって」

 腹ばいで寝台に寝転ぶリャージャは、首を上げようとすらせず、その声は布越しで聞き取りづらいものだった。

「しかしまだ夕方でもないぞ。今から寝てどうするんだ」

「ばんめしにはおきるー」

 その言葉を最後に、驚くほどの速度で、リャージャは眠りに落ちていった。

「凄いですね。さっきまで随分溌剌として、眠気など一切感じませんでしたが」

「これがリャージャだよ。寝ない時はいつまでたっても寝ないけど、寝るときは一瞬だ。本人曰く眠いから寝るんじゃなくて、寝たいから眠るんだと。同じ人間とは思えねえよ」

 そう言いながら、サネトは立ち上がり、この極寒の地のために誂えた厚手の外套を身に纏い始めた。

「おや、お出かけですか?」

「ああ。街の中をぐるりと回って、その後、『頑迷なるもの』がいるっていう洞窟の近くまで散歩しようと思ってな」

「承知しました。いってらっしゃいませ」

 ヨベクが深々と頭を下げ、主人の出立を見届けようとするが、それに対しサネトは、出口ではなく、ヨベクの傍に歩いてきた。

「何言ってんだ。お前も来るんだよ。暖房がねえと歩けねえよ」

「あ、そうでしたか。しかし、リャージャ様はおひとりで大丈夫でしょうか」

「大丈夫だよ。例え爆睡していても、自分の身に危険が降りかかったらすぐ起きるから、こいつは」

 ヨベクは、寒さを感じたり、この冷気の中で動作不良を起こしたりするわけではないが、流石にこの地で薄手の姿は目立つからとネーパットに持たされた外套を纏って、サネトの後ろからついていく。




 サネトは、まず街の一番の繁華街へと乗り出した。しかし繁華街と言っても、一目見ただけでは随分閑散としているようだった。しかし少し店の中などを見ると、かなりの賑わいを見せていた。事前に聞いた話では、<イパイス>大陸の多くの都市では、その寒さゆえに、サネトのように散策する人は殆どなく、目当ての場所に一直線に行っては、そこで長居することが多いという。また夕暮れも早いため、昼過ぎのこの時間が、所謂最も賑わいのある時でもある。サネトは夕飯の場所を見繕うために歩いているのだが、そうした事情もあってか、どこの店も閉店時間は夕前になっていた。

「こりゃ外食は無理だな。やっぱり宿の食事処で済ませるか」

 念のため、その後も三十分ほど、街を練り歩いたが、やはり夕食時に開いている店は見当たらなかった。まだ夕時には程遠い時間だが、既に外気はかなり冷え込み始めている様子だった。しかし空模様が、夕焼けの空ではなく、ただ少しずつ白い空が、灰色になっていくだけのため、今どれほど日暮れているのかの判断は付かなかった。従って彼は確認のため、一度ヨベクの暖房機能を切らせると、突如昼頃とは比べ物にならないほどの冷え込みが、身を襲い、すぐさまサネトはその判断を後悔した。

 


 

 夜天の幕が空の端から徐々にかかっていった。

 もうこうなると洞窟に向かっている間に、辺りはすっかり暗くなってしまうだろうと予測したサネトは、当初の計画を中断して、潔く宿に戻ることにした。

 しかし部屋にはいかず、まずは宿の設備を確かめることにした。事前に知っていたことではあったが、やはりこうした気候からか、旅行者も外を出歩くというよりは、宿でのんびりとする者が多いという。そのため他の地域の宿屋よりも、この都市の宿は、内部の設備はかなり充実していて、彼らが宿泊しているこの旅籠も、その例に漏れなかった。

「すげー。温浴室に冷浴室。球戯場に、遊技台。一日いても遊びつくせねえって感じだな」

 サネトはヨベクを連れて、宿の中を歩き回っていた。特に遊戯の類に関心を寄せていて、今は魔人退治の事を忘れ、何か一つくらいは遊んでみようか、というような気持ちになりつつあった。が、問題は、相手が機械人形のヨベクしかいないことである。未来予知に匹敵する可能性観測や、高速演算を持つ相手には、何千手の先を読む知略が重要な駒も、運と読みの鋭さが重視される札と牌も、まともな勝負になる気がしなかった。

 かといって、加減して戦えというのも、サネトの矜持が許さない。ならば球戯はどうかとも思ったが、しかし身体を動かすとなると、勢い余って何かを壊したり、悪目立ちしたりするような予感がしたため、やはりこちらも廃案となった。

 悩みに悩んだ末、サネトは、ヨベクにこう持ち掛けた。

「お前、温浴は平気か?」

 結局彼は、あらゆる種の勝負事を諦め、機械人形には不要な寛ぎの場に、ヨベクを付き合わせることにした。

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