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血塗れの島 最終節

「それで、今回の作戦ってのは何なんだ?」

 時はサネトたちが、<ヌズ>列島に旅立つ前の時間に戻る。サネトはヨベクと共に、魔人二体との戦いについての作戦を、リャージャに共有していた。

「簡単に言えば、さっきの光魔術を使って、魔人を同士討ちさせる。より正確に言えば『力強きもの』に『硬骨なるもの』を攻撃させる」

「えぇ、そんなうまくいく作戦とは思えないけど」

 サネトの提案にリャージャはあまり肯定的ではなかった。

「まぁ、そう言うな。勝率は高いぞ。まず俺とリャージャで魔人を一体ずつ抑える。理想は俺が『力強きもの』、お前が『硬骨なるもの』だな。それで、少しだけ引き離す。少しだけで良い。そしてその二つの戦いの間に、こいつが光の幕を通す。文字通り、虚像だけを写すものだ」

「そんな大規模な魔術、使ったら絶対気づかれるって」

 リャージャが不安げに、その術を使うヨベクの方を睨む。

「安心してください。その条件であれば、魔人の視界、聴覚は完全に掌握できるかと」

「……で、仮にバレなかったとして、じゃあ虚像を使ってどうやって同士討ちさせるのさ」

「簡単さ。リャージャ、お前が『硬骨なるもの』を虚像の境界近くまで引きつけ、そしてその後、俺がそこに『力強きもの』を誘導する」

 その説明でも、まだリャージャは合点がいった様子ではなかった。

「いやいや。それいっぱい問題があるでしょ。まずどうやってサネトは虚像の向こう側にいる、『硬骨なるもの』の正確な位置を判断するの?それに、『力強きもの』がわざわざ何もない所を攻撃する?それに誘導にしたって、私たちの言う通り動くとは限らない」

「まぁ当然の懸念だな。だから虚像の作り方は予め決めておくんだ。ヨベク、虚像の中の、俺たちと魔人の位置を、周囲の光景に違和感がないようにしながら、そっくり反転させることは可能か?」

「可能です」

 それを聞いて、サネトは勝ち誇ったように自信にあふれた表情を見せた。

「なら、目印は簡単だ。俺は虚構の中にあるリャージャに向けて、魔人を誘導する。つまり現実においては、それは『硬骨なるもの』なわけだ。それなら魔人は、仮に俺がその攻撃を避けても、そのまま背後にいる、虚像のリャージャを切り裂こうとするだろう。まぁ誘導に関しては、俺たちが頑張るしかないが」

「それが一番難しいでしょーが」

 

 そんな、サネトたちの作戦会議から二日後、サネトたちは、やりとげた。山頂の、遮るもののない場所、しかも日光が容赦なく湖面に照り付ける場所で、ヨベクは完璧な虚像を作り上げた。そしてサネトたちも見事、魔人の誘導に成功し、「力強きもの」はその名の通り、力強く、そのかぎ爪を虚像の中のリャージャに振りぬいた。魔人は、すぐに気づいた。その手ごたえは明らかにおかしいことに。突如、虚像を突き破って、鋼のような拳が飛び出し、困惑した様子を見せる「力強きもの」の顔面を弾き飛ばした。勢いよく大地を転がる「力強きもの」の上空から、更に止めを刺さんとばかりに、サネトが剣形態に変形させた双銃を手に飛び降りた。剣は「力強きもの」の外骨格の肩口を貫いた。

「ぎいぎぎぎぎぎぎ」

 痛みを感じぬはずの魔人が、金属を強くこすり合わせたような耳障りな悲鳴をあげながら、自分の身体に飛び乗るサネトを振り払おうとする。だが長い爪と体躯が災いし、完全に密着されたサネトを上手く攻撃することができなかった。「力強きもの」は、業を煮やして、その爪を自分の身体に向かって突き立てる。サネトは素早くそれに反応し全力で魔人の体から離脱。サネトを狙った爪は結局、魔人の胸部を抉ってしまい、再び魔人が悲鳴を上げる。

 だがまだ仕留め切れていなかった。

 魔人は怒りか痛みか、狂乱したように暴れまわっていた。無秩序な動きであるために、予想の出来ない爪の軌道、それを掻い潜るのは常人ならば難しい。だが今のサネトは違う。ここまでのやり取りで、サネトの速度は、もはや魔人を完全に凌駕していることがはっきりしている。サネトにとっては、むしろ隙だらけの状況だった。にもかかわらず、サネトはじっとその様子を見つめているだけだった。まるで、「力強きもの」が、何かに気づくのを待っているかのように。

 「力強きもの」は、数秒ほどのたうち回った後、突然ぴたりとその動きを止めた。そしてすぐさま勢いよくその両翼をはためかせて、上空に飛び上がった。そして雲の真下にまで硬度を挙げると、そこから眼下の湖を観察し始める。さながら野鼠を探す猛禽のように。

 そして視界の端に、目当ての獲物を見つけた魔人は、すぐさま急降下。重力と自身の飛行能力を掛け合わせ、最高速でその獲物目掛けて突貫する。標的は、この光魔術を仕掛けた、ヨベク。先の一瞬で、違和感に気づき、そして上空から全てを観察して、「力強きもの」は気付いた。その戦場の外野で見張る存在こそ、この奇妙な手品を仕掛けた張本人だと。

(さぁ、どうする、ヨベク)

 今にも魔人に襲われんとするヨベクを真っ直ぐと見つめていたのは、サネトだった。彼は助けに行きもせず、ただ機械人形が魔人の歯牙にかかる様子をじっと眺めていただけだった。

(さぁ、このままだと真っ二つ。どうするんだ?)

 これこそ、サネトとリャージャが秘密裏に話し合っていた「ヨベクは囮」の真意である。これまでヨベクは散々自分に戦闘力はないと言ってきた。だがこれまでそれが見せてきた高度な魔術は、既に一流を超えた最高峰の術。「勝利するもの」との戦いで見せた未来予知。「疾走するもの」の矢を回避する運動操作、更には今見せた光魔術。<紅玉>最高の魔術師ですら実現の難しい術を、一つどころか三つ四つと、次々と見せつけてくるヨベクの実力、いや正確にはネーパットの技術力を、サネトは見定めたいと考えていたのだ。

 ネーパットはヨベクを、替えの利かない傑作と思っている。ならば、必ず、ヨベクには自衛の手段を託しているはずだ。それは恐らく、よほどの緊急時でなければ、見せぬ力。

 だが、いつまでたっても、ヨベクは動かない。まるで、魔人の動きに気づいていないように、ただじっと、その場で佇んでいただけだった。

(何してる。もしかして、本当に対抗策はないのか?)

 サネトが内心、焦りを見せた、その時だった。

 ぴたりと、突然魔人の動きが止まったのだ。凍り付いたかのように、魔人は僅かな震えすら見せない。今までの加速を一瞬で無にするほどの、急激な停止、それは傍から見ていると実に奇妙な光景であった。

(まさか、空間固定?いや、時間停止?どっちにしても……)

 旧式の魔術体系では、空間魔術も時間魔術も禁忌の術とされる、最高難度の術。勿論紅式魔術でも同様に、未だ人類には安定した時空魔術の開発はできていない。

『どうしましたか?サネト様。この状態は長く持ちません。魔人の動きが止まっている間に、さぁ早く』

 思案を続けていたサネトの耳元に、突如ヨベクから通信が届く。長く持たない。その言葉にサネトは、更なる期待を寄せた。もしこのまま放置すれば、ヨベクは更に高度な術を披露するかもしれない。

 しかしそんな期待は、次のヨベクが発した言葉で、一瞬に潰えた。

『よもや、ネーパット様に造反するおつもりですか?』

「ちっ」

 これを聞いたからには、サネトは動かざるを得なかった。勿論ネーパットが恐ろしいからではない。彼は恐怖で判断を鈍らせるような人間ではない。

 だが、ここでネーパットに縁を切られてしまっては、その正体と目的に辿り着くのは困難になる。ネーパットにしても、サネトやリャージャが最後まで任務を完遂する信頼に足る人物かを見定めている最中なはず。従ってサネトは、ここは素直にヨベクの言うことに従うしかなかったのだ。

 サネトは四重強化の加速魔術で遠く離れた魔人の近くまで走った。無抵抗な魔人の背中に飛び乗り、魔力の刃を、先程貫いた肩口の傷に再び挿入する。そしてその傷口の中から、徐々に胸に向かって刃をずらしていく。加速術で高速化した自身の運動能力を利用し、その刃の出力を徐々に上げながら、傷口を広げていく。あれほど強い魔人であっても、身動き一つ取れないために、あっさりとその魔力の核をサネトに切り裂かれてしまう。魔人の身体は霧散。休眠状態の魔人の核である、魔人の心臓だけが後に残った。

「てめぇ、こんな力があるなら、初めから」

「サネト様、まだ魔人は一体残っていますよ」

 詰め寄ろうとするサネトを、ヨベクは飄々と躱し、残りも倒して来いと言わんばかりに彼の背後をじっと見つめる。

「ちっ、お前の所有権貰ったら、隠し事を洗いざらい吐いてもらうぞ」

 サネトが急いで飛び出し、未だ戦っているリャージャと「硬骨なるもの」の戦いの場へ急いだ。

 先ほどの「力強きもの」の強襲で、大きな深手を負った「硬骨なるもの」は、完全に左腕が動かなくなっており、更に比率が腕に大きく偏ったこの魔人は、片腕が垂れ下がるだけで極度に動きが悪くなっていた。

 リャージャは、ただひたすらに拳を魔人に叩きこむ。反撃の攻撃が時折飛んでくるものの、先述の理由から、それはさほど脅威になりえなかった。勝負が決するのも時間の問題、ではあった。ただ未だ衰えぬその装甲の頑強さのせいで、傷口に正確にリャージャが拳を打ち込んでも、中々破壊しきれなかった。

 そこに、サネトが加速魔術で急接近する。加速術を活かした一瞬三斬、「力強きもの」がその三本のかぎ爪で斬りつけた魔人の傷痕を寸分たがわず斬りつけ、その傷口を深くしていく。「硬骨なるもの」は振り返り、サネトを迎撃しようとするが、今の彼にとって魔人の動きは止まって見えるほどに遅かった。魔人が一度行動に移す度に、サネトは五度、六度と、先程と同じような、傷口への追撃を行っていた。一回一回の攻撃で傷つく魔人の肉体は僅かだったが、それでも幾度と繰り返される鋭い斬撃によって、魔人の体の損傷は無視できないものになっていった。

 だが今回、魔人に止めを刺すのは、サネトではなかった。

「やれ、リャージャ」

 サネトに気を取られ、自分の近くで、その竜の魔力を左拳に一点集中させているリャージャに、魔人は気付いていなかった。魔人がリャージャの接近を察知すると同時に、今までサネトに斬りつけられ続けていた魔人に左肩が、そのリャージャの左拳の一撃で、腕ごと吹き飛ばされる。更に追撃とばかりに、リャージャが魔人に鉄拳を下す。

 損傷激しく、「硬骨なるもの」は肉体を維持するだけの魔力を失い、霧散。魔人の心臓と化し、大地へと転がった。

 勝利の余韻の中で、しかしサネトは不機嫌な顔を見せていた。

「ちくしょう、あの野郎、ふざけやがって。ヨベクめ。空間固定か、時間停止か知らねえが、昨日の作戦会議なんて意味がないくらいの、とんでもねえ力を隠してやがった」




「おや、随分不機嫌そうだね、サネトくん」

 魔人の心臓二つを持ち帰ったサネトを迎え入れたネーパットだったが、すぐさまサネトの表情が浮かばれないことに気が付いた。

「なんでもねーよ。それで。これでヨベクの所有権、くれるんだろうな?」

「ああ、約束だからね。おーい、ヨベク、こっちこっち」

 そう言ってネーパットは指を細かく何度か折り曲げ、ヨベクに近寄るように指示する。ヨベクは彼女の言う通り、椅子に腰かけるネーパットの隣に移動する。

 ネーパットは、肘掛けを頼りに、やおら立ち上がる。するとこれまでとは打って変わって、突然その右手で、素早く、それでいて力強くネーパットの頭を鷲掴みする。手からは強烈な閃光が発され、掌の中に納まるヨベクの顔からは、熱で焦げたように煙が立ち上る。

「な!てめぇ!壊したもんよこすつもりかよ!」

 サネトは、その光景を見て、ネーパットがヨベクを壊して、それを渡すことで契約を成立させようとしているのだと考えた。

「焦るなよ。わしは人間との約束は守るよ」

 ネーパットが手を離すと、ヨベクは力を失ったように、床に膝をつく。だがよく見ればその表情には、先程の閃光による焦げ目や傷痕などは見受けられなかった。

 数秒間、ヨベクの目の中には、薄い色の瞳も消え、身体も動かなかった。しかしその後、ヨベクはいきなり目に光を宿し、身体を起こした。

「さ、所有者書き換え完了だ」

「え、今のが?」

 ヨベクに何か際立った変化は見受けられない。本当にあの一瞬の出来事で、しかも妙に手荒に見えるあの行為が、所有権の書き換えだったのか、サネトは疑っていたからだ。

「はいはい。わかったよ。おいヨベク」

 それを見かねて、ネーパットがヨベクに話しかける。

「命令だ。自分の体を破壊せよ」

「な、お前!」

 サネトの心配をよそに、ヨベクはネーパットの命令に対して、一切の動きを見せなかった。

「申し訳ありません。主人である、サネト様、リャージャ様の命令無しに、自壊を行うことはできません」

「へ?」

 ヨベクは、創造主であるネーパットの言うことを拒み、主をサネトとリャージャであると言い放った。

「まだ信じられない、っていうなら、何か命令してみたらどうだい?サネトくん、リャージャくん」

 まだ戸惑っているサネトだったが、リャージャが面白がって、こう命令した。

「ヨベクー!服脱いで!」

「は!?お前何言って」

「承知しました」

 リャージャの言う通り、ヨベクはするすると自分が纏っていた衣服を脱いでいく。

「おいおい、ネーパット、あんたちょっと趣味が悪いな」

 サネトとリャージャは、そのヨベクの肢体を見て、その後ネーパットの方を見る。

「ははは、ヨベクは人間の模倣だからね。複雑な機械仕掛けだが、身体の見た目も仕組みもできる限り人間同様にしているよ。ま、身体の半分吹き飛んでも自己修復できるから、人間ではないけどね」

「つったって。使わねえもの取り付けるのは、やっぱ趣味がわりぃと思うぞ。おい、もういいよ、ヨベク。服を着な」

「かしこまりました」

 今度はサネトの命令を聞き入れ、服をさっさと身に纏っていく。

「えー、私、もうちょい見てたいけど」

「主人二人の命令の相反を確認しました。優先権を行使し、サネト様の命令に従います」

 そう言って、ヨベクはリャージャの意思を聞き入れず、服を身に纏うことを続けた。

「うん?優先権?」

「ああ、すまん。それは勝手につけた。主が二人の状態、ってのは色々都合が悪くてな。お前たちの意見が相反するときは、サネトくんを優先するようにしたよ。変えたければ、優先権を持っている方が、それを放棄すれば自動的にもう一方に移るようになってるから、二人で相談して決めな」

「ふーん。ま、そういうことならいっか」

 リャージャは、その説明を聞いて、あっさりと自分がヨベクの主としては、現状は劣位にあることを受け入れた。

 その一方で、サネトが、何かを思い出したように手を叩く。

「そうだ。ネーパット。お前に聞きたいことがある」

「おや。わしの目的の事なら、前回言った通り、次二体の魔人を倒した時に、という話だったはずだが」

「ちげーよ。ヨベクの事だ。お前、どうやってヨベクに力を与えてる?これを貰っても、今まで見せた力を使えない、ってなると流石に困るぞ」

 そう問われ、ネーパットは少し困った表情を見せた。

「うーん、そりゃわしの目的と正体に関わる問いじゃな。まぁでも安心しなよ。ヨベクは今まで通り術は使えるよ」

「そうか、わかった。おいヨベク。命令だ。お前の力は何を由来としている?」

 サネトは、ネーパットが答えを言わなかったのを見越していたかのように、すぐさま同じ質問をヨベクに投げた。

「その問いにはお答えできません」

「は」

 しかし返ってきたのは予想外の解答だった。

「おーいネーパット、お前、やっぱり嘘ついてんじゃねえだろうな」

「ははは。何度も言わせなさんな。わしはお前たちとの契約を軽んじてはおらんよ」

「じゃあ、なんで」

 サネトがネーパットに問い詰めると、ヨベクが手を挙げて、発言の許可を求める。

「なんだよ、ヨベク」

「すみません、答えられない。というのは、私にその権限がないという意味ではなく、能力がないという意味です」

「つまり、ヨベク、平たく言うと、アンタはその力の由来を知らないってこと?」

「はい」

 リャージャがサネトに代わってヨベクと対話をすると、サネトはますます機嫌を損ねた。

「てめ、この詐欺師!お前、ヨベクの記憶を消しやがったな!?」

「ははは。詐欺師は嘘をつかないもんだ。詐欺師はね、真実の裏に、真意を隠すんだよ。逞しく行きたいなら、サネトくんも身に着けることだ」

「ははは。一本取られたね。サネト」

「リャージャ、お前なぁ。他人事みたいに」

 そんな三人のやり取りを、ヨベクは遠目でじっと眺めていた。だが、その会話を聞いて、突然あることを口走った。

「サネト様、リャージャ様は、ネーパット様に関する情報をお聞きしたいのですか?」

「へ?」

 そのヨベクの言葉に、かつての主であるネーパットが、今まで聞き覚えの無い素っ頓狂な声を上げる。

「え。まさかとは思うが、ヨベク。記憶領域に残っている情報があるのか?」

「いやいや、そんなはず。わしに関する重要情報は全部消したはずだが……」

 珍しく焦るネーパットの様子を見て、サネトはここぞとばかりにヨベクに詰め寄る。

「よーし、ヨベク、記憶にあること全部教えろ」

「いえ、すみません。ネーパット様の情報は記憶領域には残っておりません」

「はい?」

 期待外れの答えがヨベクから返ってきて、サネトの表情が再び暗くなる。二転三転するサネトの表情も、相棒のリャージャはあまり見慣れぬもので、新鮮だった。

「サネト様。混乱させるようなことを申してすみません。正しくは記憶領域には残っていないのっですが、現状の情報を処理、それを演繹した結果、ネーパット様に関する情報をいくつか推定することが可能です」

「あー」

 ネーパットは、額に手を当てる。記憶さえ消せば何とかなると思っていたが、ヨベクの演繹能力を完全に過小評価していた。今まで自分の手から離したことがないせいで、どのような結果が得られるのかが、未知数な所があり、彼女は、その点まで考えが及んでいなかったのだ。

「よし、じゃあ。知ってる、いや推測したこと、あらかた教えて……」

「サネト、ちょっと」

 リャージャが、サネトが命令を出す前に制止する。

「なんだよ、お前、どうして止めるんだよ」

「馬鹿。サネトらしくない。ネーパットに情報的優位を得られる絶好の機会でしょうが」

「あ」

 珍しく、視野が狭まっているサネトを、リャージャは囁いて諫めた。ネーパットは、今ヨベクが何を気づいていて、何を気づいていないのかを把握できていない。だとすれば、リャージャの言う通り、わざわざ、ネーパットがいる、この場で、何に気づいたのかを、披露してやるのは、かなり勿体ないのだ。

「よーしわかった。じゃ、話題切り替えてだな。ネーパット、次の魔人はどこにいる、どちら様だ?」

 思わぬリャージャの忠言に助けられたサネトは、話題をがらりと切り替えて、ネーパットに次の標的を尋ねる。

「ちくしょー。できれば、次の二体を倒してから目的を知ってもらいたかったんだが……。まぁ良いさ。次の標的は、また別の大陸だ。<イパイス>大陸。そこにいる二体の魔人を狩ってきてもらう。今回はどちらも別行動。現状はね。最初の一体は大都市<トゥヴヤ>近くの巨大湖にいる魔人、『頑迷なるもの』。そして次の一体は、<イパイス>の極北、年中氷に閉ざされ、人も獣も住まぬ、<アリンフヌル・パプ>島の主、『救うもの』だ。連続して狩るのもよし。一体倒して帰ってくるもよしだ。だが一つだけ注意をしておく」

 ネーパットは一際険しい表情で、こう続けた。

「『救うもの』、あれは強敵だ。戦う前に十全の準備をすることを薦める。容赦のなさ、苛烈さは、今までの魔人の非じゃないぞ。少なくとも真正面から戦うのだけは控えるように。魔人の詳細な能力や居場所は、追って連絡する」

 ネーパットが言うと、サネトとリャージャは、ヨベクを連れて、自分たちのいる宿へ戻った。

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