疑念の積層 最終節
次の日、サネトが目を覚ますと、彼の腹部に何かが乗っていた。それはよく見ればリャージャの頭で、どうやら昨晩は、二人とも寝台の上にすら行かないまま、床で折り重なるように眠ってしまっていたらしい。サネトは自分が起き上がるには、いずれにせよリャージャを起こすことになるだろうと考え、リャージャの肩を叩く。サネトとは違い、小柄なリャージャの頭はさほど重くはなかったが、長い時間乗せていたせいか、あるいは固い床で寝ていたためか、やや足先の痺れを感じていた。
リャージャが目を覚ますと、身体をぐっと伸ばして、まだ残る眠気を追い払うように、頬をむにむにと両手で揉んでいた。サネト自身、リャージャの見目は好みではないものの、こうした所作は、小柄な体躯も相まって、小動物を見ている時のような和やかさがあり、彼にとっては年上であるが、それでも実に可愛らしいものだった。
サネトは、立ち上がり自分も体のあちこちからゴキゴキと鈍く弾けるような音をさせながら、雑魚寝で固まった体をほぐしていく。
「サネトー、腹減った。飯買ってこい」
リャージャの寝起きはあまり行儀の良いものではないことは、サネトも長い付き合いで知っていた。この状態のリャージャは、さほど聞き分けの良いものではないことも知っていたので、サネトは言われるがまま、外に軽食を買いに行った。
サネトが宿の部屋に帰ると、リャージャもすっかり目を覚ましていた。サネトの買ってきた軽食を口にしながら、昨晩しそびれた会議をすることになった。
「それで、今日の議題は何なの?」
リャージャが食事を頬張りながら、サネトにそう話しかけた。
「ああ。気になることはいくつもあるが、今回は一つだけに絞りたいと思う。以前俺たちが戦った魔人は、一体だけじゃなかった。聞いていない二体目の魔人にも襲われた。さて、このこと、ネーパットは知っていたと思うか?」
「つまり、魔人が二体いることをネーパットが私たちに黙っていたか、っていうこと?」
リャージャにとっては意外な問いだった。リャージャ自身は、ネーパットの正体や目的が、現状最も関心があり、むしろサネトに言われるまで、魔人二体を相手にしたことを忘れていた。勿論思いだせば、魔人が二体いたことで、自分もサネトも大怪我を負ったわけだから、その点を追求することは、筋の通ったことではあった。
「ネーパットが仮に知っていたのであれば、何故それを我々に伝えなかったのか?知らなかったのであれば、一体何が原因で見過ごしたのか?どっちにしても、ここには俺たちが知らないネーパットの秘密があるんじゃないか?」
リャージャは、サネトのやりたいことが何となく理解できた。ネーパットの正体や、この星の命運といった、大きな議題にいきなり取り組んでも、現状では手掛かりはない。だからこそ一つ一つ、小さな議題を扱い、そこから段階を踏んでいくことの方が、真実までの道のりを着実に進んでいくことができる。
「だが、ネーパットが仮に知っていても知っていなくても、おそらく答えは同じなんだと思う。つまりネーパットにとって不測の事態が起きているんだ。世界政府でも、竜大公でも、魔工宗匠でもない、何者かが、ネーパットの野望に介入している。仮に魔人二体の協力を知っていて、俺たちに黙っていたのなら、俺たちは黒幕をおびき寄せる餌だったんだろうな」
「ふむ。なら魔獣災害に、私たちの対応をさせようとしたのは、その黒幕の正体、もしくは居所を突き止めるためだったのかな。あの災害、不自然な発生だったし、魔人を操ることができるほどの存在なら、魔獣の発生も操れる、よね?あれだけ私たちに名前を出すなと言っておきながら、自分で世界政府の連中の前に顔を出して、釘を刺したのも、その黒幕と同時に、他の連中の相手をするのが難しい、面倒だから、とか?」
サネトはそうだろうなと、リャージャの推測を首肯し、窓の傍の壁に寄り掛かる。
「さて、それを踏まえて、今後の俺たちだ。このままネーパットに協力し続けるか、否か?」
「……」
今後ネーパットに協力し続ければ、魔獣、魔人さえも操ってみせる黒幕に命を狙われ続ける、しかも彼女はサネトらに情報を完全に開示することはなく、重大な事態に気づけぬまま窮地に追い込まれる可能性もある。更には、世界政府たちに目を付けられた以上、まともに狩人を続けることもできないだろう。莫大な報酬は魅力的だが、そもそも今となっては、その額でさえも釣り合っているのか定かでなくなってきた。
「そこで、だ。俺は今回、一つだけネーパットにある取引を持ち掛けたいと思う。しかし、この取引を成立させるには、今回の魔人二体討伐への詫びを加味しても、俺たち二人分へ支払われる報酬全てを投げ打つ必要があるかもしれない。だからリャージャ、お前にも先に了承してもらいたいんだが、どうだ?」
その後、サネトとリャージャは、その取引の詳細について語り合い、リャージャはそのサネトの提案について合意した。
サネトたちの話し合いが終わった後、彼らはネーパットの工房の元へ歩いていく。ネーパットの家の前には、まるで門番のように、機械人形のヨベクが立っていた。
「お待ちしておりました。我が主が、お二人にお話しがあるとのことです」
サネトたちは、ヨベクに連れられ、真っ直ぐ地下の隠れ家まで連れていかれる。この時、サネトとリャージャは、ネーパットへの懐疑、そしてその隠された目的への推測をしていたことから、その隠れ家の様子も、隅々まで観察し始めていた。
とはいえ、二人は魔工技術については知見が無いため、そこにある機械や内装から得られる情報は大してなく、結局わかったものといえば、部屋を出入りするときに照明が点灯する、機械の動作時に音声通知などはなく液晶に文字が投影されるといった、音の聞こえないネーパットが暮らすために適した設備である、といった程度のことであった。
二人の観察の成果が得られぬまま、彼らはネーパットの工房にまでたどり着いてしまう。工房内の様子も、やはり見慣れぬ機械が多い、音声的な応答をする装置が少ないといった、収穫の無い知見しか得られなかった。
「やぁ、色々あって大変だったね」
ネーパットが、工房の中央の大きな椅子に腰かけながら、二人を出迎えた。どこかその表情には不敵さが垣間見えた。
「ようネーパット。大変どころか、二人とも死にかけたよ」
サネトは語気を強めながら、ネーパットにそう返答した。
「まずはその話かい?てっきり、わしの目的とか、星の終焉とかが気になってるもんだと思っていたが」
「それを聞いても、お前は答えないだろ」
「まぁ、な。全貌は話せないな。だが詫びも兼ねてちょっとだけ秘密を披露しようとは思っていたんだ」
ネーパットのその提案は、サネトが想定していることではなかった。そのせいで二人は、詫びを利用した交渉が既に頓挫しそうなことを危惧してか、互いの顔を少し不安げに見つめ合う。それに気づいたネーパットが、何故二人が自分の提案に素直に喜ばないのかわからず、怪訝な表情をする。
「おや、何か、企んでいたのかな?まぁ秘密、といっても大したものではないんだ。詫びに足りるものか、一旦見てから確かめてはいかがかね?」
ネーパットはそう言いながら、席を立ち、工房の奥深くへ歩いていく。
二人も、一旦切り替えて、彼女の後についていくことにした。
工房の最奥、何もない白い壁のように見えたが、よく見れば操作盤のようなものがその無機質な壁の中に一点、張り付いていた。
「隠し扉、というやつだな」
ネーパットがそう言いながら、その操作盤に手のひらを合わせると、その操作盤の左隣の壁が機械音を立てながら、ゆっくりと開いていく。その壁は扉となって、その先には暗い廊下が伸びていたが、手前から順番に、その道を照明が照らしていく。しかしその光が照らしだしたのも、やはり無機質で装飾の一つもない、真白な壁と床だけであった。
「こりゃ、随分長そうな」
未だ照明は奥の方で点灯を続けているようだったが、既に一つ一つの照明がはっきりとは見えないほど遠くで、そのことは、この廊下の長大さを物語っていた。
「大丈夫、床が動くからね」
ネーパットは二人よりも先に廊下に立つと、突如ネーパットが足を動かしていないのにも関わらず、その体が徐々に奥へと動いていた。一件大した細工が無いように見える床だったが、どうやら移動床のように、自動的に動く仕組みのようだった。
サネトたちも恐る恐るその床に飛び乗ると、確かにその床は穏やかな一定の速度で、奥の方へ動いていた。リャージャもその後に続き、最後にヨベクが乗ると、おもむろにこの廊下の扉が自動的に閉じ始めた。
「なぁ、秘密の部屋に行くならわかるが、どうしてこんな長い廊下がいるんだ?」
「うん?いや、まぁ実は元々今から行く場所が、わしの本当の拠点なんだ。元々そっちの近くに、仮の姿の家を地上に置いてたんだけど、やむを得ない事情で、動かす必要ができてね。それで今の場所に仮の家を作って、そっちに無理やり入り口を繋げたんだ。大規模な装置で高速移動してもいいんだけど、それはそれで、音が出たり、魔力の乱れを生んだり色々弊害があるからね。ちなみに昔は自転車使っていたよ」
その説明は、納得がいくと同時に、新たな疑問を生み出した。サネトもリャージャも<ケクスペス>をそれなりに長い間滞在しているので、周囲の土地勘なども得始めていた。そして今彼らが歩いている方向が、<ケクスペス>の街の中心から外れ、砂漠の方へ向かっていることも分かっていた。もしそうだとすれば、そんな砂漠のど真ん中に仮家を作ってしまえば、隠すどころかむしろ目立ってしまうのではないか。
実際<ケクスペス>は河の流域近くに栄えた街であって、川から離れれば離れるほど人家は疎らになり、そしてある所を境に、一切の人の気配がなくなってしまう。自動床での移動は、飾りどころか継ぎ目さえ見当たらぬ壁も相まって、距離感が掴みにくくはあったが、それでも小さめに見積もっても、既にその居住可能区域の境界は突破していたように思えた。
しかし、二人は新たに芽生えた疑念をぶつけるのは一旦耐え、そのまま黙って移動する床の上に立ち続けた。
二分ほどその床に乗り続けていると、徐々に進行方向の先に、突き当りの壁が見えてきた。どうやら終着点に到着しつつあるようだ。その壁の傍では、先程入り口にあったようなものと全く同じ見た目の操作盤があり、同じようにネーパットがそれを操作すると、突き当りの壁もまた、同じように動き、その奥にある部屋が露になる。
まだぼんやりと暗闇に包まれていたが、その部屋の中では、ところどころ赤い光が壁や床などに走っていて、僅かにその室内の様子が伺えた。ネーパットたちがその部屋に足を踏み入れると、自動的に部屋に灯りがともった。その部屋は、先程皆がいた工房と同じくらいか、あるいはやや広い、といった様子だった。しかし何より目についたのは、未知の機械の数々である。確かにいつも行っていた工房でも、十分に未知の技術がふんだんに確認できた。まるで視界を覆うような、機械の林とでも形容できる、先程までいた工房に対して、今いる工房はむしろ整然とした印象を受けた。言い換えれば、さほど多くの機械が立ち並んでいたわけではなかった。
しかしそれでも、サネトたちが目の前の光景に呆気にとられたのは、この室内の機材ではなく、この工房そのものであった。壁、床、この空間を形成する全てが、未知の技術で形成されていた。見たことも無い材質で出来た、見たことも無い装置。まるで異次元にでも迷い込んだかと錯覚するほどの、異質な空間だった。物が少ないこともあって、やけに広く感じることも、その空間の異様さを際立てていた。
「これが、工房?」
巨大な機械装置は愚か、何かを加工するための作業台も無い。サネトがそう呟いても仕方のない光景だった。
「ああ、こっちは随分長い時間かけて作ったからね。向こうの即席の工房とは訳が違うのさ」
しかし座椅子さえ見当たらないというのは、工房として果たして正常に機能するものだろうか、とサネトが困惑していると、ネーパットが何か手を動かした。するとそれを合図にするかのように、何もなかったネーパットの足元から、床がせり上がり、それは背もたれと肘掛けまで完備された、椅子の形状に変形した。
ネーパットはその突如出来上がった椅子に座る。
「わしも年だからね、勘弁してくれ。二人も椅子が欲しいかい?」
ネーパットの問いに対して、サネトとリャージャも少しためらいがちに首を縦に振る。
再びネーパットが先ほどと同じ身振りをすると、同じように二人の足元から椅子が生えてくる。
「これはどういう仕組みだ」
「わしの作業は、全て専門的な工具が必要でなぁ。一々それを作っていたら、どんだけ場所を取っても足りぬじゃろ?だが、設計図を打ち込めば、思い通りの機器に変形する、そんな機械が一つあれば、あらゆる作業に対応ができると思ってな。それで作ったのがこの工房じゃよ。あと、わしは音声言語より手話の方が楽だからな。この部屋は全方位から動きを感知する装置が取り付けられておる。これで手話でも機械に指示を出せるようにしたというわけじゃな」
サネトは、世界政府の本部が置かれている都市<ヒュテヴ>のことを、この部屋を見て思い出した。その都市は、全てが機械によって統御された、計画都市であり、交通、経済、商業、娯楽、学芸、全ての側面において人々を円滑に支援している。また体躯や感覚が個体ごとに大きく異なる遷者の暮らしにも、考えられる限りの手を尽くしたことでも著名である。元々何もない渇いた地域に、世界政府が生み出した、『知恵の城市』である。
だが、この部屋は、それを遥かに上回る。考えてみれば、以前目にした『変質』の魔工宗匠、アテセルが使っていた万能金属のそれにも技術は似ている。恐らく動力となっている魔力さえあれば、あらゆるものを生みだせ、しかも全てが再利用可能の空間。もしそんな技術が、世界政府の手に渡れば、間違いなく様々な問題を解決しうる可能性を秘めている。
サネトは、そんなことを、自分の足元にある椅子を眺めながら、心の中で思っていた。
「おや、座らないのかい?」
「いや、ありがたく」
思索にふけるのを一旦やめ、彼はその椅子に腰かけた。
「さて、ここがわしの本当の工房なわけじゃが、普段はあまりここを使うことはない。だがあるものを作る際には、ここでだけ作業を進めているわけだ」
ネーパットが再び手を動かす。先ほどとは違う動きに見えたが、やはり二人にはその意味は定かではない。
同じように床から何かがせり上がってくるが、その形状は椅子とは少し違うものであった。直方体の形状の土台の上に、ガラスのように半透明の素材に覆われた箱が五つ並んでいる。そしてその箱の中には、紫色の、怪しい光を発する物質が入っていた。その物質に二人は見覚えがあった。
「そう、ここは魔人の心臓を加工し、わしの最高傑作を生みだすための場所さ。つまりわしの計画の核心。ここを突き止められ、破壊でもされれば、もう計画はご破算だ」
「私たちが、もし世界政府に寝返れば、いつでもあなたを止められる、ってわけ?」
その通り、とネーパットは手を動かして返事をする。手話に疎い二人だが、その意味だけはよく理解できた。
「問題はもう世界政府だけじゃなくなってしもてのぉ。今回の魔獣災害、二体の魔人の襲来、どちらも想定外じゃった。わしとしては、二人に疑われたまま、世界政府まで相手取るのははっきり言って不可能ではなくとも面倒。だからわしのしていることの邪魔はされたくない。そこで、今回の詫びと、信頼回復も兼ねて、二人には、こっちじゃなくて、表の工房に自由に入る権限を渡そうと思う。君たちの武器は自由にそこで改良してくれて構わない。機械やヨベクに指示を出せば、思う通りの改造を施してくれるじゃろう」
「待った、それだと、これからは勝手に改造をやっていいのか?」
それに対してネーパットは、どこか気まずそうな顔を見せた。
「えーっとな。言いづらいんじゃが、実はサネトとリャージャ、二人に金銭の形で報酬を支払えなくなった」
「は?」
サネトとリャージャが驚きのあまり席を立った。
「わかっとるわかっとる。説明させとくれ。今までは二人の銀行口座に、不審な動きをしないように、偽装することができた。けど、それは君たちが協力者とバレていなかった頃の話なんだ。今となっては、二人の口座はかなりがちがちに監視されておる。それでも奴らに察せぬよう金を振り込むことはできるにはできるんじゃが……。まぁ、開戦事由を奴らに与えたくないんだよ」
「おい、じゃあ、報酬支払わない代わりに、工房出入り自由にする、ってか?」
「うーむ。まぁ納得いかんよなぁ。わかる、わかる。そこでどうじゃ。何か欲しいものを言うてみい。売れば億くらいは稼げるだろう、高性能な機械を作ってやる。昔懐かしの、物々交換だ」
その提案に、サネトとリャージャの目つきが変わった。二人が、ネーパットに持ち掛けようとしていた取引が、まさに『あるもの』をネーパットに要求しようと思っていたためだ。
「わかった。じゃあ俺たちが欲しいものは一つだ。ヨベク、あの機械人形の所有権を俺たちにくれ」
その要求はネーパットにとって、少し予想外のものであったのか、彼女は少しだけ眉をひそめた。
「……おいおい。このヨベク、一億テレムどころの代物じゃないぞ?値を付けるなら百億はくだらん……。うーん。そうさなぁ。いや、まぁ、良いかなぁ?どうかなぁ……」
その後も、ネーパットは突然独り言のように、小さな声でぶつぶつと逡巡の声を発していた。
「うーん。わかった。じゃあ次の二体の魔人を倒したら、ヨベクの所有権を渡そう。あとそれなら、工房での改良は制限付きにしてもいいかね?」
「あ、ああ。いや、構わないが……いいのか?」
サネトは、むしろ、今回<アーヴェ>で狩った二体の魔人、そして次の魔人の報酬全てを諦めるつもりでもあったが、ネーパットは思ったよりも譲歩をしたので驚いていた。
「それに、そうだな。残る魔人の数も伝えておこう」
そう言いながらネーパットは右手の親指と人差し指、そして中指だけを立てた。
「この星に現存する残りの魔人は七体。そしてこれまでの五体を合わせた合計十二体。これがわしの目標だ。次の二体の魔人でヨベクの所有権、そしてその後の二体まで倒してくれれば、わしの目的を君たちに教えよう」
「どうして、突然そこまで誠実に?」
リャージャは、突如秘密主義のネーパットが、気前よく色々と渡してくれるものだから、その裏にある狙いを勘繰っていた。
「意外と簡単な話だよ。詳細はまだ言えんが、魔人が残り三体になった時点で、わしの計画を生かすも殺すも、サネトくん、そしてリャージャくん、二人次第だからだ」
「……どういうことだ」
「仔細は言えないと言っただろ?理由は聞くな。だがもし君たちが降りる、そう言えば、わしはもうどうすることもできんのだ。そして、わしの計画には魔人の心臓十二個が不可欠。一つでも足りねば、結局終わりなんだ。だから、残り三体を残した時点で、君たちに判断してもらえばいい。<紅玉星>は本当に危機に瀕しているのか、そして、わしの計画が本当にこの星を救済するものか、否かを」
ネーパットが与えた選択肢は、サネトとリャージャの心に重くのしかかった。星の命運が彼らにかかっていると思うと、流石の二人にも、荷が重かった。
「で、次の魔人は、どこにいるんだ?」
しかしサネトは、その将来の不安については、一旦見送った。現実から目を背けた、というわけではなく、大きな困難は細かく切り分けて解決していくという、彼らしい対処法だった。
「<アーヴェ>の魔人は以前の二体だけ。次は新たな大陸だ。いや、列島だな。<ヌズ>列島、そこに二体の魔人がいる。『力強きもの』、そして『硬骨なるもの』。先日までは、二体は分かれて活動していたが、君たちの<アーヴェ>での活躍と同時に合流し……どうした?」
そう言いかけて、ネーパットはサネトの表情の変化に気づいた。先ほど意識を切り替えたかと思ったサネトの表情が、再び何かを思いつめたように強張っていた。
「どうしたの?」
隣のリャージャが、サネトにそう問いかける。すると自分の顔の強張りに気づいたサネトは、まるで自分に喝を入れるように、頬を二回両手で軽く叩いた。
「すまん。何でもないんだ。分かった、<ヌズ>だな?やってやるさ。まずはヨベクの件、約束守れよ、ネーパット」
「あ、ああ」
リャージャは、サネトの顔に、思い当たる節があった。思い返せば、これまで彼の相棒として狩人をしてきたが、何故か<ヌズ>列島での魔獣討伐にだけは、手を出してこなかった。元々<エフゼクト>中心に活動していたこともあるが、一度、明らかに<ヌズ>列島での割のいい魔獣討伐に対して、サネトが難色を示したことを思い出したのだ。
しかし結局、その時も、そして今回も、リャージャがサネトに対して、その理由を問いただすことはできなかった。




