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疑念の積層 第三節

「あら~?結構力抜いたと思ったんだけど、これでも加減足りなかったかなぁ?」

 浮遊する巨大な鉄腕は、レアケの右腕に併せて、器用に動いていた。

「……いえ、レアケ、貴方の計算は反対方向に間違っていますよ。足りなかったのは加減ではなかったようです」

 煽るように、竜因のクスベムがそう言うと、レアケは自分の背後の様子を確かめるべく、振り返った。

 驚くことに、あの巨大魔獣は、あの強烈なレアケの一撃を耐えきっており、既に立ち上がって、こちらに向かって再度突進を試みていた。

「ふん。気に入らない」

 レアケは、愛らしい表情を崩して、その右腕を再度操作、突進してくる魔獣を子犬のように、その巨大な機械腕で大地に抑え込んだ。ラーヤのアイントヴェークですら、多少の力みが必要だったのに対して、レアケの機械腕はあっさりと魔獣の首根っこを掴み、それを軽々と持ち上げてしまう。

「ねー、クヴェユヴェクちゃん、これ、変な魔獣だね」

 持ち上げられてバタバタと足を動かすその巨大魔獣を、レアケは冷静に眺めた。まるで昆虫観察のようでさえあった。

「ええ、レアケ。魔獣の共食い、融合は珍しいものではないけど、あれほどの大規模、しかも皆が意思を一つにしたような合体は私も見たこと無い。それに、この魔獣にしても、魔力を使いすぎだ。生存本能以上に闘争心が高すぎる」

「ふーん。じゃあ、ほっといても魔力不足で消えちゃう、ってことかな?」

「そうだと思う」

 あれほど過酷な戦場が、レアケの介入一つで、途端に実験室に変わってしまった。

「珍しい現象、だけど、この魔獣を観察しても、得られるものはなさそう。そうでしょ?ヨベクちゃん?」

 次にレアケが声をかけたのは、驚くことに、今の今まで大魔獣に一切の関心を寄せず、周囲の観察だけをし続けていたヨベクだった。

「……」

「おや、黙っちゃった。おしゃべりしたかったのに。まぁ、でも今のが答え合わせみたいなもんだよね?」

 そう言って、レアケは再び機械腕を操作すると、魔獣を一旦大地に強く叩きつけたあと、軽々と大地に放り投げた。

「じゃあ、さっさと倒しちゃおうか」

 レアケは、機械腕で、何度も魔獣の肉体を叩きつける。魔獣は最早成す術も無く、ただ振り回され続けていた。しかしその頑丈な甲殻が幸いして、いやこの場合は災いしてか、魔獣は何度衝撃を加えられても、事切れる様子は無かった。

「やれやれ、レアケ。余裕を見せて倒しきれないのが一番みっともないぞ。貴方はそのまま抑えてなさい」

 そう言って、前へ出たのは、竜因の長、ラフグアであった。

「<竜の顎《テシイ・ジャファー》」

 今まで翼を模していた竜の剣は、姿を変えて、今度は牙のような突起が複数生え揃った鋸のような、あるいは竜の上顎のような形状へ変化した。

「お、おい、一人で大丈夫か?」

 思わずサネトが、ラフグアの後ろをついていこうとするが、それをいつの間にか狩人の一向に加わっていたユーボスが制止した。

「うちの長を見くびってるのか?」

「いや、そうじゃなくてだな」

 サネトは、勿論竜因の長を見くびっているわけではない。レアケに好き勝手遊ばれているとはいえ、あれほどの猛攻でさえも、多少甲殻にヒビが入った程度の魔獣の頑強さを前には、ただの一人では物足りないだろうと推測したのだ。

「わかるよ。だがなぁ。今の私たちじゃ、力を合わせてもラフグアの全力にようやく匹敵できる、ってところじゃぞ」

「は?」

 サネトは、ユーボスの言っている意味が、全く理解できなかった。ここまで力能の魔工宗匠のテテンの主砲や、魔導の宗匠クヴェユヴェクの魔剣の一撃、他にも竜因たちの攻撃を目にしてきたために、いくらなんでもユーボスの言葉は信じられなかった。

「ははは、まあ信じられんわな。お前さん、紫竜が、何故赤竜に並んで最強の竜と言われるか、わかるか?」

「え、えっと」

 突然の問いかけに、サネトはただ困惑するだけだった。

 直後、サネトは、前方の大魔獣の方で生じた、爆発音によって、再び前を向いた。

 ラフグアの手に持っていた『竜の顎』が、赤黒い稲妻を放ちながら、レアケに取り押さえられていた大魔獣の首を切り裂いていた。あれほどの頑強な甲殻を、いともたやすく一撃で破壊していた。

「私たち竜因も含め、魔術というのは、魔力を燃料にして、火を付けたり、水を作ったりしているだけだろ?」

 再びユーボスが口を開いて、解説を続けた。

「だが紫竜だけは違う。魔力そのものを操る。物質や力能は、どれだけ強くても、それを魔力から変換する際に失うものが多い。複雑なものになればなるほど、消費する魔力に対して、実際の出力は低下していくのは、変換の際にそれだけ魔力を失っているから」

 ユーボスの言葉は、魔術を嗜んだ者であれば、子どもでも知っているような常識だ。だが、その言葉は、何よりもラフグアの力の真理を物語っていた。

「つまり、魔力そのものを破壊力にする。純粋な魔力そのものの強さを自在に操る、それこそ紫竜が最強の竜と言われる所以であり、ラフグアの強さだと」

 サネトが、そう呟くと、ユーボスは鼻で少し笑う。

「ふむ。それもある。確かに紫竜だからラフグアは強い。だが、単にそれだけでは、我々自我の強い竜たちを束ねたりはできんよ」

「え?」

 そのやりとりをよそに、レアケ、ラフグアと、大魔獣の戦いは次の局面を迎えていた。魔獣の首は、完全に切り裂かれていたが、しかし魔獣はまだ活動限界を迎えていなかった。核となる魔獣の心臓が失われていないためだった。しかも首を失ったことで、レアケの巨腕が、掴んでいた魔獣のとっかかりを失い、そこからするりと魔獣は抜け出してしまった。

「は、ラフグアちゃんも、そう言いながら、本気を出さないから倒しきれてないじゃーん!」

 レアケが頬を膨らませて、ラフグアに文句を垂れる。

 そしてそのやりとりを遠くから聞いていたサネトは、再び驚愕する。

「『竜の顎』って、確か、竜因の術じゃ最大の術の筈だよな?」

 竜因にさほど詳しくない、サネトの持っている知識では、竜因術は、最初が『竜の尾』、次が『竜の翼』、そして最後が『竜の顎』だということ。それはおおむね正しい。

「あってるよ。実際若いバウカやルセッタは顎まで使えないからの。顎を使えるのは竜因の中でも一握りの、熟練者に限られる」

「じゃあ」

「だがな、それは現代の竜因の中では、の話だ。新星界以降、竜因は常に第七世代竜因だ。そして竜因術、というのは第七世代のみが使う術。竜の力を使いこなしきれない我々新世代が、段階的に竜を解放していくために編み出した、妥協案に過ぎないのだよ」

 ユーボスがそう説明していると、大魔獣は体を起こして、もう突き立てる角も無いのに、再びラフグアの方に突撃する。

「ふん、別に一太刀で仕留める必要はないだけだ」

 ラフグアは、大上段に『竜の顎』を構えると、それを真っ直ぐ振り下ろす。竜の牙は、容易く突撃してくる魔獣を上から下に切り裂いた。今度は魔獣の心臓も破壊することができたようで、魔獣はすぐに霧散していった。

「あれは、有史、少なくとも第三次文明崩壊以降、初めて確認された第六世代竜因の覚醒者。私たち第七世代が秘奥だ、極致だと信じてきた『竜の顎』さえも、ラフグアにとって全力の半分、いや、せいぜい三割程度にしか過ぎない、文字通り、我々現代の竜因の頂点なんじゃよ」

 サネトは、ユーボスに言葉を返すことができなかった。魔人狩りを成功させてきたことで、自分は少なくとも常人を超えた、狩人の中でも五本の指に入る存在だと思っていた。彼の認識は実際正しい。魔人狩りは例え竜因や魔工宗匠でも容易くこなせるものではない。

 だが、魔工宗匠の長レアケと、竜因の長ラフグアの計り知れない強さを前にして、サネトは今の彼でさえも、この星の狩人で一番ではないことを否応なく再認識させられたのだ。

「そして、忘れるな。お前さんの背後にいる、あのネーパットは、そんなうちの長や、魔工の長でさえも、全容を掴みかねているほどの存在。お前さんが足を踏み入れた領域は、そういうところだ。年寄りからの忠言じゃ。そういう化け物は、俗人の善とか悪とか、一切通用せんぞ。悪いことは言わんから、いち早く縁を切った方がええ」

 そう言って、ユーボスは、サネトの元から去り、ラフグアの方へ、他の竜因を連れて歩いていった。

 残されたサネトの脳裏には、彼女のその忠告が、それからしばらくたっても反響し続けた。




 戦いを終えた、狩人たちは、戦場より最も近い都市、竜因たちの溜まり場でもある<メプケ>へと向かった。<メプケ>は、<アーヴェ>大陸第二の都市だが、観光向けな<ヴェペド・ヴェムン>とは違い、最大人口を持つこの都市は、街並みの華やかさというよりも、人々の活気で溢れていた。

 サネトは、もう一つ、<メプケ>と<ヴェペド・ヴェムン>の違いに、皆で歩いているとすぐに気づいた。それは人々の視線である。この街の人々もまた、<ヴェペド・ヴェムン>同様、竜因たちに強い関心を寄せ、通りかかる度に注目を集めている。しかし、<ヴェペド・ヴェムン>とは異なり、その視線には敵意や軽蔑は感じられなかった。むしろ興味、あるいは好意のようなものが感じられた。

 サネトは、<ヴェペド・ヴェムン>での喫茶店の店員の一言を思い出した。「<メプケ>では竜因は貴族気取り」、この噂は、やや偏向しているとはいえ、おそらくおおむね正しいのだろう。この街では、竜因たちは、人々に受け入れられ、ある程度気にせずに暮らせていることが、人々の様子からも伺えた。

 サネトとリャージャ、ヨベクは、竜因と魔工宗匠たちに連れられ、ある大きな建物のもとへと入っていった。最初サネトは、ヨベクに、このまま皆についていっていいのかと、耳打ちをするが、ヨベクはその首を縦に振った。

「ここは、私たちの宿だが、実質拠点代わりだ。私たちの家に来たと思って、くつろいでくれ」

 その建物の中は従業員こそ目についたが、他の客は一人とも見当たらない。一見すれば宿というよりも、高級な高層住宅といった様子だった。一階は玄関ホールとなっており、受付を皆で通り過ぎると、両翼に伸びた、仰々しい豪華な階段を上っていくと、二階にも、まだ客室のようなものは見当たらず、大きな扉がいくつかあった。

 その一つを開けてくぐると、その先には数多くの長机と椅子が、規則正しく配列されていた。見た目だけでも、ここが大きな食堂であることがすぐにわかった。

「さて、まだ食事時ではないので、晩餐は出ないが、適当な席にかけてくれたまえ」

 ラフグアの言葉通り、全員が、好きな座席に腰かけた。

 すると、それを合図とするように、食堂の前方、入口の対面の壁にかかった液晶画面が灯った。そこでは、一人の男性が映像で映ってきた。

「お初にお目にかかります。私が依然連絡をさせてもらったクトゥンです。よろしくお願いします」

 その丁寧な口調には、この場にいる者は皆聞き覚えがあった。

「これ、こっちからの声は聞こえてるのか?」

「ええ、勿論。これは双方向の通信で、映像も音声も見えております。お顔は初めて拝見しますね。貴方が、サネトさん、そしてお隣が、リャージャさん、ですね?そして、その後ろに立っていらっしゃるのは?」

 クトゥンがそう言うと、皆の視線が、サネトとリャージャの背後に行った。ヨベクは、竜因たち、魔工宗匠たちにとっても初めて見かける人物である一方で、その情報は全くといっていいほどわかっていないからだ。

「私はヨベク、と申します」

「ヨベクさん、貴方はお二人とは長いので?」

「いえ、私がお二人と知り合ったのは、つい四十日ほど前のことです」

 クトゥンは、その返事で少し表情を変えた。というのも、彼もまた、魔人狩りが始まったのは大体その辺りからだと推測していたからだ。つまり、ヨベクは、その背後にいるネーパットと関わりのある人物の可能性が高い。そのことから、彼は目の色を変えて、こう問いかけた。

「単刀直入に申します。ヨベクさんと、あのネーパットなる人物の関係は?」

「ネーパット様は私の主人であり、私、ヨベクの設計者にして創造主です」

 その答えに対して、この場に居合わせた者たちが、全く異なる反応を見せた。

 サネトとリャージャは、そんなに容易く真実を答えるのかと戸惑い、

 竜大公たちは、ヨベクが人間ではなく精巧な機械人形だということを知って驚き、

 魔工宗匠たちは、やっぱりそうか、と納得したような顔をしていた。

「ほう。では、今回はネーパットさんとの通信を、ヨベクさんが繋いでくださるので?」

「いいえ。我が主は音声言語の会話を嫌います。代わりに私が主の代弁をさせていただきます」

 サネトとリャージャは、いつも特に差し障りなくネーパットが音声言語の会話をしているのを見ていたので、そのヨベクの答えに少し違和感を覚えた。いつも実はネーパットが我慢していたのか、それとも今回は通話するのが単に面倒だったので言い訳しただけなのか。いずれにせよ、ネーパットが、自分たち以外に見せる敵意のある振舞は、二人にとって少し意外だった。

「承知しました。ではこれからヨベクさんの発する言葉は、主の言葉のそれと捉えて構わないね?」

「はい」

 すると、クトゥンは俯いて何かを考え始めた。数秒の間、奇妙な沈黙が訪れたが、その後、クトゥンが再び口を開いた。

「では、まず、どうして、素直にここに連れてこられたのですか?いつでも逃げられたでしょう?」

「はい。我々はいつでも抜け出すことはできました。しかしネーパット様は皆さまにお伝えしたいことがあり、良い機会だからと考え、この場を利用させていただいたのです」

「ほう、伝えたいこと?」

「世界政府、竜大公、魔工宗匠の皆様に、ネーパット様から伝言です。『我らの行いは、この星の未来のため。だから我らの邪魔をするな』。以上です」

 ヨベクの言葉は、あまりに短く、それでいて簡潔だった。しかしその単純さが、むしろこの場にいる人々を困惑させた。

「それ、だけですか?」

「はい」

「……何が、星のため、になるのですか?魔人狩りが、一体どんな結果をもたらすとお考えで?」

 ここで初めて、竜因たちは、サネトたちがしていることが、魔人狩りであることを知った。驚きこそしたが、サネト、リャージャ、ヨベクの力を目にした後なので、決して嘘だとも思えなかった。

「申し訳ありませんが、それはお答えできません」

「守秘義務だと?」

「いいえ、私も知らぬのです。ネーパット様のみが、この戦いの真の目的、計画を知っています」

「知らぬのに、それがこの星のためだとどうしてわかるのですか?」

「それは、この星が、もう長くはないことは確かだからです」

 それを聞いた一同はざわつき始めた。

「……何を、仰っておられるのか?」

 画面の向こうのクトゥンは、驚いた様子は無く、淡々と感情を押し殺して、そう述べた。

「何とでも。我が主、そして我々は、この星を終焉から救うこと、その命を長らえさせることを目的としております。その手法は決して私のような些末なものには知らされてはおりませぬが、我々の行いが、この星に害をなすものではないことは確かです」

「それを我らに信じよと。貴方たちの行いが、この星のためだと。その手段も、素性も明かさぬものの言葉を、どうして信じられようか」

「少なくとも、この星の滅びの道を知っていてなお、民に知らせずに沈黙を続ける、世界政府の皆さまよりは、ネーパット様の方がいくらか誠実かと思いますが」

 ヨベクの言葉で、一同の視線は、画面に映るクトゥンへと移った。

「……」

 ここまで感情を押し殺していた、クトゥンが初めて、目を見開いた。その表情は、何よりもヨベクの言葉の確かさを物語っていた。

「あーあ。クトゥンの若造が。お前は政治家向きじゃねえな、やっぱり」

 今まで聞いたことの無い声色が、緊張感の満たされた食堂に響き渡った。

 その声の方向を見やると、そこには、可愛げなど捨て去り、座椅子にふんぞり返った魔工宗匠の長、レアケの姿があった。

「まさか、貴方も」

 ラフグアの問いに、レアケは、挑発的な笑みで答える。

「クトゥンと私の共同研究、といったところかね。だが悪いが、まだ仔細は言えねぇ。それに星の滅びは、このヨベクとやらが予言するような、確かなものじゃねぇ。避けられるものだ。殊更に不安を煽るのは、扇動者、詭弁家の策だろうよ」

「ええ。避けられるもの。それは確かでしょう。ですが、その策、貴方たちにあると?よもや、人々に魔力資源不足を訴え、節約するように触れを出すだけで解決できるとは、思っていないでしょう?」

 このヨベクの一言にも、レアケは不敵な表情を崩すことは無かった。

「さて、先程も述べた通り、これで大方、我が主より託された、お伝えしたいことは伝えきりました。もしそれでもご理解いただけず、邪魔をするようであるなら、世界政府の根幹を崩壊させることも厭わないつもりです」

「馬鹿な、そんなことをすれば、この星に混乱が訪れます」

「ええ、ですが、我が主は、それも承知の上。むしろ混沌に足を踏み入れてくれた方が、我々も動きやすくなる。我々にとって、政治的組織の交替によって生じる内乱は取るに足らぬもの。星の生存に比すれば、その程度、些事に過ぎません」

「なら、とっとと、その『些事』を実行したらどうだ?動きやすくなるんだろ?星を救うのにさぞお忙しいネーパット様に、不要な諍いに手間取っている暇はないだろ?」

 レアケの悪態に対して、ヨベクはあくまで機械的にこう返した。

「はい。ネーパット様はいつでもそれを行うことができます。ですが、あのお方は大変情け深い。ですから、不要な犠牲が出ることを望んでおりません。ですから、どうか、邪魔をしないでいただきたい」

 相変わらずヨベクの物言いには感情が乗っていなかったが、しかし奇妙なことに、そのヨベクの機械の表情に、隣で見ていたサネトとリャージャには、ネーパットのそれが一瞬重なって見えた。

「忘れてもらっては困る。そもそも貴方たちの行いは、犯罪行為だ。それに加え、ネーパットとやらが、我々の金融機能に介入し、不当に財産を得ていること、気づいていないと思っているのか?」

「……仕方ありませんね。どうやら立場がまだおわかりでないようです」

「なに?」

 珍しく高圧的なクトゥンに対して、ヨベクは嘆息のようなものをついた。機械人形にもかかわらず、どこか失意のようなものも感じられる雰囲気を醸し出していた。

『二つ目の理由、それは貴方たち三人が倒したという、<玄黄星>を滅ぼそうとした魔人に関することです』

 突如、今までクトゥンの姿を映していた液晶に、全く異なる映像と音声が入り込む。そこに移されていたのは、会議室のような場所を定点で撮影している映像で、そこには四人の人物の姿があった。

 そして映像が映り込んだと同時に、流れてきた音声、そこにいた人物の姿、それはどちらもクトゥンのものだった。

『貴方たちの星のアムゥという宰相が、その後どのようなことをしでかすのか、心配だったわけです。勿論神の門開放後は、全ての機械を撤収させています。信用はできないかもしれませんが……』

『……それで知ったんですね。宰相アムゥが魔人で、星を滅ぼさんとしていて、それを我々が阻止したことを』

 次々と流れてくる、クトゥンと見知らぬ三人のやり取り。サネトとリャージャは、聞き覚えのある対話だった。<玄黄星>の小国の政治家と、クトゥンの「星と人類に牙をむいた魔人と、それを討伐した経緯」に関する会話である。

「なんですか、これは」

「はい。こちらは<玄黄星>の国、<ドゥスエンティ>の政治的代表、タナーシャ様と、こちらのクトゥン様の会話です」

「そんなことを、聞いているんじゃない!クトゥン殿!なんだ!魔人が、人を襲ったとは!?星を滅ぼさんとしたとは!?」

 声を荒げ、クトゥンに問い詰めるラフグア。それと同時に、先程の映像は消え、元のクトゥンとの通話のものへ切り替わった。

「こ、これは……」

「……ちっ」

 まごつくクトゥンに対して、舌打ちをするレアケ。

「レアケ、貴方もです。何か知っているのですね?説明しなさい!」

「悪いが、これ以上はこの場で話すことはできん」

「なんだと?貴方!」

 ぶっきらぼうに、断るレアケに、ラフグアは更に怒りを募らせる。

「わかったでしょう。彼ら、世界政府と魔工宗匠もまた、我々の魔人狩りを糾弾しておきながら、魔人に関する情報を隠している。一体、何を企んでいらっしゃるのか。ええ、勿論、我が主人にかかれば瞬時に明るみに出てしまいますが」

 その脅しに、クトゥンもレアケも押し黙ってしまう。その様子は、ますます周りの者たち、とりわけ竜大公たちを困惑させた。

「……さて、これでもう、我々の用事は済みました。あとはもう、おわかりですね?くれぐれも我々の邪魔はしないよう。よろしくお願いします」

 そう言って、ヨベクは、有無を言わさず、そそくさと食堂を後にした。サネトとリャージャは、ヨベクの雰囲気に戸惑いつつ、席から立って、ヨベクの後をついていった。



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