疑念の積層 第二節
「こちら、セスケト!目標射程圏内、攻撃開始します!」
『了解』
セスケトがそう合図をすると、宗匠たちから一様に了承の返事が返ってくる。
「お三方、一旦大火力で、一帯を吹き飛ばして降りる場所作るので、その後は好きに飛び降りて戦ってくださいな!」
セスケトが後ろの三人にそう声をかけたら、すぐさまけたたましい爆音と、激しい閃光が目の前を飛び交った。それはテテンの重戦車主砲から発せられた大火力の砲撃だった。それによって、火口湖でびっしり蠢いていた魔獣の一部が、跡形もなく消え去り、元々の山肌が露になる。
「今のがそうです!皆あそこに行って陣を固めるので、皆さんもあの場所に降りれば、我々の攻撃に巻き込まれませんよー!」
そうは言っても、あれほどの爆発を見た後だと、少し飛び降りるのに勇気が必要だった。だが、サネトとリャージャは、一瞬の逡巡の後、搭乗口の傍に立って、下を覗き込んだ。セスケトはどうやら、先程の爆心地上空をきちんと滞空してくれたため、飛び降りるには絶好の時宜だった。
二人は、互いの顔を一度見合わせた後、息を合わせて、下に飛び降りる。常人なら怪我では済まない高さだが、サネトは身体強化の魔術、そしてリャージャは持ち前の竜因由来の魔力で無傷で着地した。ヨベクは何らかの飛行機能を駆使して、二人の後を追って、降り立った。すぐさま獲物を目の前にして、津波のような魔獣の群れがサネトらへ襲い掛かる。決して危険度の高い魔獣が多くいたわけではないが、我先に狂乱した様子で走り込んでくる大量の魔獣は、歴戦の二人でも恐ろしく思うほどであった。だが、そんな魔獣の群れの進行を阻止するように、金属の塊のようなものが、拘束で横切った。魔獣を粉々にしながら、その塊は魔獣の最前線を切り裂き続けた。
その塊は一周、ぐるりと回転した後、上空へと飛んでいく。その先にあったのは、先程サネトらを降ろしたセスケトの飛空艇だった。金属の塊と思っていたものは、高速回転する円盤上の物体で、それはセスケトの飛空艇の下部に独りでに戻っていった。そしてサネトらの周りに、魔工宗匠たちそれぞれの兵器が舞い降りる。
「さてサネトさん、リャージャさん、申し訳ないんですが、私たちが前線を広げていくので、脇からすり抜けようとしてくる奴らを倒してもらってもいいですか?」
セスケトが飛空艇から顔を出し、下にいる二人に声をかける。サネトは指を立てて、了解の合図を送った。
「では……って、うおっと」
魔工たちが、前に出ようとすると、上から突如、強大な魔力を伴った物体が、複数落下してきた。それは、一つ一つが先程のテテンの重砲に勝るとも劣らぬほどの衝撃を放っていた。
「あの、竜大公さんたち、何か、苛立っている、ように見えますが、サネトさん、何か、しました?」
サネトの隣に二輪車を付けたアテセルが、二人にそう問いかける。
「あははは。なんでだろうな」
竜因たちの怒りに思い当たる節のあるサネトは、棒読みで、白を切る。
「竜因たち、世界政府より竜の力の解放許可が下りました。存分に暴れまわりなさい。抜剣!」
竜因の長の号令と共に、竜因六人の身体から爆発的な魔力が迸る。
「<竜の翼《テシイ・ファーユ》>!」
六人が同じ魔術を唱えると、全員の手に大きな剣が現れた。いずれも形状も色も異なっているが、全て一様に、竜の翼を模した姿をしていた。竜因たちは、その剣をもって、戦場に舞い降りる。
優美にも思える光景ではあったが、しかしその直後、けたたましい爆音と共に、竜因たちは魔獣の群れの一部が消し飛んだ。
<ウッティン・シュビ>山脈の麓に集まった狩人たちは、皆、山頂から響き渡る爆発音を聞いて、一様にこう感じたという。
「戦争でも起きているのか」
激しい閃光、大地を揺らす爆音、魔獣災害発生地から、随分と離れた場所にいてなお届く、それらの音と光は、その戦いの激しさを明瞭に物語っていた。それを見て、その山頂付近に近寄ろうとする者はいなかった。それを聞いて、戦いに勇んで参加しようと思う者はいなかった。結果、この歴史上類を見ない大魔獣災害の中心地には、七名の魔工宗匠、六名の竜因を除いて、参加した狩人は、僅か二名だった。
サネトは、既に第三段階の加速魔術を使って、その戦場を駆け回っていた。周囲からは魔獣の唸り声、爆発音が鳴り響いていたが、彼の意識はそれに振り回されることなく、極めて冴えわたっていた。
身体の半分を吹き飛ばされた魔獣が、サネトに向かって牙と爪を立て襲い掛かる。死角からの一撃であったが、サネトは瞬時に反応、彼は体を捻って爪を躱すと、即座に手にしていた双銃を魔獣の喉元に突き立て、二発ほど撃ち込んだ。
その魔獣は核を打ち抜かれ、事切れたように、霧散していくが、その背後から更に数十体の魔獣が走り込んでくる。サネトはそれらの魔獣の群れを、双銃を組み合わせて剣形態にして迎え撃とうとするが、その軍勢は上から降り注いだ火の雨によって、跡形もなく消え去った。
テテンの装甲車の副砲から放たれた弾道弾だったが、その威力は近くで見たサネトにとっては、凄まじい破壊力だった。だが、魔獣は、その火炎を前にしても恐れすら抱かぬ存在、従ってサネトもまた、その炎の壁の向こうから既に迫りつつある次の脅威を迎え撃つ準備をした。
サネトは炎の道を、常人を上回る移動速度で走り出す。一体、二体、次々と視界に現れる魔物たちをその魔力の刃で切り裂いていく。そんなサネトの高速移動に、追いつく存在があった。魔獣ではない、銀色の鈍い光を発する車体を持つ二輪車、アテセルの駆る魔導兵器だった。
「サネトさん、私たちの、改良した、武器、とても調子が、良さそうですね」
「ああ、ありがとよ。良い出来だ」
魔獣たちを、サネトは斬りながら、アテセルは轢きながら、高速移動中に会話を始めた。
「ところで、他の連中は随分物騒な兵器を使ってるが、アンタは結構洗練されたものを使うんだな。けど、兵器、ってよりは、タダの乗り物って感じもするが」
「そう、ですか。でも、これは、ただの一形態、です」
サネトの頭に疑問符が浮かんでいると、突如目の前から巨大な魔獣が襲い掛かってくる。他の魔獣たちより一回りも二回りも大きなその魔獣は、すでにサネトら目掛けて大きな拳を振り上げていた。サネトはそれを躱そうとするが、しかし突如彼の頭上を、更に別の巨大何かが覆い隠した。
「だから、こういう、使い方も、ある」
いつの間にか隣のアテセルが、乗りこなしていた二輪車は姿を消しており、その代わりに、アテセルとサネトの周りには、無機質な銀色の金属でできた、球体の壁が囲っていた。
魔獣の拳を見事に防ぎ切ったその壁に、サネトはどこか見覚えがあった。特にその鈍色に。
「勿論、こんなことも、できる」
あれほどの強度を誇った銀の壁は、今度はまるで水銀のように液状化していき、アテセルの両腕を纏っていく。
そして、その両腕に纏わりついた水銀は、小柄なアテセルには似合わぬ仰々しい武器へと変形していく。まるで剣のように、柄と刀身に分かれていたが、しかしその刀身は、どちらかといえば細長の楕円形の機械鋸のような姿だった。その奇抜な武器は、車輪のように高速で回転し始めると、アテセルはその重厚な二刀を手に軽やかに走り始めた。向かう先は、巨大な魔獣。アテセルが跳ね上がると、その鋸剣を振るって、山のように大きな魔獣を真っ二つに切り裂いた。
地面に降り立つと、その二振りの剣は、再び液状化し、先程から見当たらぬ二輪車の姿を形成した。
「なるほど、変質の宗匠ね」
「うん、これは何にでもなれる金属。私が、作った。傑作。じゃあ、怪我しないように、気を付けて」
アテセルはその二輪車に乗ると、再び戦場を走り出した。
一方その頃、最初にテテンの一撃で生み出された破壊の跡の中心で、ヨベクは特に身動きせず立ち尽くしていた。だが、何もしていなかったわけではない。
「サネト様、リャージャ様、魔獣の流れを予測しております。先ほどのテテン様の砲撃、またラーヤ様の魔生物による攻撃で、動きが再び乱れました。送った座標に向かってください。魔工宗匠と竜因たちの攻撃を逃れた魔獣が流れる地点になります」
ヨベクは戦場を観察し、情報をサネトとリャージャに送り続けていた。
「ヨベク、って言ったか。君」
するといつの間にか最前線から退いていたクヴェユヴェクが、ヨベクの隣にいた。
「はい。私はヨベクと申します。よろしくお願いします」
「……そのなんだ。戦場分析してるなら、我々にも情報を流してくれないか?」
クヴェユヴェクがそう語りかけるが、ヨベクは目も動かさず、そのままの状態で対応する。
「いえ、申し訳ありませんが、サネト様とリャージャ様限定です。皆様にお教えすれば、その情報をもとに技術を流用されるかもしれませんので」
「企業秘密ってことかい?」
また、同じように隣に、キュペイラが立っていた。
「はい。ですが皆さまの攻撃も計算に入れて指示を出しております。皆さまはどうぞ、気兼ねなく自身の戦いをしてください」
結局ヨベクは、魔工たちの方を向くことは無かった。
「そうかい。じゃあ、遠慮なく暴れさせてもらうわな」
そう言ってキュペイラは、自身が操る極小機械の群れを操って、上空へと消えていった。
「ふむ。なら、私がこういうことしても、問題ない、ということだね?」
クヴェユヴェクは、自分が手にしている魔剣から、強烈な魔力光を迸らせ、それを魔獣の群れに向けて構える。そしてそれを大上段に振り上げると、勢いよく振り下ろした。その剣の軌道に従って、刃から魔力の剣閃が生み出された。その剣閃は、大地に鋭い轍を生み出しながら、魔獣の群れを一刀両断していった。
「構いませんよ。貴方がたの力は、全て想定内ですから」
ヨベクが呟いた声は、戦場の騒音によって、かき消されたため、誰の耳にも届くことは無かった。
リャージャは、最初こそサネトの隣で戦っていたが、いつの間にか、激しい戦いの中ではぐれ、一人で魔獣たちを、腕甲で叩きのめしていた。だが、そうして一人で戦っていると、いつの間にか周りには、竜因たちが自然と集い始めていた。
「大した事、ないねぇ!」
クスベムが黒竜の炎で形成した「竜の翼」は、刃に触れる寸前に、並の魔獣が蒸発するほどの高熱を帯びており、一振りで十体以上の魔獣を消し去っていた。
「リャージャさんは、竜の力を使わないのですか?」
ルセッタが、クスベムとは対照的な冷気を帯びた剣を振り回して、リャージャの近くで魔獣を狩っていた。
「ったく、使えたら、使ってるっての!」
ルセッタの天然な気質から発せられた無邪気な言葉に、リャージャはやや怒りを覚えながら、それを魔獣たちに向けて打ち付けた。
「す、すみません。あの、よろしければ今度、僕と訓練、しましょ!」
焦りながら、少し頬を赤く染めつつこちらに話してくるルセッタの表情に、リャージャは思わず劣情を催しそうになる。
「あらあら、楽しそうで何よりです。ですが、ここは戦場、おしゃべりはほどほどに」
リャージャの背後から、激しい水しぶきが降りかかる。後ろを見ると、水で出来た剣を、ぶんぶんと振り回すアリウプクストの姿があった。不思議なことに、翠竜の力で生み出した水剣は、鋼のように魔獣を容易く切り裂く一方で、その斬撃で飛び散る水は、間違いなく、何の害も無い普通の水だった。
「ああ、その通りだ。戦いは仲良しこよしじゃなく、過激で暴力的じゃなきゃなぁ?」
今度は、蒼い雷光が閃き、周囲の魔獣が一気に焼き払われる。その力の源は、蒼竜の竜因、バウカだったが、彼はリャージャからは少し離れた場所で暴れていた。
「そう言えば、さっきからユーボスさんの姿が見当たらないけど」
「ユーボス様は、ちょっと準備をするために、あのあたりで待機しているよ」
上から赤紫の稲妻を纏いながら降り立ってきた、ラフグアが、リャージャのためにユーボスがいる場所を指さした。しかしそこは、魔獣たちが未だ隙間なく埋まっている、群れの中央。そんなところで、あの老体が一人で支援も無くいるというのは、リャージャにも驚きだった。
「えっと、大丈夫、なのか?」
「ああ、心配ない。ユーボス様は、なんといっても拒絶の力の使い手。並の魔獣じゃ傷もつけられん。それにユーボス様には、あの場所で、ある準備をしてもらっているんだ。多分、そろそろ……」
ラフグアが言い終わるよりも先に、火口湖を囲む山脈の稜線に沿って、黄金の壁が突然現れた。
「まさか、これ全部」
「そう。ユーボス様の結界だよ。魔獣をこれ以上逃さぬため、そして何より」
傍にいた竜因たちから、更なる圧力を、リャージャは感じ取った。戦闘態勢に入った時も、かなりの威圧だったが、今回はそれを更に上回るほどの闘気。
ラフグアはその後の言葉を紡ぐことは無く、リャージャに微笑みかけて、再び飛び出していった。
リャージャにはその続きは勿論わかった。魔獣を軽々と屠ってきた、今までの力でさえ、まだ竜因たちにとっては、周囲の環境に被害を出さないよう、加減したものに過ぎなかったのだ。
ユーボスの結界の中で、再び大暴れし始めた竜因たち。一撃ごとに隕石でも落ちたのかと思うほどの衝撃が響き渡る。しかもそれに呼応するように、魔工宗匠たちも心なしかその攻撃が過激になり始めていた。
だが、魔獣が減少するにつれ、魔獣が散らばり始めたこと、そして中央に陣取っていた魔獣は、かなりの魔力強度の高いものたちであったこともあり、結果的に魔獣の減少速度はそれほど早くはならなかった。
しかし、突如、魔獣たちが一斉に同じ方向に集まり始めた。竜因や魔工たちはその動きを追いかけるが、突然示し合わせたように一つ所に集まり始めたことは、経験豊富な彼らにとっても予想外で、それを食い止めることはできなかった。
魔獣たちは次々と一か所に集っていくが、最初に辿り着いた二体が、互いの首に食らいついた。それだけではない。後ろから次々と集う魔獣たちも、最初の二体の首元に飛びついていき、いつの間にか、魔獣たちは、一つの大きな紫の塊へと変わっていった。
「な、なんだこれ」
知恵に優れ、魔力を研究対象にする魔工、クヴェユヴェクでさえも、魔獣の奇行は初めて目にするものだった。この場で、その行為の意味を、この段階で知っているのは、一体だけだった。
(ネーパット様の予想通りのようですね。この魔獣たち、何かに命令されている)
ヨベクの人工知能は、その魔獣たちの行動の目的をすぐに理解し、そしてそれが何らかの存在に指示されたものであることを見抜いた。皆の関心が、魔獣の共食いに向いている中で、ヨベクは、全く別の何かを探し始めた。
(いない、どこだ。近くにいるはず)
大きくくりぬかれたような、火口湖の地形からは、目に入るものはそれを囲う稜線だけだったが、ヨベクは視覚だけでなく、多くの機能を駆使して、周囲の様子をつぶさに観察していた。だが、その能力をもってしても、接近している黒幕の存在にはたどり着けなかった。
(ありえない。自己保存の本能しかもたない魔獣たちを連帯して動かすなら、近くで指令を出す必要がある。再演算が必要。開始)
ヨベクは、そのまま周囲の状況を観察し始め、もはや今目の前で起きている魔獣の急変には無関心だった。
その一方、魔獣たちは、先程までは個々に分かれていたが、互いに食らいついた結果、その境界はもう見えなくなっており、まるで一つの大きな塊のようになり始めていた。
ここまで来れば、もうこの光景を初めて見る、この場に居合わせた人々にも、その変化が行きつく先を容易に想定できた。
「セスケト、ラーヤ除く、全魔工宗匠は、全火力を全貌の魔獣たちに集中砲火!今すぐ!」
レアケに変わって、代理の長を務めているクヴェユヴェクが、魔工宗匠たちに号令をかける。魔工宗匠たちは、その意図を理解して、一斉に攻撃を仕掛けた。
テテンは、重戦車の主砲副砲全て、前方に集中させる。アテセルは、万能金属を砲台に変形させ、超高速の粒子弾を放つ。キュペイラは超小型機械で形成した火砲から魔力弾を射撃。そして号令を出したクヴェユヴェク本人も、魔剣の最大出力を解放し、剣閃を放った。
全ての攻撃が、魔獣の塊に直撃した。その巨大さゆえに、それぞれの攻撃が、互いに干渉して威力を減衰させることもなく、それぞれが最大威力で魔獣たちを襲った。
だが、煙が晴れ、そこに現れたのは、表面が僅かに焦げ、へこんだだけの、魔力の巨大な塊だった。
よく見れば、その塊の中心には、ひびのようなものも見える。しかし、それは、魔工宗匠たちの攻撃によって生じたものではなかった。
ひびはどんどん大きくなり、大きくかけ始めた。その様子は、卵からかえる雛鳥にも似ていた。だがその隙間から現れてきたのは、愛らしい雛などではなく、禍々しい巨躯を持った獣の姿。
頭からは牛のように力強くうねる双角を生やし、筋骨隆々な足は、獣のようでもあるが、一方で甲虫のように甲殻に覆われ、二対ではなく、三対六本あった。大木のような分厚さを持った尾の先端は、魚のようにヒレがついており、それは刃の如き鋭利さを持っていた。
その姿は、獣のようでも、虫のようでも、魚のようでもある。だが合成獣のような歪さはなく、むしろ完璧な美術品を目にした時のような、洗練された美しい肢体だった。
「ウォオオオオオオオオオオ!」
目覚めの号砲として、魔獣の喉奥から放たれた雄叫びは、大地のみならず、この空間全てを鳴動させた。それは理性では耐えられない、本能に訴えかける恐怖の咆哮、歴戦の勇者であっても、一瞬身体が凍えてしまうものだった。
その隙をついて、生まれたての大魔獣は、その六肢を巧みに動かし、その角を構えて突貫してきた。激しい足音を立てながら、あっという間に、狩人たちの眼前に迫った。
「アイントヴェーク!」
突然、大声で、この中でも最年少の魔工宗匠ラーヤが叫ぶ。すると、ラーヤの従えていた人工生命体の巨人が、狩人たちの前に立って、その魔獣の突進を待ち構えた。
アイントヴェークと呼ばれた、その人工生命体は、確かに巨体、人間と比べればはるかに大きく、大柄な遷者よりも、更に一回り大きいほど。だが、対する魔獣はそれを遥かに上回り、神話より抜け出してきたような威容を持つ。質量だけで見れば、とても勝負になる対決ではない。
しかし、アイントヴェークは、正確にその剛腕で、猛速の二本の大角を受け止め、しかもその突進を完全に制止した。膂力は完全に拮抗、それどころか、魔獣の方が、その六本の脚をもってしても踏ん張り切れず、徐々に後ろに後退しつつあった。
「アイン!レアケ様の指示した場所に、そのまま投げ飛ばしちゃってください!」
ラーヤの命令に従って、その人工生命は、魔獣の角を持ったまま体を大きくねじり始めた。身体をねじると同時に、魔獣の角を思い切り持ち上げる。魔獣は脚をバタバタさせて、何とか持ちこたえようとするが、その努力もむなしく、徐々に足が地を離れ、あの巨体がふわりと、浮かび上がる。
アイントヴェークはその浮かんだ魔獣を持ったまま更に回転。左足を軸にして、何と反時計回りに大魔獣を振り回し始めた。そしてその遠心力を活用して、その魔獣を投げ飛ばした。魔獣は、火口湖を囲んだ稜線、そしてそれに沿って展開されたユーボスの結界にぶち当たり、その後は重力に従って、転げ落ちていった。
『よくやったラーヤちゃん!あとはレアケに任せてね!皆、くれぐれも魔獣に近づかないよーに!怪我しても弁償しないぞ!』
皆が聞き慣れたうざったらしいほどの愛らしい声が、通信機器を通じて狩人たちの間に鳴り響く。その通信の直後、立ち上がろうとする魔獣の上空から、何か大きなものが、超高速で迫っていた。墜落する巨大な飛空艇か、あるいは文明に終わりをもたらす終局の剣か、そう見紛うほどのものが、突如、魔獣を叩きのめした。
その質量、速度は、隕石のそれであり、その落下の衝撃で火口湖は、雪崩のような土煙で覆われ、狩人たちは視界を奪われた。
「おのれ、レアケ、ユーボス様が守っているとはいえ、やりすぎだ」
しかし、それを初めて目にするわけではなかった竜大公、そして魔工宗匠は、突如天より落ちた『それ』が何なのかをすぐに理解した。セスケトが、未だ視界を覆う土煙を、飛空艇の機能を応用して、一気に晴らした。
狩人たちの視界に映ったものは、魔工宗匠の長レアケの姿、そして、その隣で浮遊する巨大な鉄の腕だった。




