疑念の積層 第一節
「あんたら、世界政府に頼まれて、俺たちを探していたんだろ?」
サネトの大胆な推測に、竜因たちは、一瞬言葉を失った。が、一呼吸おいて竜因たちの長を務めるラフグアが口を開いた。
「証拠は?」
手短だが、強烈な反論だった。サネトの言葉には、一切証拠が無い。
「そうだな。お前たちが、この街に来たのは、大体四日前、といったところか。宿の状況、人々の噂から推測するとな。ちょうど俺たちが大密林で『仕事』を済ませた翌日とかだ。つまり俺たちがこの街で一番の痕跡を残した後、お前たちは偶然、<メプケ>から離れて、この街に来た。大した魔獣討伐依頼も出ていない、この街にだ。偶然か?」
「それは証拠ではないな。陰謀論と同じ部類の邪推というやつだ」
「そうかね?」
どれだけ反論されても、サネトは立て板に水で、口を挟む隙すら無いほどに、再びつらつらと推論を話し始めた。
「そして何よりの証拠が、俺の言葉に対するお前たちの反応だ。嘘は、どれだけつき慣れていても、目敏い人間には気づかれる。それは人間というのが真実を話すことが好きな人種だからだ。しかし意外にも嘘というのはバレても支障はない。それは相手に与える情報量が大してないからだ。今言った言葉の真偽がわかるだけ。だが、それ以上に相手から情報を引き出すのに適した方法がある。それが嘘を聞いたときの反応さ。嘘だと見抜く方法は二つあるが、一つは先述の相手の言動から見抜く方法、そしてもう一つが自分の既知の情報と照らし合わせて判別する方法だ」
「前置きが長いな。時間稼ぎか?」
「焦るなって」
サネトが業を煮やす竜因たちをそう言って諫めようとする。
「この二つの嘘を使い分ければ、相手から情報を上手く引き出すことができる。前者なら、相手の興味のあること、そして後者ならば相手の知識だな。あんたらは俺がついたいくつかの嘘を見抜いていたな?流石高貴な生まれなだけある。人の観察が上手だ。だが二点、お前たちは反応してはいけなかった言葉があった。一つ、『俺たちがこの街を初めて観光する』ということ、そして『俺たちには三人目の連れがいる』ということだ。あんたらはこれを嘘だと判別したみたいだが、残念なことに、これらは事実だ」
それを聞いて、竜因たちが思わず動揺を露にする。
「驚いたか?この街で何らかの騒ぎがあったのを世界政府に告げられて、あんたらはここに来たんだろ。なら俺たちが身動き取れず、宿に籠っている数日間、色々調べたんだろうな。緘口令を敷いている割には、街の人間には、あんたらの到来が知れ渡っていたのも、そういう調べものを誰かに頼んだ結果なんだろ?いくら息を潜めていても、外部の誰かとやり取りすれば、おのずと情報は洩れるというもの。それで俺たちが二人で宿を取っていること、そして宿には十日前から宿泊していることを知ったんだ。この二つの事実を踏まえれば、俺たちが今日初めて観光したってのも、もう一人連れがいるってのも不可思議だよな。嘘と思っても仕方ない」
「……面白い推理ですが、やっぱり証拠はないようですね」
しばらく口を開いていなかった黒竜の竜因クスベムが、サネトにそう詰めよる。
「そうだな。確かに推理以上のものではない。でもアンタらが世界政府と繋がっているかどうかは、どうせ、俺たちの仲間が来ればわかるんだ。情報操作に長けたやつでな。アンタらと世界政府の秘匿通信程度なら、いくらでも明らかになる」
サネトは、自分の正しさを信じて疑わない。竜因からの圧さえも、心地よく受け流せるようになりつつあり、彼は偉そうにふんぞり返っていた。
「くっ、ふふふ、がはははは」
突然、緊張が支配する部屋で、がさつな笑いが響き渡る。
「ユーボス様?」
その笑い声の主は、最年長の竜因、ユーボスで、彼女は腹を抱えて笑っていた。
「いやなに、こりゃ、とんでもない奴だね。私たち相手にこの自信と態度、実に心地いいわ」
ユーボスは椅子から立ち上がり、称賛するように拍手をサネトに捧げた。
「まぁ、そうさな。答え合わせは我々でするさ。その通り、我らは世界政府に命令を受けた。世界政府のクトゥンとかいったか。あの者曰く、サネトという狩人を探していたが、中々捕まらない。なので、その連れのリャージャを探している、とのことだった。そこでリャージャを知る我々に声がかかってな。まぁただ、私たちもリャージャの居場所は知らん。竜因の繋がりも近くじゃなきゃ反応しない。だから大きな魔力の動きを検知したら、その情報を我々に流すという後手の戦略しかとれんでな。まぁ、運よく、私たちは君たちを見つけることができたわけだが」
ユーボスがあっさりと真相を告げたことに、サネトは少し拍子抜けした。
「意外かい?私は私を侮る奴は嫌いだが、自分に自信を持っている奴は好きだ。まさかこの黄竜の竜因である私に心理戦を挑もうとは。中々の胆力だ、気に入ったよ」
サネトは表情を必死に崩さなかったが、心中ではかなり焦っていた。黄竜の力には「拒絶」に代表される心の力があることを、すっかり忘れていたのだ。
「……それで、結局貴方たちは私たちをとっ捕まえて何がしたいの?世界政府に突き出す?」
サネトが冷や汗をかく前に、リャージャが竜因たちに言葉を投げる。
「連絡を入れろ、とは言われていますが、拘束しろとかは言われてないですね」
クスベムが、リャージャにそう答えると、突然、部屋に電子音で再現された鈴の音が鳴り響く。それはラフグアの通信機の端末から発せられており、ラフグアはそれを懐から取り出し、画面を見つめる。ラフグアはその画面に表示されたものを見て、眉を顰めた後、通信に応えた。
「どうしたんだい、クトゥン殿。うん、ああ、そのことなら、偶然にも、今二人は私の目の前にいるよ……?」
ラフグアと通信している相手が、先程話題に出たクトゥンであることはわかったが、流石に通信の内容まではラフグア以外の周りの人間にはわからなかった。その後、ラフグアは特に言葉を発さず、しばらく相槌を続けるのみだったが、突然耳元から端末を話し、ボタンを押した。
『皆さん、聞こえますか?サネトさん、リャージャさんもいらっしゃいますね?初めまして、私はクトゥン、世界政府で官僚をしております』
端末からは、サネトとリャージャの聞き覚えの無い声が響く。ラフグアは、端末の音声を皆に聞こえるように拡声したのだ。
「おう、よろしく、サネトだ」
ラフグアはまた、皆の声が拾えるように、その端末をもって部屋の中央に立つ。
『すみません。本当はお二人に色々とお聞きしたいことがあったのですが、それとは別件で連絡させていただきました。事情はラフグアさんにも話しましたが、改めて皆さんにも聞いていただきたい。<メプケ>の近く、<アーヴェ>大陸最大の山脈である、<ウッティン・シュビ>山脈で、魔獣の大量発生を確認しました』
それを聞いて、竜因とサネト、リャージャは、一斉に目を見開いた。
『まだ人里に被害は出ておりませんが、世界政府はこれを、早期解決すべき魔獣災害と認定。規模は正確には掴めていませんが、甲級は確実、場合によっては第三次崩壊以来、最大級の災害です。よって狩人連合を通じて、全ての狩人に召集を掛けます。無論、任意ではありますが……』
「なるほど、いつものあれですね。我々は必ず集合と」
『はい。誠に申し訳ありませんが、竜因の皆さま、魔工宗匠の皆さまは、契約に基づき、何事にも優先して集合していただきます。そしてサネトさん、リャージャさん、貴方たちにも召集を命じます。拒否権はありません』
サネトとリャージャはそれを聞いて互いの顔を見合わせる。その後、サネトが口を開いた。
「まぁ断れんわな。一応聞くが、断った場合は?」
『その場合、今、その場にいる竜因の皆様に、お二人の足の骨を折っていただきます』
あっさりと、物騒なことを言い放つクトゥン。
「わかった。俺たちも争いは避けたい。だが、その場合一応確認を取りたい相手がいる。少しだけ待ってもらえるか?」
『その必要はないよ』
突然、通信機から、クトゥンのものではない声が突然聞こえてくる。そしてその声には、サネトとリャージャは聞き覚えがあった。
「な、アンタ、なにしてんだ」
それは間違いなくネーパットの声で、流石のサネトも狼狽を隠せない。
『なに、気にするな。もうここまで追いかけられているなら私のことを隠すのも面倒だろ?安心したまえ。世界政府の能無しどもじゃ、わしの通信の逆探知などできんよ』
「そういう、問題かよ?」
突然のことに、この場に居合わせた竜因たちは戸惑っていた。
『すまんな。私はネーパット、サネトくんとリャージャくんの雇い主だ。よろしくな、竜大公、それに、クトゥンくん』
通信機からは、相手の姿は見て取れない。しかし明らかにネーパットの声は不遜で、皆を軽視するものだった。
『……まさか、そちらから接触してくるとは。意外ですよ、ネーパットさん』
クトゥンの話からは、どうやらクトゥンとの通信も途絶えていないようで、そしてネーパットの声はクトゥンの方にも聞こえていることが伺えた。
『接触?何を言ってる。わしはずっとあんたらに接触してたよ。気づかなかっただけじゃろ。で、サネトくん、リャージャくん、二人とも、その魔獣討伐、参加して構わないよ。あとでヨベクも現地に送る。存分に暴れておいで』
「え、良いのか?」
あっけらかんと、魔獣討伐を承認したことに、サネトとリャージャは、少し不気味に思えた。普通なら、ここは反対してしかるべきだ。
「その、ネーパット、とか言いましたか。貴方は、世界政府に追われていることをわかっていらっしゃいますか?」
『ああ、わかっとるよ、クスベムくん。でも無理じゃよ、お前ら程度が、わしのとこまで辿り着くのは。あとサネトくんたちを捕まえるなんて思うのもよした方が良いぞ。二人は手ごわいし、何より、そんなことしようものなら、わしが全員殺すからな』
竜因たちは、その言葉に怒りではなく、むしろ言い知れぬ悪寒を覚えた。まるで言葉そのものに魔術がかけられていたかのようだった。この通信が始まってから、一度も声を発していないクスベムの名を、ネーパットは的確に言い当てた。そして何より、彼らは最近こそ「竜大公」などと言って、嘲られてはいるが、こうして明確に「格下」だと言われたことは、一度としてないからだ。
『すまんが、もう通信は切るぞ。ほら、魔獣どもが動き出すぞ。急げ急げ』
『ま、まちなさ』
クトゥンの制止も聞かず、以降ネーパットから通信が返ってくることはなかった。
『……はぁ逆探知も無駄ですか。仕方ない。竜因の皆さま、二人を連れて、<ウッティン・シュビ>山脈、南西麓の水晶門に移動してください』
クトゥンとの通信も、そこで途絶えた。
竜因たちは少し呆然とした様子で、目の前にいる二人を見つめた。
「いやぁ、まぁ、何か悪いことしてる、ってわけじゃないんだ、俺たち。だからそうピリピリせず、な?」
サネトが、そう言うとラフグアは、まるで頭痛を宥めるかのように、こめかみを軽くさすった後、こう言った。
「登録されていない、緊急性の低い、無断魔獣討伐行為は違法だよ。二人とも、あの者に依頼されて、魔獣を狩っているのだろう?」
「いやいや、魔獣なんて狩ってない、本当だぞ?」
サネトはまたも嘘はついていない。その答えは、竜因たちには奇妙に思えた。彼らは、サネトたちが何をしているのか問うた時、クトゥンからは『無断魔獣狩り』、『民間の非合法な報酬のやり取り』程度しか聞かされていなかったからだ。
「おのれ。クトゥンめ。何か隠しているな?」
魔人狩りのことを、まだクトゥンは竜大公には教えていなかった。
「ま、ほら。急ごうぜ?俺たちも、街で暮らしている人たちが傷つくのは、嫌なんだ」
「……わかりました。ですが、我々から離れないように、お願いしますね?」
サネトはラフグアの忠言を快諾し、そして一行はそそくさと、宿を後にした。
特にこれといった会話は無く、<ヴェペド・ヴェムン>の人をざわつかせながら、この街の中を移動した。最初にサネトたちが道具を取りに行きたいということで、彼らが泊まっていた宿に寄り、その後、この街の水晶門へと真っ直ぐに向かった。
「アンタらは、装備は整えなくていいのか?」
サネトは、宿からほぼ手ぶらで出てきた竜因たちに、そう声をかけた。
「ええ、必要ありませんよ。では行きましょう」
ラフグアの言葉はどこか冷たいものだった。どうにもネーパットの挑発的なやり取りの以降、竜大公たちとサネトたちの間に、距離が生まれたようだった。
水晶門をくぐって、一向は、<ヴェペド・ヴェムン>とは一転して乾燥した空気の、場所へと移った。見上げると、そこには砂と岩、それと僅かな低木だけがある、巨大な壁のような山脈が、堂々と立ちはだかっていた。
「さて、では、クトゥン殿には、私から、っと、仕事が早いですね、流石」
どうやらクトゥンの方からは既に、正確な座標が送信されており、それを参考にして、一向は歩き始めた。険しい山道ではあったが、魔力に長けた彼らならば、軽々と踏破できた。
その道中、皆がこの山のふもとに辿り着いてから十分ほど後に、皆の携帯端末に、一斉に連絡が届く。それは狩人全体に送られた、緊急招集の号令だった。
「この報酬量なら、大して集まってこんだろうな」
目にした報酬は、一人で手に入れるには確かに多かったが、こうした緊急討伐は、参加した者の頭数で割られる。よほどの自信が無い狩人でも、参加さえすれば報酬が貰えるので、初心者や下位の狩人は参加するが、一方で、中級、上位の狩人は、危険度や資源の消費と、報酬が割に合わぬから、参加を避ける傾向がある。しかし、今回は更に、緊急性の高さ以上に、危険度の高い大規模な魔獣災害であるため、前線での参加資格は、それなりの実力のある狩人に限定、下位の狩人は、うち漏らした魔獣や、近くの市街地の守護を任命された。
従って、今回の戦いは、前例のない規模なので予測しづらくはあるが、おそらく殆ど狩人は参加しないだろうというのが、竜因たちとサネトたちの共通見解だった。
それから数十分ほどして、サネトたちは、指定された座標に辿り着いた。そこには既に魔工宗匠七名が並んでいたが、それぞれの隣には、物々しい巨大な機械が並んでいた。
「おや、竜大公の皆さん、お久しぶりです!あ、サネトさん、リャージャさん!この前はお世話になりました!」
竜大公たちに向かって、魔工宗匠の長、レアケがぴょこぴょこと軽やかに走ってくる。そしてサネトたちを見て、そちらの方にも手を振る。
「久しいな、レアケ殿。それで、敵は?」
「うー。もう、レアケちゃん、って呼んでほしいな!敵なら、あっち、だよ」
レアケが指を差したのは、今いる峠からも見える、山脈の稜線。
「どうやらあのあたりに、元々火口湖があったみたいなんだけど、今は水が枯れて、そこに魔力だまりができたみたい。さっき、空を飛んで見て回ってもらったけど、かなりうじゃうじゃ魔獣が溜まってるみたいだね。今にもあふれ出してしまいそうなんだって!」
レアケがそう告げると、確かに下からは見えないが、山の淵から、紫色の靄のようなものがちらちらと見切れていた。
「なるほど、では、我々で先に抑えてしまいましょう」
「え、狩人たちは待たなくていいのかな?」
「良いでしょう。どうせ戦力にはなりませんし、我々が討ち漏らしたものを、山際で適当に狩りとってもらいましょう」
クスベムが、レアケに対してそう告げると、他の竜因たちにも目配せをして、そのまま稜線に沿って歩いていき、先程レアケが指さした場所目掛けて歩いていく。
しかし、そんな中、竜因たちの長であるラフグアが、少し魔工宗匠の方に目をやると、その後、何もなかったように竜因の最後尾でついていく。
「サネトさんは?どうする?ついていかないの?」
「あ、ああ、いや、アンタら特別資格の狩人と同行するなんて初めてだし、先走っていいもんなのか?」
サネトが、そそくさと山を登っていく竜因たちを見送りながら、レアケに伺う。
「うん。大丈夫だよ。それに竜大公たちの言う通り。多分火口湖の方まで昇ってくる狩人は殆どいないと思うし。それに彼らが先走ってしまった以上、魔獣は大きく動き出すから、レアケたちも、追いかけようかなと思ってるよ、あ、どうせなら、セスケトちゃんの機械に乗せてもらっていく?とっても速いよ!火口湖までひとっとび!」
「あ、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな、あいや、待った。俺たち連れを待たなきゃいけないんだった」
咄嗟にサネトが、ヨベクの事を思い出す。周りを見渡しても、まだヨベクの姿は無い。
「あ、ヨベクって、あの子のこと?」
そう言って、レアケがセスケトの飛空艇の方を指さすと、その足元に、見覚えのあるものの姿があった。
「あ、ああ、あれがヨベクだ」
「やっぱり!あの子、私たちよりも先に来てたんだ!たまたま居合わせたのかなー?って声をかけたんだけど、受け答えは拒否させてもらうって」
サネトとリャージャは、そのままレアケに案内されて、飛空艇の方へ向かう。二人の姿を見て、レアケが頭を下げて一礼する。
「お待ちしておりました。サネト様、リャージャ様、では我々も参りましょうか」
「えー、折角だし、レアケたちと一緒に行こうよ!何なら、ヨベクちゃんもセスケトちゃんの飛空艇に乗っていったら?」
「おや、私の飛空艇に乗っていくんですか?いいですよー!」
飛空艇の上から、その持ち主であるセスケトが、顔を出し、何の事情も聞かずあっさりと承諾した。それに対し、ヨベクはサネトとリャージャの方をじっと黙って見つめていた。
「えっと、ヨベク、折角だし、乗っていこう、そっちのほうが早いだろうし」
「承知しました」
サネトの言うことに従って、ヨベクも二人の後をついていく。搭乗口から、飛空艇に乗り込むと、そこまで広いわけではないが、三人が立つには十分な空間が広がっていた。セスケトは、三人が乗り込んだのを後ろ目で確認すると、操縦席に座って、飛空艇を動かし始めた。それと同時に、周りの魔工たちも、各々の機械を起動していく。そんな中、魔工の長のレアケだけが、一人ぽつんと何もせず立っていた。
「レアケは、戦わないのか?」
サネトが、そんなレアケの姿を見て、船の上から声をかける。
「えっとね、レアケの機械はちょっと持ち運びが不便なんだー!だからもう少ししたら、駆け付けるよ!本当は間に合う予定だったんだけどね!だから、先に行ってて!」
それを聞いて、サネトは飛空艇の座席に戻った。よく周りを見ると、それぞれの兵器はかなり個性的だ。今乗っているセスケトの飛空艇は、標準的な飛空艇とは異なり、左右非対称、しかも、円盤型で、翼がついていない。「力能」の宗匠、テテンは、大砲を備えた重戦車、「変質」の宗匠、アテセルは、何か不思議な銀色の材質で作られた自動二輪車、「生命」の宗匠のラーヤに至っては、もはや機械なのかどうかわからない、巨人の肩の上に座っていた。
サネトでも一目見ただけでは性能がわからない兵器ばかりで、やはり目の前にいる魔工宗匠も、一握りの天才なのだと実感させられた。
「では、行きますよ!適当に捕まっていてくださいね!」
そう言うと、突如、セスケトの飛空艇が、けたたましい動作音と共に、空中を浮き始める。翼どころか、よく見れば推進器さえない、この奇妙な物体が、垂直に浮かび上がっているのだから、二人には驚きであった。そして他の宗匠たちも各々の機械を作動させ、それに乗り込んだりしている。
「じゃ、皆!いってらっしゃい!気を付けてねー!」
レアケの見送りの言葉を合図に、魔工宗匠たちは各々の機械で、山の頂上に駆け上がっていく。「魔導」の宗匠である、クヴェユヴェクは、身体よりも大きな大剣を、まるで滑り板のようにして乗り、重力に逆らうように山肌を駆け上がっていく。キュペイラは、自身の操る小型機械の群れに座って、空を飛んでいた。
そしてあっと言う間に、山頂の旧火口湖まで駆け上がる。そこには、先程聞いた通り、まるで溶岩のようにびっしりと火口を埋め尽くす魔獣の群れが目に入る。どうやら、竜因たちよりも先に頂上に到着したようで、まだ魔獣たちは動きを見せていなかった。
しかし、大量の魔力で動く魔導機械が近づいたことで、徐々にその群れが、こちらに向いて蠢き始めた。まるで魔力の津波、歴戦の狩人でさえ、その光景には、僅かな恐怖を覚えるほどであった。
だがサネトだけは、その光景に特別な感情を抱いていた。重苦しい感情だが、恐怖というよりも、どちらかと言えば、奥底にある心の傷を抉るような、そういう不快感に近いものだった。




