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秘奥と秘密 第三節

「さて、困ったことになったな」

 サネトとリャージャは「偉大なるもの」と戦っていた海辺の洞窟から最も近い街、<セレヴェト>で借りた宿の中で、今後の話し合いをしていた。しかしリャージャはというと、自分の攻撃が一切通じなかったからか、やや不貞腐れた顔をしながら、果汁と酒を混ぜた飲料を無言でかっくらいつづけていた。その黒い肌でもわかるほど、すっかり頬は熱っぽく上気していた。

「なぁ、不服なのはわかるけどよ。流石にそろそろ落ち着いてくれねぇか?」

「うるへー、お前みたいな非力やろーに、私の気持ちなんてわかるわけがーー」

 と、言いかけて、突如リャージャはその顔を勢いよく机に突っ伏した。

「全く、何杯飲んだんだ」

 サネトはちらりと机の隣を見る。そこにはリャージャが飲みつくした酒瓶が大量に積み上がっていた。

「……仕方ない。ここは、俺一人で考えるか」

 サネトは机の上でいびきを立てながら眠るリャージャをゆっくりと運び、寝台に置いていくと、戦闘服からゆったりとした普段着に着替えて、宿の外へと出て行った。

 <エフゼクト>大陸でも、一二を争うほど人口が多い大都市である<セレヴェト>は、高層建築も多い。しかし採光に最新の注意が払われた都市づくりのおかげか、既に日も傾いているにも関わらず、その高層建築に囲まれている大通りは依然として明るかった。しかしそこを歩くサネトの表情は対照的に暗いものだった

(しかしどうしたものか。リャージャの火力で駄目なら、俺でなんとかなるとは思えんが)

 彼の中で、作戦が無いわけではない。特に自分の右腕の義手は、魔人の鎧を突破する可能性を十分に秘めている。だが問題は、術者である彼自身の魔力出力が低いという点だ。今の彼の魔力量は非常に高いのは確実だが、それを十分に活かすことができない。

 また彼には気になることがもう一つあった。いくら硬度に自信があるとはいえ、リャージャの攻撃に対して、魔人が一切反撃をしなかったことは、明らかに奇妙だ。しかし思い起こしてみると、これまでの魔人にも同様の反応があったようにも思えた。最初の「高貴なるもの」も、サネトたちを目にしても一切反応を見せなかったし、そして続く「勝利するもの」も、あれほどの速度を誇りながら、三人の接近を許し、更には、サネトが攻撃を仕掛けるまで動きもしなかった。魔人が本来の生命の倫理から外れた存在であることを、知識では理解していたが、こうして実際にその奇妙な振舞を見ると、経験豊かなサネトでさえ混乱を隠せなかった。

 そんな風に思いつめた顔でサネトがあてどなく街を歩いている時だった。彼の胸元にどんと、小さな衝撃が響く。心ここにあらずだったサネトは、その衝撃の正体を確かめんと前を見ると、そこには眼鏡をかけた大柄な女性が尻餅をついていた。

「いてて……あっ、あの、すみません、すみません。あ、すみません!!」

 サネトの顔を見るや否や、その女性は突然何度も頭を激しく下げて、彼に謝罪を繰り返していた。

「いや、前を見てなかったのは俺の方だし。大丈夫か?」

 サネトが右腕を差し出し、転んだ女性を起こそうとする。しかしその女性は怯えたような表情を見せ、すっくと自力で立ち上がると、またも腰から大きく体を曲げ、彼に謝罪をした。

「……えっと」

 心配そうに見つめるサネトだったが、その女性は突然何かに気づいたかのように体を起こし、目の色を変えて彼が差し出した右腕をじっと見つめた。

「……なんですか、それ」

「え」

 サネトは彼女の視線が注がれているものが、彼の義手であることに気づいた。

「あ、これか、いや、単なる義手……」

「ちょっとよく見せてください」

 先ほどの弱々しさはどこへやら、鷹のような鋭い目で、突如彼の右腕を掴んで、近くで観察し始めた。

「なんだ、これ、ユヴェクの新作?いや、こんな凄いの、見たこと無い。まさか新進気鋭の魔工?固形魔力の純度もそうだけど、何よりこの正確な加工技術、いや、もしかして中身も魔力?」

「ちょっと、こら」

 サネトはその喰いつきように狼狽えながらも、彼女を自分の右腕から引き剥がした。

「あ、あ、あああああすみませんすみません、命だけはどうかお助けを」

「アンタ俺を何だと思ってんだ!」

 またも怯えた表情を露にするその女性に、業を煮やしてサネトが詰めていく。

「え、えっと、その、その右腕って、誰が作ったんですか?」

「うん、これか?」

 と、サネトは、かつて第二の魔人、「勝利するもの」の元へと向かう前に、ネーパットとしたやり取りを思い出していた。

『なに、その機械は人前で隠した方がいいか?いや別にいいよ。ああ、ただ、私の存在や誰が作ったかを明かすのは無しね』

 ネーパットの言うことに従う必要は無かったものの、恩が無いわけでもないため、彼はその口約束を守ることにした。

「悪い。それは秘密だ」

「そうですか、いやそうですよね。……でもっ!そのっ!よく見せてくれたりは……ダメ……ですか?」

 徐々に語気が弱まっていくその女性を哀れに思って、サネトは見せるだけなら決して約束を破ったことにはならんだろうと、渋々承諾した。

 するとぱっと明るい表情になったその女性が、サネトに力強く抱きついてきた。身長はサネトよりもやや低い程度ではあったが、ふくよかな体型も相まって、まるで包み込まれるような感覚に彼は陥った。

「あ、あの離してくれんか」

「ああ、すみません。それに自己紹介もまだでしたね。私はセスケト、魔工です」

 サネトは、その名前に聞き覚えがあった。魔工、名をセスケト、赤っぽい肌に、緑の髪、それらの情報を組み合わせ、辿り着いたのはある人物。

「もしかして、魔工宗匠(ウェル・ヘムウェト)のセスケト!?」

「え、はい。そうです。ご存じだったんですね。照れちゃうな~」

 思いもよらぬ大物との邂逅に、サネトは驚きを隠せなかった。




 セスケトに連れられ、サネトは、一際巨大な高層建築へと連れていかれた。そこは、宗匠たちが定期的に集会のために使う秘密の屋敷だという。

「まさか、魔工宗匠だったとはね……」

「いえいえ、そんな畏まらなくとも。私なんて大したことないですから」

 魔工の頂点に立つ存在の言葉としては、嫌味にすら聞こえかねないが、しかし先程のセスケトの態度を見ているサネトは、決してそのへりくだった態度が悪意を持ったものではないことは理解できた。

「それで、この腕を見せて欲しい、ってことだったな?」

「はい!是非!報酬はいくらでも払いますので!!」

 昔のサネトであれば、その文句を非常に魅力的に感じたであろうが、しかし今の彼には大して興味のある対価ではなかった。だが、その時、あることに彼は気づいた。

「なら腕を見せるための条件がある。この双銃、これをお前たち魔工に改良してほしい」

 彼は懐の愛銃をセスケトの前の机に置いた。

「改良?えっと、どういった?」

「そうだな、アンタ、いや、アンタたち宗匠の技術で、可能な限り威力を上げて欲しい。それこそ噂に聞く、アンタたち宗匠が作っているという『極致機械』くらいね」

 それを聞いて、セスケトは悩みこむ。

「あの、私一人じゃ決めかねるんで、他の宗匠に聞いても?」

「ああ、構わんよ」

 そう言って、セスケトは、一旦部屋から出て行った。

 しばらくして、セスケトは、更に三人見知らぬ者を連れて帰ってきた。

「紹介します。こちらがラーヤ、こっちがキュペイラ、そしてこの方がレアケです」

「こんにちは、お兄さん!僕はラーヤです!」

 最初に元気よく名乗りを上げたのは、短くまとまった茶髪の少年。サネトでも、彼が齢十にして、祖母に代わって「生命」の宗匠となったラーヤであることはすぐにわかった。

「うーっす。キュペイラだ。あんまり知らんと思うけど、一応宗匠だよ。まだ名前は仮だけど『小型機械』っていう新しい分野」

 次に話し始めたのは、褐色の肌と、白い髪の女性。最初はサネトも気が付かなかったが、よく見ると、服の下、首元や手首からは、爬虫類のような艶やかな紫と黒の鱗を覗かせており、遷者であるよ様子が伺えた。

「えっと、初めまして、俺はサネトです」

 サネトがキュペイラの出した右手に応じて、握手を交わそうとする。しかしそこにすかさず、最後の一人が割り込んできた。

「ほほーこれが噂の。すっごいね!誰が作ったのか、すっごく気になる~。あ、レアケは、レアケっていうの!よろしく!」

 彼の腕を嘗め回すように調べているのは、ラーヤほどではないが、同じく低身長かつ、白い肌で、長い金髪を蓄えた人物。

「レアケ、って、あんたが『思考』の宗匠、レアケ!?」

「えー、もしかしてレアケのこと知ってるの!?うれしー!あ、そうだ!聞いたよ、凄い強い武器を作って欲しいんだって?いいよーいいよー一番良いの作ってあげる。けどー、レアケも、ここにいる皆も、その手の技術では一番じゃないんだー!今はいないんだけど、テテンちゃんとアテセルちゃん、それにユヴェクっていうのが得意なの!だから、三人が来るまでー、レアケたちにその義手、見せてもらってもいーい?」

 レアケは明るい表情で、飛び跳ねるようにサネトの周囲を回りながら、立て板に水で話し続けた。

「その三人が帰ってくるのはどれくらいなんだ?」

「うーん、明日には帰ってくると思うよ?」

 レアケのその言葉に、何故か他の魔工宗匠三人が、奇妙な反応を見せる。

「一日か、まぁそれなら。その間、腕は残していけばいいのか?」

「うん!それと銃もお願い!先にレアケたちで確認しておけば、すぐにあの子たちも取り掛かれると思うの!」

「わかった。明日の十一時頃にまた訪れる。だが銃の改良に数日かかるとか言うのはやめてくれよ」

 サネトは義手と銃を机の上に置いておき、あとは頼んだと一言添えてから、その部屋を後にした。

 すると突然、サネトが出て行った矢先、大きなため息が漏れた。

「よーしお前ら、さっさとこの腕調べんぞ」

 凄みのある濁った声が突如部屋に木霊する。その声の主は、先程まで愛らしく高い声を出していたレアケだった。

「全く、レアケさん、あと一時間もすれば帰ってくる三人を、明日って、大法螺もいいとこですよ」

 そんなレアケをセスケトが諫める。

「馬鹿言えよ、お前。俺たちの知識と技術を超えた兵器があるなんてあり得ねえだろ。絶対に謎を解き明かすぞ」

 だが、レアケには一切反省の様子は無く、ただ不敵な笑みを見せるだけだった。




 サネトは、リャージャが待つ宿に戻る。リャージャは未だ、酒に酔いつぶれて寝ていた。

「全く、まぁ、説明するのも手間だし、ちょうどいいか」

 サネトは置いてきた右腕について、リャージャにあれこれ問い詰められるのも面倒だと感じていた。サネトは、魔工宗匠たちの時間稼ぎについて、実際は気付いていた。だが彼はむしろ魔工たちは二日や三日を条件に出してくるものと考えていた。しかしレアケの提案した期日は一日、元々サネトが妥協案として想定していたものと同じだったのだ。彼が時間稼ぎを知っていてなお快く引き下がったのも、レアケの妥協範囲を予め見透かしたような提案ゆえだった。

「とはいえ、明日には、流石にちょっと事情は話さなきゃ駄目かね」

 そう言いながら、サネトもまた自分の寝台に転がりこみ、まだ日が暮れたばかりではあるが、疲労のおかげで、すぐに寝静まった。




 翌日、腕の無いサネトを見て、やたらと突っかかってくるリャージャを躱し、彼は再び魔工宗匠の集会所へと向かった。

 するとその集会所の前には、一つの人影があった。

「あ、サネトさん!お待ちしておりましたー!」

 それは緑髪の眼鏡の女性、セスケトであった。

「すみません、先日は言いそびれたんですが、この建物って宗匠と一緒じゃなきゃ部外者は入れないんですよね。厳密に言えば入れるんですが、適切な手順で入らないと私たちの所までは辿り着けないんです」

 セスケトは、再び昨日と同じようにサネトを引き連れて、建物の中へ案内した。

「いや、しかしサネトさん、あの腕、凄いですね、本当、参りました」

 凄い、という称賛は想定していたが、参ったという言葉にサネトは少し引っかかった。よく見れば、セスケトの目元は少し血色が悪くなっており、元々癖の強い髪質には見えたが、今日はより一層髪の毛が荒れていた。

「まさかとは思うが、一晩寝ずに腕を調べてたのか?」

「あっはっは」

 笑って誤魔化そうとするが、彼女のその姿が何よりの答えだった。

「しかし、なるほど、貴方の腕を作った人が、見せるのは別に構わないとした理由もよくわかります。見たところで、どうしようもないというもの。我々が星を見て、星の再現をできぬのと同じ道理ですね。はい」

 消沈した様子の彼女を見て、サネトは少し不憫に思ったが、しかしそれと同時に、この星最高峰の知能が唸るほどの技術であることがわかり、ネーパットの異常さを再認識することもできた。

 二人は昇降機から降りると、以前入った部屋とは、また別の場所へと入った。

 そこには、合計六人の人間がおり、先日サネトが会った魔工もいれば、見知らぬ者もいた。

「あー!サネトくん!待ってたよ!レアケにお腕貸してくれて、ありがとね!」

 魔工宗匠の長であるレアケが、サネトに義手を返却する。意外とあっさりと腕が返ってきたことに驚きつつ、サネトは素直にそれを受け取り、自分の腕に接続した。

「それで銃の改良のことだけど、前も言った通り、そういうのが得意なのはこの三人だよ!」

 レアケがそう言うと、サネトが見たことの無い三人が、一歩前に出てきた。

「左の赤髪がテテンちゃん、『力能』の宗匠!綺麗で可愛いけど、とっても頼りになるんだよ!次の水色の髪のとっても可愛い子がアテセルちゃん!彼は若いけど『変質』の宗匠!そして最後がユヴェク、『魔導』の宗匠だよ」

 レアケが紹介していくと、一人ずつサネトと握手を交わしていく。

「こんにちは。私はクヴェユヴェク。ユヴェク、って呼んでくれ。君の銃見せてもらったよ。多分分野としては私が中心となるものだとは思うけど、一つ案があるんだ」

 一通り挨拶が終わると、最初にレアケに紹介された、黒い肌と赤い髪のテテンが、サネトに話しかけた。

「あの銃自体は、既にかなり高級品だよ。改良の余地はあるけど、出力や効率を劇的に上げるのは、もう無理だと思う。だけど、君のあの義手、あれを使えば、少し面白いことができると思うんだ」

 テテンはそう言いながら空間に映像を投影する。それは設計図のようで、サネトの義手と、銃が映っていた。

「簡単に言えば、右腕を燃料、銃弾代わりにするってこと。ただこの場合同時に接続できるのは一つまで、そして義手無しでは使えないものになっちゃうけど。ちなみに接続状態で作る剣については、銃以上の出力上昇が見込めるよ」

「なるほど。となると、もう一つは剣形態の為の補助、あるいは義手の無いときに緊急で使うものになるってことか。数値としてはどれくらい伸びるんだ?」

「一応、現在の計算上なら、銃形態で二十八倍、剣形態は四十五倍程度伸びるよ」

「え」

 テテンの口から飛び出してきたのは、信じがたいほど大きな数値だった。

「は、え、いや、そんなに伸びるの?」

 サネトが狼狽えていると、背の高い黒髪の女性がテテンの隣に立った。彼女は先程レアケにユヴェクと紹介された女性だった。

「それだけ、あの腕が規格外ということだ。私は長らく『魔導』の宗匠を務めてきたが、あのような逸品は一度たりとも目にしたことが無い。とはいえ最大火力で放てるのは、一度に六発程度、剣形態なら二十秒しかもたない。それが過ぎれば小康状態に入って、おそらく義手は三日程度使い物にならなくなるがね」

 しかし、それはサネトにとっても願ったり叶ったりだった。今の彼に必要なのは、この義手が秘めた莫大な魔力を、最大限爆発させる方法。また二十秒というのは、高速移動を得意とする彼にとっては十分すぎるほど長い時間だった。

「よし、決まりだ。その方向で改良してくれ」

「良いのかい?流石に過剰な火力だと思うが」

「構わんよ」

 テテンとユヴェクが互いに顔を見合わせる。魔導と力能、互いの分野を横断する仕事にはなるが、歴戦の二人にとってもこれほどの魔道具を取り扱うのは、今まで無かった。二人とも躊躇いと好奇心がせめぎ合うような微妙な表情をしていた。

「えっと、あの、サネトさん、でしたか?貴方は、狩人、なんですよね?」

 弱々しい声で、サネトに話しかけてきたのは、アテセルと呼ばれていた、水色の髪の男性だった。

「あの、私達も、研究費のために、狩人稼業を、しているので、わかります。こんな兵器は、魔獣相手には必要、ないと、思います。だから、その、あの……」

 もじもじと、たどたどしくアテセルは話していたが、彼の言いたいことはサネトにも察することができた。

 それほどの破壊兵器を要求する理由が、普通は無いのだ。仮に政府転覆や、強盗・殺戮を狙っていると思われてもおかしくないというもの。しかし魔人狩りの話は、ネーパットに他言無用だとされているので、本当のことは言えない。上手い言い訳も思いつかず、サネトは黙りこくってしまった。

「まぁでも良いんじゃないかな!私達だって凄い機械いっぱい作ってるんだし!」

 そんな時、思わぬ援軍が現れた。宗匠の一人であるレアケが、サネトの戸惑いを察したかのように彼を庇ったのだ。

 鶴の一声だったか、宗匠の中から、これ以上サネトの銃の改良についての異議や疑問を口にするものは現れなかった。セスケトとユヴェクは、すぐさま銃の改良に入った。一旦サネトは宿に戻ったが、驚くことにその作業は一日で終えるので、明日には取りに来てほしいと言われた。




 翌日、魔工宗匠の工房にて、サネトの目の前に置かれた二丁拳銃は、見た目こそ以前のものとそれほど大きくは変わってはいなかったが、手に取った瞬間、使い慣れた彼は、その変化にすぐ気づいた。

 両方とも重量に変化があったが、特に一方は、今までのそれよりかなり重かった。

「今右手に持っている方が、義手と接続する方だ。その持ち手の下に生えている導線を、義手の手首辺りにあててみて。あとは勝手に先端の装置が接続するから」

 ユヴェクに言われるまま、サネトは導線を手首に当てる。すると先端の芯線が義手の装甲と同化して、完全に繋がった。

「大丈夫そうだね。それじゃ剣形態にその状態からしてみて。刃渡りが伸びてるのと、変形機構が変わってるから、少し気を付けてね」

 サネトは左手に持っていたもう一つの銃を、右手の銃に合わせると、剣形態へと合体変形させた。確かにテテンの言う通り、変形の過程が変わっており、更には最終的に辿り着いた剣の形状も今までのそれとは変わっていた。魔力の刃はまだ発生させていないが、柄の部分と鍔が丁字の形状となっていたことから、今までの片刃の短剣ではなく、むしろ両刃の長剣といった拵えになっていた。

 魔力の刃を生み出すと、サネトの予想通り刃は両刃で、また長さも三ターファほどの、やはり長剣になっていた。重量が無いはずの魔力で形成された刃にもかかわらず、剣は肉厚で、どこか重厚感を放っていた。

「これで、一分くらいの出力か」

 以前の剣形態では、最大出力のおよそ三割程度で使うことが多かった。その程度あれば、十分ほどの戦闘に耐え、かつ有効な威力を得ることができたからだ。しかし今、その最大出力の僅か百分の一で、それと同等、あるいはそれ以上の威力が感じられた。サネトは、この状態ならば丸一日戦ったとしても魔力が尽きないとさえ思えた。

「およそ五割程度の出力なら、しばらく戦ったとしても、小康状態に陥るほどの魔力不足にはならない。一番調和がとれているのはその辺りだと思う。一応最大出力での解放も可能にはしたけど、あまりお勧めはしないよ。魔力と威力の効率が悪いからね」

「ありがとう。謝金は一応、一千万くらいなら払えるが、本当に不要なんだな?」

 サネトが一応レアケたちに、この改良費に関して問いかける。

「ええ、不要ですよ。貴方が我々に見せてくださったものは、万金の価値がありますから」

 レアケがそう言うと、幼さの残る愛らしい顔付きからは想像ができないほどの蠱惑的な笑みを見せた。その表情にサネトは少し誘惑されるような、それでいて恐ろしさも覚えた。

「ならお言葉に甘えて。友人を待たせてるので、これで失礼するよ」

 サネトは、レアケに恐れをなし、そそくさと宗匠たちの居城から立ち去って行った。

「……ふざけやがって」

 サネトが去った後の宗匠たちが立ち並ぶ部屋では、険悪な空気と低い声が支配していた。当然それを発していたのは、中央のレアケであった。

「全く何が魔工宗匠だ。揃いも揃って、二日も使って調べつくして分かったことは、『俺たちには再現不可能』ということだけだと?馬鹿どもが、大馬鹿どもが」

「レアケ……自分の事を棚に上げるのは感心しないよ」

 眉間に皺を寄せながら悪態をつくレアケを、ユヴェクはその後も諫め続けたが、レアケの憤りは数日にわたって続いたという。




「おーいリャージャ、帰ったぞ」

 サネトが宿に帰ると、不貞腐れた様子のリャージャが寝台に腰かけていた。

「全く、二日続けてどこ行ってたんだか」

「悪い悪い。これを作ってもらってたんだよ、魔工宗匠にな」

 そう言いながら、サネトは懐の双銃を取りだし、彼女に見せた。

「魔工宗匠?あいつら、ここにいるの?」

「ああ、どうやらここが本拠地らしい。この腕見せるって条件付きだったが、無料で良い武器作ってくれたよ」

 サネトが義手の右腕をとんとんと指で叩いた。

「大丈夫?ネーパットに知られたらまずいんじゃないの」

「大丈夫だろ、作ったのは誰か、どこで、いつ、その辺りを言うなとは言われたが、見せるな、とは言われてないからな」

 ここ最近ネーパットに対してやや畏怖に近いものを感じ始めているリャージャは、彼の行為が軽薄に思えた。しかしサネトも、考え無しで魔工宗匠に近づいたわけではなく、他にも目的があった。

「ふーん。ま、私は巻き込まないでよ。それで、サネト、その武器で、魔人は倒せそうなの?」

 リャージャはサネトの意図については深入りせず、本題の方へと話を切り替える。

「ああ、試してみんとわからんが、なんとかなりそうだぞ?」

「そ、それなら早速行こうか」

 自信を感じるサネトの言葉に、リャージャは少し無愛想な態度で返事し、自分の装備を準備し始めた。

 



 そして二人は、その翌日、万全の装備と共に、街外れの荒れ地、大都市<セレヴェト>の近隣でありながら、禁忌の<ミューン>大陸に最も近いために、同様に禁域指定されている<ウシャネプ>荒野へと繰り出した。その荒野はやはり人手は一切なく、魔獣たちが我が物顔で闊歩していた。

 人里と荒野を切り離さんとするような、大きな防壁を潜った先で、サネトとリャージャは前に来た時と同じように、極力魔獣を避けながら、目的地である荒野の果て、海の波が激しく打ち付けたことで荒々しく削れた断崖の中腹にぽっかりと空いた洞穴に辿り着いた。

 異界の入り口のように、暗く禍々しいその洞窟の中には、荒野のように魔獣たちは一切いなかった。その洞窟の最奥に潜む主には、本能しか持たぬ魔獣は近づかぬのだろう。

 魔人は自ら動くことは無い。しかしその圧倒的な魔力は、常に魔力に飢えながらも、生命の記憶有する魔獣にとって、恐怖の対象なのだ。

 だがリャージャとサネトは、そんな相手に向かって、いつもと変わらぬ足取りで近づいていく。足音を顰めることも、気配を忍ばせることもなく、ただ真っ直ぐ、力強く歩いていた。

 二人の視界に、暗い闇の中でさえ明るく輝く鎧が目に入る。先日見た時から、一切損なうことの無い光輝、それを纏うは魔人「偉大なるもの」。

 再び彼らは相まみえた。

「よう、魔人さんよ。この間の続きと行こうか」

 サネトの挑発的な言葉に対しても、魔人はやはり、一切反応を見せなかった。



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