世界政府略史
今より遡ること四五〇〇年前、我々の星最後の文明崩壊、未曽有の生命絶滅が生じた、第三次文明崩壊(新星界暦四九一五年、以下年号は新星界暦に準ずる)以降、我々は不安定な時代を経験することもあったが、文明の安定を維持してきた。また他の星では類を見ない、豊富な魔力資源を生かし、文明の水準を向上させることにも成功してきた。
しかし、生活の水準の向上に対して、我々の星の土地には、生命の栄えない、魔力の欠けた地、通称「漂白地」が徐々に増加していった。他の星とは異なり、季節が存在しないことや、元より多かった乾燥地帯などもあって、居住地の減少は、将来的に安定した生活が再び終わりを迎えるのではないか、と人々に不安を抱かせた。
更に不幸なことに、玄黄星では、「ユヴァート・ルペット戦争(九三三七年)」以降、ユヴァートによる星内の武力的な支配が始まり、また天藍星では、新神王が打ち出した「諸国征服(九三四五年)」が行われ始めた。こうした強引な星の統一を試みようとする、他星の風潮を危険視した、我ら紅玉の人々は、いずれ我々の星にも、そうした軍事的侵攻の手が及ぶのではないかと考えるようになった。
時を同じくして、大地漂白の進行と他星の軍国主義の台頭は、我々の星の政治体制に対して、疑問を投げかけることになる。紅玉星で支配階級を占めていた竜因たちだったが、彼らは常に世襲で王朝を受け継いでいた。更に求められる王の素質は竜因の継承の有無だけであり、政治的な才覚、人民への愛情は全く関係が無かった。居住可能地の減少と、迫りくる他星の危機によって生じた情勢の不安は、特に貧困層や農民の暮らしを破壊していき、困窮と飢餓が、瞬く間に紅玉星に広まっていった。
そんな折、政治家や魔工、学者たちが一堂に会して、将来の危機を、学術的、魔術的に検討する大会が開かれた。その大会では様々な見地から、今後の紅玉星の行く末、現状の問題について広く深く議論されたが、どの分野の専門家も、現状では、将来の成長は不可能、かつ現状維持でさえ半世紀と持たず、第四次紅玉文明崩壊に辿り着くと結論付けた。
その結果、その最悪の筋書きを回避する方法も検討された。その際に提案された改善案が、「竜因による世襲王政の廃止」と「国民皆土地所有」といったものであった。これらの解決案の成就と星の存続を信念として成立した国際改革派組織、それが「新星界連盟」、現「紅玉星統一世界政府」の前身組織である。
『紅玉星世界政府公報―世界政府略史―より』