歪なファンタジー
午睡から目を覚ました私は、寝ぼけ眼のままスマートフォンの通知欄に目を通した。殆どがSNSの通知だった。
「やれやれ、今日も顔のない奴らが好き勝手言ってるよ」
今日も小説サークルとその周辺はカオスだった。
マウントに次ぐマウント。アマチュアが書籍化作家を貶し、書籍化作家がアマチュアを貶す。社会的地位や実績の有無に関わらず、老若男女が入り乱れながら、互いの足を踏んづけあいながら、顔のない惨めな乞食達が狂乱の宴を繰り広げている。こんなことばかりやってないで自分がやるべき事をやれと言いたくなる。しかし──ある時、偶然そう思うに至ったのだが──これは彼らにとっては一種の創作行為なのだ。あの単調なメロディに脊髄反射しながらの、創作行為。惨めだったが、しかし、創作行為だとそう思うと、それ以上は何も言えなかった。
何故なら、私達に他人の創作を止める権利──法的に、道義的に反していなければ、の話だが──は与えられていないのだから。
ふと、真紀子からメッセージが届いた。復縁を迫る内容に私は、うんざりすると同時にこれが彼女の創作行為なのだと理解した。彼女は、男との関係を何年もかけて築き上げ、それを一夜で壊すのだ。それは、彼女の描いた絵もそうだった。
「もう、うんざりだ」
私は、そう呟きながらスマートフォンをゴミ箱に投げ入れた。
さよなら、顔のない連中よ、真紀子よ。私は、解放されたのだ、ひと足先に。