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スイセイ桜歌   作者: 五月 萌
太陽が歩く世界
9/108

9 リコヨーテへ


 水龍は血を流しながら、徐々に小さくなっていく。火龍から受けた傷が癒えていくようだ。

 太陽は周りを見渡す。フラッシュモブのようにクライスタル兵、リコヨーテ兵が集まって周りを占拠して、大きなオーケストラが完成していた。


 まだ火龍から身ぐるみを剥がしていないまま曲が終わる。

 火龍は炎を出し、息を吹き返してきた。尻尾の方だけ骨になっている。


「サウカぁ」


 水龍の鱗が剥がれ、人間の体が出てくる。

 サウカは意識がある。身長は百七十センチメートルほどあった。


「ずっと苦しかった、ありがとう」


 そういうサウカを桜歌の体をしたガウカが抱きしめる。肌は白く長い黒髪に黒い目をしている。体は裸だった。

 ローリはさっとインバネスコートを脱いで、サウカに渡した。

ローリは黒いシャツと黒いズボンを着ていた。


「サウカさん、ずっと囚われていたのか」

「三年前ガウカ姉さんが捕まってから、二年前に姉さんを助けに行こうとして捕まったんだ」


 サウカは涙目で周りの様子をうかがっている。


「まだ火龍が生きているわよ!」


 美亜は溢れんばかりの声を上げる。


「なんの曲にしよう?」


 太陽が聞くと同時にフェルニカ兵がトランペットから音を出し始める。


「おっと、この曲はいけない」


 ローリは口が早いか、手が速いか、ネニュファールの腕を掴んだ。

 この曲はジャズだった。

 リコヨーテ兵の様子がおかしい。ある人は狼とゴリラの混ざったような外見で、赤目と黒目のオッドアイになった。ある人はライオンのような顔立ちそしてやはり、オッドアイに変わる。リコヨーテ軍は蜘蛛の子を散らすように消えていった。


「すぐに逃げますわ。リコヨーテでおちあいましょう」

「わしとサウカもか?」

「当然ですわ。このホレス・シルバーのメタモルフォシス、半月は聞くと強制的に月影化しますのよ!」

「ふむ、絶対生きてまた会おうぞよ」


 ガウカのいっている間にも、残った半月のリコヨーテ兵は月影化している。そして、先ほどまで音を雑に出していた、フェルニカのチェリストはチェロを大きな斧にして、半月たちを切りかかっている。そして、その血が金貨に変わる。骸骨化している者もいた。


 ローリの姿がいたちのヒゲを生やしている様に変わり、ネニュファールも羽角が出始めている。

 四人は一気に逃げ出した。

 美亜がクラリネットでシの音をたてている。

ポーーーーーー!

そして美亜のもっているクラリネットが反対向きにすると、ベルに丸い金色の光ができていた。空にかざすと、火龍に雷を落とした。

グワアアアアア

 火龍はもう動かず、息の根を止めていた。体もだんだんと白骨化していく。


「おい、お前ら。せっかくの水龍の半月をよくも、人に戻したな! しかも連れていきやがって」


 ハウンドトゥース柄のマントを着た男が発した。身長は低く、肌黒く、おでこから鼻にかけて傷跡がある。


「んだと? てめーらこそ、可愛い娘ちゃんに拷問したりしたそうじゃないか? 今の曲だって、あぶり出しじゃねえか」と翔斗が反抗する。

「半月も月影も同じようなものだ。拷問して金貨を奪って何が悪い」

「そんな馬鹿げたこと言うな。好きで半月に生まれたわけじゃないかもしれんだろ」


 そう太陽は発言した。


「そうだよ、奪わなくてもいい生命もあるんだよ?」


 美優は呟いた。

 火龍の出した炎はすでに鎮火されていた。水を出す楽器、トロンボーンが、炎を消していた。さらに、火龍も骨だけに変わっていた。


「奪ってねえよ。殺せないんじゃなく、殺さないからなあ。くっくっく」

「あんた名前は?」

「人に名前を尋ねる時は自分から名乗れよ」

「俺は石井太陽だ。おまえは?」

「俺はジェイノ=ヒルビルズ、だ。なぜ名を聞いた?」

「それは、俺が、一生、お前を許さないからだ!」


 太陽の拳がジェイノの頬に当たって振り抜いた。

 殴られたジェイノは笑ってつばを吐くと、殴り返すために胸の前で握りこぶしを作った。

 しかし、その手は突如現れた美少女に押さえつけられた。


「全員やめろ! これ以上の問答はお互いにとって不毛。もういい加減にしてくれ。……僕の名はルフラン。ルフラン=アプリコット。太陽さん、許してやってくれ」


白髪をツインテールにした、太陽より頭一つ小さな女性が告げる。目は水色。ハウンドトゥース柄のリボンの髪留めを付けている。

ルフランに従ったのかフェルニカ兵は音をたてる者はいなくなった。


「半月も月影のようなものと言ったのを取り消せ」

「悪いが、こちらにも大義名分がある、昔の風習で。しかし、ジェイノ、君は彼の気持ちになれ。我々が取り入っていいという半月は、特例以外では生贄だけだ。殺生したりすると僕が許さない」

「ルフランさん、そうだな。ちょっとばかし調子に乗りすぎたな。悪かったよ」

「生贄?」

「リコヨーテ民は一年に一度一人、生贄をはらう代わりに、やたら半月を殺さない。例外はあるけれど。生贄は十年経てば開放している」

「それはつまり、生き殺しだろう?」

「リコヨーテ民の生贄の代わりに町中では半月でも見逃している。つまり外界以外では殺されない、こちらを攻撃しなければ捕まったりしない」

「ガウカという少女を知っているだろう?」

「ガウカ……? なぜ知ってるんだい?」


ルフランは口元をおさえて驚いたリアクションをした。


「俺の妹を体の中から懐柔しているんだ」

「彼女は開放するのはもう七年後だよ」

「待てない」

「それなら、三人新たな生贄を差し出してもらう」

「それは……、多分無茶だ」

「容姿、年齢、人種、性別、半月であること以外は関係ない」

「それなら聞くだけ聞いてみる。フェルニカに行くこと、もしくは外界で会うだろう。話はリコヨーテの王に聞いてからだ。皆、リコヨーテに向かうぞ」


 皆、箱や武楽器を消して、身軽になる。

 美優の箱の中の金貨の量は四分の三くらい溜まっていた。

(美優は何を願うのだろう?)

 太陽は幼い頃一緒に砂遊びやブランコ遊び、水風船を作って遊んだ記憶を思い出した。

(男の子の中に混じって遊んで、元気っ子だったな。リーダーシップがあるのは今も変わらないみたいだけど)

 太陽は美優の背中を見て、くすりと笑った。

 兵士長のルイはジャングル地帯と岩石地帯の端で待っていた。


「よう、太陽、日本は八時になるぞ」


 ルイはロケットペンダントのような時計を首から下げている。


「やばい、お母さんがそろそろ心配し始める頃だ。巻きで行きましょう」と美優は焦燥した。


岩石地帯。


 月影は美優に耳で判断しながら進んだ。


「この先、カラスの月影いるんだけど、どうする? 突っ切る?」

「この場合、俺は迂回ルート選択するぜ」

「そうね! 急がば回れっていうしね!」と美亜。

「ああ、わかったよ。右から来ているのか? 美優」

「西の方角じゃなくて、東の方角からまわっていこう」


皆、走って、汗がだくだくだ。


「羊の月影の声が」と美優は耳に手を当てていた。

「どこだ?」

「真ん前。結構近づいてきてる」

「もう、倒すしかないじゃない」


 美亜は舌打ち混じりに檄を飛ばす。


 太陽はポケットに手を突っ込んで、武楽器の一部に触れた。目の前に、黒と白の入り混じったものを捉える。

 目が赤く、顔が黒い。サフォーク種の羊の月影だ。まだ距離があるため、大きさはわからない。


「ウォレスト」


 美優がトランペットから炎を出した。


「え?」


 月影に炎が当たる寸前に消えた。

ヴォオオオオオ

 大きな唸り声とともに、太陽は空気で岩に叩きつけられる。

 皆も吹き飛ばされていく。


「太陽、お前の武楽器ならいける!」と翔斗は吹き飛びながら叫んだ。


「ウォレット・ストリングス」


 太陽はイメージした、全方向からの攻撃、音もなく近寄る感覚。

 ゆっくりグリッサンド奏法をする。たくさんの針をピアノの鍵盤から出す。

 今度は逆方向にグリッサンド奏法をした。

 大きくなった針が月影まで音速で飛んでいった。

ギャアアアアア

 月影があえいだそばから、またすごい風が太陽達を襲う。


 月影のその姿はハリネズミさながらだ。ごくわずか、針が数える程度の攻撃だった。

 太陽は風貌からニャロベエのことを思い出した。

(こんなふうに生き物を殺していいのか、しかし、月影は人を襲う、仕方のないことだ)

 風よけに岩の後ろから策を練る。

 そんな時だった。

 月影に気取られていて、後ろを確認していなかった。

ワンワン

 白色と茶色の混ざった犬が突如現れた。その大型犬は尻尾を振りながら、月影に近づいてゆく。


「なんでこんなところに?」


 太陽は不思議がった。

メエエエエエエ

 血は争えないのか、月影は逃げる姿勢を取って、風にのっていった。

『まて!』というようにきなこは追いかけていく。

(さすが牧羊犬……。いや、まて!)


「きなこ!」


 太陽は必死になって叫んだ。


「平気だ」


 後ろにいたのはバイト先の店長の盛岡仁(もりおかじん)だった。白髪交じりの初老の男で全体的にみて、四角い顔が特徴である。箱から出したブルースハープを片手に、両手を添えながら口に当てて弾き出した。

 口笛吹きと犬だった。

 きなこは瞬間移動してきたかのように、どこからともなくスタスタ歩いてきた。


「店長、どうしてこんなところにいるんですか?」

「たまたま、オバアの墓に会いに行こうと思ってな。三回忌だ」

「オバアって、まさか半月ですか?」

「いや、普通の人だよ」

「これからリコヨーテまで行くんですけど」

「俺もついていくよ。リコヨーテに眠っているからね。オバアは」

「店長、ご無沙汰しております」と遥。

「ああ、最近あってなかったね。元気だったか?」

「それはもう。娘が反抗期で大変ですよ」

「お母さん、やめてよ」


 少し歩くと、砂漠のような砂浜地帯についた。


「すぐそこよ」


二、三分歩いたところで美優は言った。

 ドラゴンのでかい骨が真正面から、太陽達は見据えている。


「どこにあるんだよ」

「ウォレスト」


 美優はスーザの星条旗よ永遠なれを吹き出した。

 つられたアスもドラムを叩く。

 仁も釣られたように箱から出した、ピッコロの、ソロの部分を気持ちよさげに吹ききる。

 ドラゴンの口があんぐり開いた。太陽のくちも同じ様に開く。


 ドラゴンの口の中は階段になっている。一人がやっと通れるくらいのスペースである。中は暗いが昼間のような明るさもあり、そこまで、見えないほどではない。

 入ってみると遠くに蛍光灯が足元についているようだった。

 緩やかな螺旋階段を降りていく。

 太陽は上方向のドラゴンの口がひとりでに閉まったことに驚いた。

(科学と魔法の融合だ)

 太陽は広々とした空間に躍り出た。雪のように白い世界に舞い降りたのだった。

 寒くはないが雪の結晶が舞い降りて、地面に溶けていく。

 大きな柱が何本もあり、この場を支え、守っている。かまくら状の家。大きなデパートのような、日本風味の建物。瓦を使った屋根の日本庭園さえある家。ビルも遠くに見える。

 小さな体や顔を葉っぱで覆われた精霊が周りをついてまわる。

 道行く人々が珍しそうに太陽達を見る。しかし、太陽にとっては彼らのほうが珍しかった。猫耳に猫のしっぽをつけたアーガイルチェックの服を身に着けた猫のような人や、カエルの顔をした人間などなど、大勢の人とすれ違った。車も走っていた。


「お兄さん達新顔だね」


 火を吐く小さなドラゴンの風味を帯びた男の子がフレンドリーに話しかけてくる。片目の赤い半月だ。アーガイルチェックの首輪をつけている。全体的に濃い緑の格好で、マントから尻尾がのぞいている。


「城のあるところまで分かる人いるか?」

「まっすぐ行くだけよ、でも水で囲まれているから飛べる人がほしいわね」

「しょうがない、女王の住んでるところまで案内してくれないか?」


 太陽はドラゴンの半月の少年に声をかけた。


「手当といいますか、茶代といいますか」

「金だな。パース・ストリングス」


 太陽は手を小さな箱に入れ三枚ほど金貨を取り出した。そしてその半月に手渡した。


「うわーん! 少ないよお、これでこき使うなんて、しくしく」

「なんだよ太陽ってケチね」


美亜は太陽を見て含み笑いする。


「お前、誰がケチだ」

「いいから、ちょっと黙ってて。パース」


 美優は呆れ顔になりながら箱を出した。


「これは金貨。こっちは君に似合いそうな腕輪だよ」


 金貨を米俵ほどの金貨に、淡く光る赤い腕輪を渡した。石座にこれまた赤い宝石がついている。


「パース」

 半月のドラゴン少年は箱に金貨を入れていく。お米を精米するような異質の光景だった。

「わるいねえ、見て。似合う?」

 そうして、ドラゴン少年は嬉しそうな顔で聞いてくる。小さな手にはめた腕輪を見せてくる。


「はいはい、似合ってますよ」


 太陽は棒読みで生返事をした。


「あんなに金貨あげて大丈夫なのか?」


 美優に太陽は尋ねた。


「月影、約一狩り分に相当するけど、平気平気。こういう場合は気前良く払わないとね」


 美優はあっけらかんとした。


「私は美優。君の名前は?」

「ササと申します」

「道案内よろしく」

 

 ササはジャンプすると、翼を広げて飛び出した。

 道を少し外れ、砂利の道のりを進む。二人ようやくすれ違いそうな通れそうな狭い道だ。少し進んだところで、また広場に出る。どうやら近道をしているようだ。


「ここだ」


 水堀で囲まれた、日本のお城を模した城のパノラマが広がっていた。城は屋根瓦が黒く、それに唐破風だ。向こう側はハナミズキを始め、多種多様な花が咲いている。

「イタチ山城といいますね、はい」

 ササはそう言って、ニコニコと微笑んだ。

 太陽はこれは日本の犬山城のパクリではないかと考える。

「水堀はどうやって渡ればいいのよ?」と美亜が聞く。

「まあ? チップたくさんもらったし、僕がなんとかしてやる、ありがたく思えよ」


 ササは小さな翼を広げて一度高く飛び上がると、滑空しながら水を弾いて、進んだ。


「太陽、あいつ帰ってきたら殴ってもいいか?」と翔斗がぼやいた。

「あの子の親に殺されるぞ?」


 こうして城門を渡し船で通過した。ササは自らの住む城下町へ帰っていった。

 渡船場につくと皆降りていった。外壁が許可の下りない侵入者を断念させるような石垣だ。

 太陽は押されるように城の中に入っていく。何人かの使用人と合流した。

 土足は厳禁のようなので、スリッパを用意されていた。中はとても涼しい。

 天守閣を登った。やがて「国王と女王の間だ」と使いの者が言った。

 太陽は緊張して両開きの扉を通った。


「ええ?」

「さっきの」

「まさか」


 皆口々にいった。


「やあ、待っていたよ。僕の本当の名はローレライ=スターリングシルバー。陛下というものかな」


「ロー」りと口に出そうとした太陽だったが、いつの間にか隣りにいたネニュファールが前に出て、阻まれた。


「陛下に何かごようですか?」

「桜歌はどこだよ」

「彼らは僕の友人たちだ、案内はいらない。下がってもらえるか?」


 ローリは小さな王冠をかぶり、アーガイルチェックの青いマント、青い様相だ。


「ははあ。お前たちくれぐれも失礼のないようにな」


 念を押すと、案内人とネニュファールは下がっていった。

「なんだお前、桜歌ちゃんと婚約するつもりなのか? このロリコン野郎!」と、翔斗が食って掛かってきた。


「君、なにか誤解しているようだが。彼女は僕が選んだ人ではなく、母上など、大人たちの勝手な都合で婚姻されたわけだが、それも桜歌さんではなく、桜歌さんにとてもそっくりなガウカさんに」

「翔斗には後できつく言っておきます」

「まあその話は置いといて、桜歌さんなら疲れて、寝室で寝てるよ。ガウカは太陽が決めた時間に出るように尽くすと言っていたよ。早くこの城の庭園にある地球に帰る大樹の切り株で帰ることだね」


「桜歌に会わせてくれますか?」

「ああ、おいで」


 ローリは二台ある玉座の片方から立ち上がる。そして小さな声を出す。


「それから、僕のことだけど、この城にいる時は、陛下と呼ぶのだよ。こんなことは、僕にとって取るに足りないことだけど、周りの皆がうるさくてね。口の聞き方にも気をつけて」

「陛下、わかりましたよ」部屋を出て西側へ向かう。

「僕は元々の名のローレライという名が嫌いなんだ。美しい歌声で舟人を誘惑し、破滅させるという伝説の魔女の名と同じだから。父上や母上はローレライと呼ばれても逆らえないけれどね。そうだ、これから魔法曲で桜歌の分身を作らせてもらおう。寝室は完全防音だから聞かれまい」

「そうなんですね」


 太陽が返事をすると、すぐに寝室に付いた。甲冑や剣が防弾ガラスのようなガラスの対極に飾られている。畳が床一面に敷き詰められていた。

 太陽は畳の縁をふまないように気をつける。

 桜歌は高級布団をかけられスヤスヤと眠っていた。


「髪の毛一本使うよ」


 ローリは桜歌の肩についた抜け毛を指で取り、布団のないところに、うやうやしく置いた。


「ウォレ」

「何を弾くのですか?」

「バッハの、目覚めよと呼ぶ声あり」

「俺も弾きます。ウォレット・ストリングス」

「分身を作るイメージで弾くんだよ?」

「はい」


 曲が終わると瞬時に桜歌から、一本の髪の毛のある方へ不思議な光線が注がれ、裸の桜歌が横たわっていた。

 ローリは自分のきているマントを優しく桜歌に被せる。


「こっちが分身ですよね?」

「うん、分身の消える期間は二四時間後。だが、この髪の毛一本でいくらでも分身は作れる」

 太陽はローリに向かい頷いた。

「それにしても、女王そっくりだ」とローリが言った。

「桜歌が?」

「お兄ちゃん」


 布団にいる桜歌は上半身を起き上がらせた。


「実は桜歌はね、ガウカになっているときも夢を見るように見えているの。投げ飛ばしてごめんね」

「ネニュファール、桜歌さんにお召し物を」

「ここは防音じゃないのか」

「おっと、そうだったな。はっはっは」


 ローリは室内から出るとネニュファールに先程と同じことを言った。


「分身は喋るのか?」

「ああ、中身に死んでいった誰かの魂が入るからね」

「バレるんじゃ?」

「父上も母上も興味がないと元から口を利かない。分身には僕が魔法曲か会話で静かにさせるから」

「陛下、お召し物をおもちいたしました」

「こちらにいる分身を着替えさせてやってくれ」

 ローリは横たわる桜歌の分身に手のひらを向けた。

「はい」

「ここはネニュファールがなんとかするから、中庭から日本へ帰りたまえ。僕が送ってやる」

「はい、陛下」


「もっと早く王ということを知らせてくれればよかったんですけど」と美亜は勝ち気な性格で物申す。

「それいうと、ローリと呼ぶのに抵抗を感じるだろうね」

「まあ、そうですけど」

「時々、城から出て、狩りをしているところであったら、またローリと呼んでくれていいからね」


 ローリが話していて、太陽は目の前に赤くて大きな噴水のような結界が見えた。


「待ってください。陛下に聞きたいことがあります」


太陽はガウカの使命を思い出してローリに向き直った。


「ガウカを開放するには三人の生贄が必要らしいのです」

「残念ながら三人の生贄は用意することはできない」

「じゃあガウカは七年待つしかないのか?」

「フェルニカ兵にあまり知られていない透明になる魔法曲がある。フェルニカに突撃するのに役立つだろう」

「それは?」

「シング・シング・シングだ」

「私、知っているよ、お父さんから聞いたことある、後で詳しく教えるね」

 美優は小さめな声で呟いた。

「陛下、そろそろ時間がおしております」


兜をかぶった兵士は忙しそうに喋りながら、近づいてきた。

「じゃあ、また後でお話しようか」

 ローリは手を差し出した。


「そういえばサウカさんは?」


 太陽はその温かい手を握った。


「町の診療所にいるよ。なんとか皆、無事みたいだね」

「あ、ありがとうございました」


 太陽も皆も一斉に感謝を述べた。


「店長ここでお別れですね」

「またシフト被った時はよろぴこ」


 美亜と遥とルイがまず入っていき、美優、翔斗、桜歌、アス、最後に太陽が中に入る。皆、一瞬体がバチッとする。八人が入っても広々としている。そして切り株が目の前にある。

グリーンスリーブスの各、音が太陽の耳の中を刺激する。太陽も思い切りピアノに当たった。

 回りが斜めに赤く回転し始める。

 周りが晴れて来た。

 美優の家の裏には翔斗と美優と桜歌と太陽だけがいた。皆、彗星証とリボンを取ったりしまったリしている。


「アスと美亜と遥さんとルイ兵士長は?」

「あの四人なら違うところからジムノペディで森にきたっぽいね」

「ふうん、どこから?」

「それは多分美亜の家の近くだね」

「今何時だろう?」

「九時過ぎね」

「桜歌、帰ろっか」


 美優の家の前で解散した。


「家に帰ったら怒られるかな」

「たぶん気にしてないと思うよ。そういや、ガウカと内面で話できるのか?」

「少しはね、でも精神をコントロールする時は声をかける様に言ってるから、もう無断では外出するのやめるよ」

「学校とかでも気をつけるんだぞ」

「桜歌、大丈夫だよ」


 少し夜風に当たって帰宅した。

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