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8 月影ハチスアリとの戦い

 目の前五十メートル前に不思議な生物がいた。大きなアリの頭に何かが寄生している。黒く見えるその何かは砂埃にも見える。


「ハチスアリだね、目撃情報がでていたよ。ギルドに」


 ローリはまっすぐした目で話す。

 赤い目をしたハチは手のひらくらいの大きさだろうか?

大きな赤目のアリの周りを飛んでいる。

「要は月影のアリやもしくは他の月影が月影のハチに寄生され、体を操作されているんですわ」

「あれじゃあ、倒せねえ、どうしよう」

「僕が倒しに行く。アリさえ動きを止めれば、あとはハチを一匹づつ屠ればいいだろうね」

「お断りします、ここは皆で逃げましょう?」

「それだと、また誰かが犠牲になるだろう。行ってくるよ」


 ローリは何も言わずに武楽器をだした、そして柄を持ってひくと剣と盾に変わった。走って、ハチスアリに近づく。


「ああああっローリ様、待ってください。ウォレ」


 ネニュファールはニッケルハルパをライフルに変えて、撃つのだが、アリの持つ甲殻に弾かれる。


「硬いですわね。どういたしましょう」

「そうだ! ウォレット・ストリングス」


太陽は閃いた。

(弾くのはこれしか無い)

「熊ん蜂の飛行ですわね」


 クマバチが何もないところから出現する。

ブブブブブブ


「まだその手が残ってらしたわ!」

「いいか、クマバチはメスのハチだけ出すんだぞ。オスには針がないから」

「そうですの?」

「手を休めるな。ローリを助けたいんだろ」

「わかってますわ」


 ネニュファールは小気味よくスタッカートを使う。


 ローリは太陽達を見ている。クマバチが月影のハチにまで届いたようだ。

 やがて数で押された月影のハチは霧散していった。曲も終盤だ。


 その後、ローリはアリの各関節に剣を刺し、透明な液体を体と顔に浴びていた。蜂の子も全て斬り殺した。赤紫の返り血が顔に降りかかっている。アリもハチも力尽きたのを見計らって、バッハのG線上のアリアを弾き始めた。

 太陽とネニュファールもローリに近づき、共に演奏をした。

 ローリに付いていた赤紫色の血も、透明な液体も金貨や銀貨、装飾品などに変わり箱に入った。

ハチスアリはアシナガバチの巣のように、お椀型でアリの後頭部が巣になっていた。


「やあ、助かったよ」

「目には目をハチにはハチをってやつだ」

「ローリ様、戦果は夜、頂戴いたします」

「ネニュファールの提案ではないだろう。太陽君、君はすごい頭の持ち主だ」


 ローリは頭を振ると、太陽を褒め称えた。


 太陽は少し赤面した。


 ネニュファールはむくれた表情になったが、すぐに目を細めてローリを愛おしそうに見つめた。


「お、俺が?」

「僕はね、とある某探偵に憧れていてね、バイオリンをはじめたり、推理小説を読み漁ったり、冒険したりしている。そうなのだが、君は僕よりずっと頭がいいようだ」

「でも、俺いきなりリコヨーテ付近の岩石地帯に来ちゃったり他力本願だったりするけど?」

「そこで誰かに会える運もすごいよ。君はついてる」

「そうかなあ?」

 

 太陽は外骨格だけになった月影のアリを見上げた。


「ローリ様への言葉遣いをお直しくださる? 太陽」


 ネニュファールの言葉に気を荒立てた太陽は当てつけのように言い返す。


「あんたにどうして命令されなきゃなんないんだ」

「わたくしはネニュファールですわ。こちらの高貴なお方がローリ様ですわ」

「ネニュファール、いいんだ。好きにさせてやってくれ」

「これからどこに行く予定だったんだ?」

「ただ、月影狩りに行っているだけですわ」

「じゃあ、これからリコヨーテに行くの付き合ってくれるか?」

「月影狩りに行っていたのは本当だが、まだメインの月影を倒していないからすまないができない」

「メインの?」

「ここリコヨーテの周辺ではなく、森の方だ。火龍による山火事で皆、苦しい思いをされている。木が全て燃えてしまえば、皆酸欠で死んでゆくだろうね、この世界は緑のある場所が二つしか無い世界だから」


「俺にできること無いのか? 俺もこの世界の人が死んでいくのは見たくない」

「じゃあ、逆についてきてもらえるかい?」

「ああ、わかったよ」

「僕らの戦力が大幅に上がるようだよ。それならここまで来たかいがあったよ」


 雑木林が見えてきた。


「ところで、半月って、人を食わないのか?」

「僕は人を襲わないように定期的に少量の人の血を飲んでる。飲まなくても襲わない体質の人もいるよ」

 ローリは箱から方位磁針を取り出した。

「僕の夢はこのそらとぶ大陸を、地球に落として、日本のような安全な国にしたい。それは武楽器を使えない人を逃がすためだ。月影は夜降るから」

「そんなことして何になるんだよ」

「月影と、狩る者だけをこの大陸に集めて一網打尽にし、月影と関係ない人々を守りたいだけさ」


 その時、見知った顔が木の陰から出てきた。


「あれ〜。たいよーじゃないのよ!」言葉を発したのは美亜。ギンガムチェックのネクタイだ。


「太陽! 探したよ。まったくもうどこ行ったか心配したよ」と、喋りこむのは美優だ。


「おい、太陽、お前空気読んで俺のハーレム状態を返せよ!」そして、翔斗であった。更に後ろにはアス。それと、遥。


「お兄ちゃん」

 最後に出てきたのは桜歌だった。


「本当に桜歌なのか?」

 太陽は桜歌の前にひざまずく。

 赤い色の服だったはずが、白と緑色のワンピースを着ている桜歌は頷いた。頭には魔法使いのような三角帽子を被っている。三角帽子のリボンはアーガイルチェック柄だ。耳に彗星証も付いている。

「桜歌の中にね、液体状の生物が入ってきてね、体を渡せって。もう一つのコントラバスが弾ける人格はガウカというの。桜歌もガウカに強制的になってコントラバス弾けるようになったの。フェルニカにある身体を救うことと交換に。今ね、龍がね、戦っていて、仲間を探してたの」

 太陽は桜歌を抱きしめた。ふんわりした猫っ毛が横顔に当たる。


「ほおう、良かった太陽君、無駄足にならなくて」


 ローリはそう言うと安堵のため息を吐いた。


「本当に良かった、ありがとうローリ。さっき俺が断ってたら会えなかったかもしれない」

 太陽は声を出しながら桜歌の顔を見た。一瞬、桜歌の顔が歪んだように見えた。不自然に口を開く。


「やれやれ、わしは長い間仮宿を探していたのじゃ。テイアでは人がよく死ぬ、箱の満杯になったときの願い石の使いようはやれこいつを生き返らせてほしいだの、不老不死だの様々じゃ。桜歌が死んでも新しい仮宿を探せばいいが、この体は使いやすい」

「お前、桜歌の体から出ていけ!」

「桜歌が言っただろう。フェルニカの地下に幽閉されたわしの本体の体がほしいのじゃ。今のわしは分身じゃ」


「今度は体を見つけて、脱出させろというのか? 身勝手だな」

「言うことを聞いてくれれば、体は返さぬがそちらの言うことは聞いてやってもいいんじゃぞ?」

「ガウカか、お前桜歌に無理させるなよ。しばらくは生かしておいてもいいけど」

「口を気をつけた方が桜歌のためじゃぞ。わしはいつでも桜歌を殺れるんじゃ」

「わーかりましたよ、ところで、城の方は大丈夫なのか?」

「わしが抜け出しても、気づかないんじゃ。寝室にはローリとわし、ネニュファールしか入らないから。あ、じゃがイレギュラーなことが起きれば他の兵士やメイドや執事も入るがな」

「よおし、じゃあ、今、俺がやれることはガウカの体を取り戻すことだ。ついでに金を戦って稼ぐことだ。美優、テイアからお金って持ち出せないのか?」

「箱が出せないから、武楽器に百万貯められるからその分は持って帰れるよ。毎回持って帰れば、いくらでもお金貯まるよ。ちなみに、なんでそんなお金を持っているか疑われても、テイアからの送金用の宝くじがあるの。宝くじが当たったことにして、地球では平穏に暮らせるよ」


「なるほどな」

「あの、太陽くん。私の旦那ももうすぐくるからねー」


美亜の母親の遥が割り込んできた。


「旦那さん、クライスタルのルイ兵士長じゃないですか?」

「あら。やっぱり知ってるんだね」

「太陽、学校ではありがと」


 今度はアスが声をかけた。ギンガムチェックのリボンを首に吊るしていて、女子高校生らしいファッションをしている。


「あ、おう」

「ボカロが好きなんだってな、アス」


 翔斗が会話に混ざる。


「翔斗、お前さんがテイアにいて一番ビックリしてるんだが」

「風神さんの行くところに俺あり! だからなー」

「知らねーよ」

「オーケストラになるのか全員で」と翔斗は見回した。

「美亜と遥さんは?」

「美亜はクラリネットで私がバイオリンかな、旦那のルイがチューバ」


 遥は口元を素早く動かした。


「森ですでに戦っている人達がいるから、オケにはなると思う」


 美優は呟いた。


「ローリ様は鼻がききますの」

「私は耳が良いけど」

「これなら確実に火竜をぶっ殺せるわね」と美亜。

「言葉が悪いぞ美亜、ヒル予防に皆つけて、これ虫除けスプレー、塩水もあるから」


 遥はこれから森に入ろうとしている太陽達に手渡した。ローリとネニュファールにも行き渡る。


 太陽一行は森の中へ足を踏み入れた。

 焦げ臭い匂いが鼻をツンと刺す。

 ローリはあまりの異臭にハンカチを鼻につけている。

 声もする。龍が何かと戦っている声だ。

 美優とノトサウルスが戦っていた場所であった。

 すでに人が何十人かいる。

 太陽は初めて見る国のイメージカラー、ハウンドトゥース柄に気づく。


「フェルニカの兵か」


 美優と翔斗が背になってローリ、ネニュファール、桜歌を守る。

 フェルニカ兵は十人位で戦況をみている。チェリストが多く、バイオリニストも数名いた。何か曲にならない何かをひこうとして皆、ばらばらの音を出している。

 焼かれて死んだ人間もいるようで混乱状態だ。森の奥にもっとたくさんフェルニカ兵がいる。

 太陽は空中、火龍が戦っている現場を目撃する。蛇の様に絡まり合う二体。火龍は十メートルはある。火龍は黒く赤い、まるで爆発している火山のようだ。水を放つ水龍の姿もあった。水龍は白色と緑色の鱗を持っている。炎がそこかしこに飛散している。その炎を消すように水をまいているように水龍は活躍していた。水龍のほうが大きく十二メートルはある。


 二匹は空を飛びながら、噛みつきあってる。不思議なことに水龍の瞳は赤色と黒色だ。


「食い合っているのか?」


 太陽は水龍の方は半月、火龍の方は月影とわかった。


「あの水龍、わしの妹のサウカじゃ。おそらくフェルニカ兵に駆り出されたのだろう」

「ガウカ、お前は戦えないのか」

「バカをいえ、わしが力を使って半月の龍になったとしてもあの龍の三分の一スケールの大きさになることこの上ない。なぜなら、わしは分身だからじゃ」

「俺たちができるのは援護奏だ」


 翔斗が苦しそうに提言した。


「でも、サウカは血を流している、これじゃあサウカまで金貨に変わって、死んじゃうよ」


 美優が珍しく嘆いた。


「大丈夫さ。主よ人の望みの喜びよ、なら血を送ることができ、体も人間に戻すことができる」


 ローリは慈愛に溢れた表情をした。


「やるしかないんじゃ」

「皆、頼む。ウォレット・ストリングス、パース・ストリングス」


 太陽はピアノを出した。


 各々、楽器を出す。


「やめろ、お前ら――」


 フェルニカ兵の一人が、太陽のいる方へ向かってきた。


 火龍の真下、叩きつけられた水龍に押しつぶされて死んだ。


 太陽はピアノの鍵盤を叩く。


「俺らも協奏するぞ」とクライスタル兵。

 紫色の血が二体から引っ張られる様に溢れ出てくる。

 集められて舞う金貨が赤い鮮血に変わる。鮮血は水龍へ流れていく。

 太陽が様子をうかがう様に、上を見た瞬間、火の気が上がった。


「パース!」

 美優の箱が間一髪、太陽を守った。

「ありがと!」


「いいから集中して」


 太陽がグリッサンド奏法をした瞬間、大きく太い針みたいなものが太陽のピアノの周りに現れた。ハーモニカと同じくらいの大きさと太さだ。

(これは俺の武楽器魔法だ)

 太陽は察知すると攻撃対象を絞った。

(火龍、お前だ!)

 また、反対方向にグリッサンド奏法をすると針が飛んでいった。

グオオオオオオオ

 針が火龍の顔面、瞳を突き破った。まるで金箔を神様がちぎっているように金貨などが降ってくる。


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